日本株

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。


システムトレード

ROAとは

ROA(Return on Assets)は、和訳すると総資産利益率となり
企業の持っている総資産(この場合は借入も含む)に対して、どの程度の利益を出せているかを示した指標です。

もちろんこのROAが高い企業(あるいは業界)は効率良く利益を出していると判断することが出来るので、投資はもちろんM&A等を検討する際にも重要なチェックポイントとなります。

一方で先に述べた総資産の算定については、借入を始めとする負債についても含まれますので、企業の負債比率等と合わせて分析に用いるようにしましょう。

又、よく似た指標にROE(Return on Equity)という物がありますが、
こちらは自己資本利益率となっており、株主等が企業に出資した自己資本に対してどの程度の利益をあげているかを示した数値。

今回はROAについて解説していきたいと思いますが、基本的な見方は殆ど同じですので、併せて検証すると効果的です。

ROAはどうやって活用するのか

総資本に対する利益率を示すROAですが、実際に株式投資に活かす際は効率性の他に企業の安定性を分析する材料にもなります。

これを具体的に解説すると、資本金も多く在籍社員も多い大企業であっても、ROAが低い=利益率が低く安定性に懸念が残る という判断をすることが可能。

当然この他にも併用するべき指標はありますが、可視化された数値として大変便利であると言えますね。

又、先に述べた負債比率に関しても忘れてはいけないポイント。
これは企業の決算報告から有利子負債項目を参照して、総資産額に対してどの程度が借入なのかを検証します。

そしてその割合が全体の50%を下回っていればいるほど健全な運営体制と判断することが出来るんですね。
逆にROAがいくら良くても負債比率が高ければそれは健全とは言えませんので、ROAを見る時はIR情報等を見て必ず計算するようにしましょう。

適している投資スタイルは

ROAは長期投資の分析にこそ活きる指標であると言えます。

ROAが良好であれば、その企業の運営は安定していると判断することが出来る上に、市場の投資家からも評価が良くなりやすい傾向です。
したがって、株価が上がりやすく暴落等の危険性も比例して低くなります。

しかしながら、時価総額等と違いROAの算出には株価という概念が存在しませんので、ここでもROAだけをあてにすると、既に高騰した後の価格で掴んでしまう危険性も持っています。

企業的側面からのファンダメンタルズ分析だけではなく、テクニカル分析と併用して最大の効果を発揮すると言えるでしょう。

他方、短期トレードを好んでいる方には必須ではありません。
ROAが良好であれば流動性が高まり、ボラティリティも出てくるという捉え方も出来ますが、ROAが直接短期売買の材料に結びつくというのは間違いです。
あくまでも企業運営や長期視野での投資家心理において参考となる材料であることを念頭に入れておきましょう。

業界別ROA平均値から分かる業界TOP3

前述のポイントを踏まえた上で、利益率の高い業界ランキングを確認したいと思います。
これは業界自体の成長性はもちろん、この業種に属する企業に求められるROAの基準数値を確認する上でも大切ですので、株式投資の際には最初に抑えるべきポイントの一つです。

業種別ROA平均値ランキング

業種別ROA平均値ランキング
金属鉱業3.42%
ゴム製品製造業3.40%
林業2.90%
航空運輸業2.77%
ガス業2.72%
化学工業2.71%
原油,天然ガス鉱業2.65%
輸送用機械器具製造業2.63%
一般機械器具製造業2.47%
石炭鉱業2.28%
その他サービス業2.27%
出版,印刷,同関連産業2.13%
金属製品製造業2.12%
不動産業2.11%
パルプ、紙、紙加工品製造業2.05%
小売業1.97%
木材,木製品製造業1.94%
食料品製造業1.92%
卸売業1.85%
民営鉄道業1.45%
道路運送業1.37%
石油製品,石炭製品製造業1.26%
電気機械器具製造業1.16%
窯業,土石製品製造業1.02%
漁業0.76%
非鉄金属製造業0