「月末に買って月初に売れば勝ちやすい」――古くから語られる月またぎアノマリーです。機関投資家の月末リバランスや積立買付といった理由もセットで語られますが、日本株全体で成立するのかを数字で確かめた例は意外なほど見かけません。東証全銘柄26年分で検証します。
検証は2000年1月〜2026年7月の全銘柄日足 約2,394万行(6,849銘柄・319ヶ月)。月末5営業日(M-5〜M-1)と月初5営業日(M+1〜M+5)の平均日次リターンを月中と比較し、「月末3営業日前の終値で買い、翌月3営業日目の終値で売る」ルールを回した1,128,292トレードも集計しました。
結論から。月末が強いのは事実でした。月末5営業日の平均は+0.1232%で月中平均+0.0384%の約3.2倍、ピークの月末3営業日前は+0.1763%・勝率47.60%と全位置で最強。ところが月初は真逆で、月初5営業日の平均は+0.0187%と月中を下回り、月初第3営業日は-0.1064%・勝率42.89%と最弱でした。
戦略全体では平均+0.2715%・勝率48.89%。月中に同じ6営業日を持った+0.2133%をわずか0.0582%ポイント上回るだけで、売買コストを引けば旨味は残りません。月別では1月初売り+1.97%に対し8月初売り-1.57%と正反対、年別では直近3年が連続マイナスでした。
1.検証ルール
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検証対象:東証全銘柄(売買が成立した6,849銘柄)
検証期間:2000年1月4日〜2026年7月31日(6,513営業日・319ヶ月)
対象データ:終値・出来高が有効な約2,394万行
戦略トレード数:1,128,292件
【営業日位置の定義】
- M-1=月の最終営業日、M-2=その1営業日前、…M-5=月末5営業日前
- M+1=翌月の第1営業日、…M+5=第5営業日。月中=それ以外の全営業日(M+6〜M-6)で比較のベースライン
- 暦日でなく営業日で数えるため、土日祝に左右されません
【月またぎ戦略の定義】
- 月末3営業日前(M-3)終値買い → 翌月月初3営業日目(M+3)終値売り(保有6営業日=日次リターン5本ぶん)
- 比較対象:月中に同じ6営業日を保有した5,832,380件(+0.2133%・勝率48.47%)
- 勝率=プラスだった割合。手数料・税金・スリッページ控除前の数値です
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2.検証結果
(1) 営業日位置別リターン――月末は強く、月初第3営業日が最弱
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約1,138万サンプルを営業日位置で切り分けた結果です。月末側(M-5〜M-1)は5日すべてが月中平均+0.0384%を上回りました。平均は+0.1232%で月中の約3.2倍、ピークは月末3営業日前の+0.1763%(月中の4.6倍)です。
問題は月初です。第1営業日は+0.0987%と月中を上回るものの、第2営業日で+0.0458%まで失速し、第3営業日は-0.1064%・勝率42.89%と10位置で最悪。第5営業日も-0.0274%とマイナスで、月初5営業日の平均は+0.0187%=月中の0.49倍。「月初」はむしろ月中より弱いのです。
勝率がどの位置でも5割を下回るのは、個別株の日次リターンが右に歪んだ分布だから。M-3の47.60%は弱いのではなく、月中の44.91%より2.69ポイント高いという相対比較に意味があります。
(2) 年別推移――アノマリーは減衰している
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実際に売買した成績です。全期間1,128,292トレードで平均+0.2715%・勝率48.89%、プラスの年が16年でマイナスが11年。勝ち越してはいますが時系列では明らかな劣化が見て取れます。2000〜2012年の13年平均+0.5421%に対し2013〜2026年は+0.0701%と約8分の1。直近も2024年-1.37%・2025年-0.26%・2026年-0.05%と3年連続マイナスです。
そして最も重要なのが月中との比較です。同じ6営業日を月中に保有した5,832,380件の平均は+0.2133%。戦略との差はわずか0.0582%ポイント(1.27倍)です。月末があれだけ強いのに優位が薄い理由は明快で、保有最終日のM+3(-0.1064%)が足を引っ張るから。日次を単純合算した理論値は+0.2957%ですが、M+2終値で手仕舞えば+0.4021%相当まで伸びます。
(3) 完全データ表①:営業日位置別リターン
| 位置 | 内容 | 平均日次リターン | 勝率 | サンプル数 |
|---|---|---|---|---|
| M-5 | 月末5日前 | +0.1011% | 46.34% | 1,152,934 |
| M-4 | 月末4日前 | +0.0808% | 45.66% | 1,152,923 |
| M-3 | 月末3日前(買い) | +0.1763% | 47.60% | 1,142,295 |
| M-2 | 月末2日前 | +0.1190% | 46.56% | 1,135,144 |
| M-1 | 月末最終日 | +0.1386% | 46.38% | 1,134,992 |
| M+1 | 月初1日目 | +0.0987% | 46.39% | 1,127,488 |
| M+2 | 月初2日目 | +0.0458% | 44.86% | 1,133,727 |
| M+3 | 月初3日目(売り) | -0.1064% | 42.89% | 1,139,172 |
| M+4 | 月初4日目 | +0.0828% | 45.78% | 1,134,949 |
| M+5 | 月初5日目 | -0.0274% | 43.62% | 1,132,746 |
| 月中 | 【参考】M+6〜M-6 | +0.0384% | 44.91% | 11,855,412 |
(4) 完全データ表②:またぎ先の月別成績
どの月をまたぐかで結果はまるで違います。プラスは7ヶ月、マイナスは5ヶ月。最強は1月初売り(12月末買い)の+1.9659%・勝率62.76%、最弱は8月初売りの-1.5687%で、差3.53%ポイントは全期間平均の13倍以上です。
| またぎ先の月 | 1トレード平均 | 勝率 | トレード数 |
|---|---|---|---|
| 12月末→1月初 | +1.9659% | 62.76% | 93,608 |
| 1月末→2月初 | +0.0801% | 46.98% | 95,760 |
| 2月末→3月初 | -0.0733% | 47.35% | 96,726 |
| 3月末→4月初 | -0.7212% | 40.66% | 95,758 |
| 4月末→5月初 | +0.7594% | 53.97% | 97,067 |
| 5月末→6月初 | +0.8052% | 53.48% | 95,579 |
| 6月末→7月初 | +1.1755% | 55.31% | 96,569 |
| 7月末→8月初 | -1.5687% | 36.86% | 90,810 |
| 8月末→9月初 | -0.0712% | 46.32% | 90,909 |
| 9月末→10月初 | -0.8605% | 38.72% | 91,413 |
| 10月末→11月初 | +0.8535% | 51.66% | 91,448 |
| 11月末→12月初 | +0.8212% | 51.80% | 92,645 |
| 12ヶ月合計 | +0.2715% | 48.89% | 1,128,292 |
3.なぜ月末は強く、月初第3営業日は弱いのか
「月末が強い」こと自体は需給で説明がつきます。問題は月初側の失速です。
- 機関投資家・年金の月末リバランス:多くの運用機関は月末を基準日に資産配分を調整し、指数連動の運用は資金流入があれば値段を選ばず買い付けます。M-5〜M-1の5日すべてが月中平均を上回る背景には、この定例フローがあるのでしょう。
- 給与日・積立投資の資金流入:給与支給後の積立買付は月末から月初にかけて約定します。M+1が+0.0987%と月中平均を上回るのは、この新規資金で説明できます。
- 月初第3営業日で買い需要が枯れる:定例の買いは月初数日で一巡し、月末に買われた分の反動売りが残ります。M+2で+0.0458%まで鈍りM+3で-0.1064%・勝率42.89%へ転落する段差が、需給の交代点でしょう。
- 8月初は決算発表と重なる:8月初売り(7月末買い)が-1.5687%・勝率36.86%と最弱なのは、第1四半期決算が集中し個別材料が需給を上回るためでしょう。10月初・4月初も決算期と重なります。
- 1月初の突出は年またぎ特有の需給:1月初売りだけが+1.9659%・勝率62.76%と別格です。年末の節税売りが一巡した反動買いや新年の資金流入が重なる時期で、「年またぎ」のアノマリーと呼ぶべきものです。
- 認知の広がりによる先回りと減衰:+0.5421%→+0.0701%という減衰は、広く知られて旨味が削られた結果でしょう。買いシグナル日より前のM-5・M-4もすでに月中平均超えで、効き目のある日が前倒しされています。
4.データが示す正解戦略
- 「月末買い・月初売り」を丸ごと信じない:全期間平均+0.2715%は月中保有の+0.2133%を0.0582%ポイント上回るだけ。単独の売買根拠にはなりません。
- 使うなら「月末側」だけ:優位が明確なのは月末5営業日(+0.1232%=月中の3.2倍)。月初5営業日は+0.0187%と月中以下で、「月初は上がりやすい」は成り立ちません。
- 売り時はM+3まで引っ張らない:M+2終値で手仕舞えば理論値は+0.2957%→+0.4021%相当へ+0.1064%ポイント改善。M+3(-0.1064%)を含めるかが分かれ目です。
- 月を選ぶ。とくに8月初は見送る:8月初売りは-1.5687%・勝率36.86%。10月初・4月初も分が悪く、優位が残るのは1月・7月・11月初です。
- 単独で使わず執行タイミングの微調整に留める:平均+0.2715%に対し標準偏差6.89%。ばらつきが平均の約25倍あり、シグナルとしては極めて弱い部類です。
5.実践活用――執行タイミングの調整に使う
(1) 買うと決めた銘柄の執行を月末に寄せる
- 暦日でなく営業日で数えます。月末が土日祝ならその手前の平日がM-1、M-3はそこから2営業日前。連休をまたぐ月はズレるため要確認
- 月末5営業日は全日が月中平均超え(+0.1232% vs +0.0384%)。買い場を数日ずらせるなら、この帯に寄せるのが平均的には有利でした
- M-3が最強(+0.1763%)ですが5日間の差はわずか。1日を狙い澄ますより帯で捉えれば十分です
- 銘柄選択が先で、日付は最後の微調整。この順番を逆にしてはいけません
(2) 売却は月初第2営業日までに済ませる
- M+1(+0.0987%)とM+2(+0.0458%)までは月中平均超えですが、M+3は-0.1064%・勝率42.89%と急落します
- 利益確定を月初に予定しているなら、第3営業日を待たず第2営業日までに執行を
- M+4は+0.0828%と一時戻るもののM+5は-0.0274%。月初後半は不安定
(3) 月ごとの強弱とコストを突き合わせる
- 優位が残るのは1月・7月・11月初売り、避けたいのは8月・10月・4月初売り(上の表2参照)
- 6営業日で期待できるのは平均+0.2715%。往復の手数料とスリッページが0.3%を超えれば期待値は消えます
- 売買予定のある銘柄の執行日をずらすだけなら追加コストはゼロ。これが最も現実的です
6.注意点とリスク
- 手数料・スリッページで実リターンは目減りします:本検証はコスト控除前です。1トレード+0.2715%という水準は、往復の売買手数料とスリッページで容易に打ち消されます。
- 過去の傾向であり、将来を保証するものではありません:+0.5421%(2000〜2012年)から+0.0701%(2013〜2026年)へ縮小し直近3年は連続マイナス。さらに弱まる可能性も十分あります。
- ばらつきが平均を圧倒しています:標準偏差6.89%、下位5%は-8.77%、上位5%は+9.68%。平均+0.2715%はこの振れ幅に埋もれ、数トレードで効果は実感できません。
- 極端な外れ値が平均に影響します:全トレードの最小-99.21%、最大+648.74%。±100%超の197件を除くと平均は+0.2464%へ低下します。
- 流動性の低い銘柄を大量に含みます:中央値は0.00%(=値動きのないトレードが多い)。板の薄い銘柄では検証値どおりの約定は望めません。
- 特定の月が年間成績を決めてしまいます:2024年が-1.37%まで沈んだように、市場全体が急落した月をまたげば1回で1年分の優位が消えます。分散とロスカットが前提です。
- 売買回数が増えれば税負担も増えます:利益確定のたびに課税が発生するため、長期保有と比べた手取りで判断を。
7.よくある質問(FAQ)
Q. 月末3営業日前(M-3)はどうやって数えますか?
A. 暦ではなく営業日で数えます。最終営業日をM-1とし、2営業日さかのぼった日がM-3。月末が金曜ならM-1=金、M-2=木、M-3=水です。M-3は+0.1763%・勝率47.60%と全位置で最強の日でした。
Q. 「月末に買って月初に売る」は結局有効なのですか?
A. 「有効だが、単独では使えない水準」が答えです。1,128,292トレードの平均は+0.2715%・勝率48.89%で、月中に同じ6営業日を保有した+0.2133%を0.0582%ポイント上回るのみ。しかもコスト控除前で、往復の手数料とスリッページを引けばほとんど残りません。
Q. 月初なのに第3営業日が弱いのはなぜですか?
A. 月末〜月初の定例的な買い需要が数日で一巡するためです。積立買付やリバランスなど「値段を選ばない買い」はM+1で出尽くし、あとには反動売りが残ります。実際M+2は+0.0458%と鈍り、M+3で-0.1064%・勝率42.89%と最弱になりました。
Q. どの月の月またぎが有利で、どの月が不利ですか?
A. 有利なのは1月初売り(12月末買い)の+1.9659%・勝率62.76%、次いで7月初(+1.1755%)、11月初(+0.8535%)。不利なのは8月初売りの-1.5687%・勝率36.86%、次いで10月初、4月初でした。
Q. 勝率がどの位置でも5割を下回るのはなぜですか?
A. 個別株の日次リターンが右に歪んだ分布のためで、平均がプラスでも値上がり銘柄の割合は5割を割り込みます。重要なのは相対比較で、M-3の47.60%は月中平均44.91%より2.69ポイント高く、M+3の42.89%は2.02ポイント低い、と読みます。
Q. このアノマリーは今も機能していますか?
A. 弱まっています。2000〜2012年の13年平均+0.5421%に対し2013〜2026年は+0.0701%と約8分の1。さらに2024年-1.37%・2025年-0.26%・2026年-0.05%と3年連続マイナスです。
Q. 実際の運用に組み込むべきでしょうか?
A. 単独の売買ルールとして組み込むのはおすすめできません。平均+0.2715%に対し標準偏差6.89%と、ばらつきが平均の約25倍あるためです。現実的なのは執行日をずらす使い方で、買いは月末5営業日に寄せ、売りは月初第2営業日までに済ませる形なら追加コストは発生しません。
8.まとめ
東証全銘柄・約2,394万行、1,128,292トレードで全数検証した結果です。
- 「月末が強い」は事実:月末5営業日は全日が月中平均+0.0384%を上回り、平均+0.1232%=月中の約3.2倍。ピークは月末3営業日前の+0.1763%・勝率47.60%でした。
- 「月初が強い」は誤り:月初5営業日の平均は+0.0187%と月中以下。とくに月初第3営業日は-0.1064%・勝率42.89%と全位置で最弱でした。
- 戦略全体の優位はごくわずか:M-3買い→翌月M+3売りは+0.2715%・勝率48.89%。月中保有の+0.2133%との差は0.0582%ポイントで、売買コストを引けば残りません。
- 月によって結果は正反対:1月初売り+1.9659%・勝率62.76%に対し8月初売りは-1.5687%・勝率36.86%。差3.53%ポイントは全期間平均の13倍以上で、平均値だけの判断は危険です。
- アノマリーは減衰している:+0.5421%→+0.0701%と縮小し、直近2024〜2026年は3年連続マイナス。過去の統計をそのまま将来に当てはめることはできません。
月またぎアノマリーは、都市伝説でも聖杯でもありませんでした。月末の買い需要という実体はある。ただし、新しく売買を起こすほどの大きさではない――これが26年分のデータの答えです。買うと決めた銘柄の執行を月末5営業日に寄せ、売ると決めた銘柄は月初第2営業日までに手仕舞う。追加コストのかからないこの「ついでの微調整」に留めることが、統計と付き合ううえで最も安全な構えです。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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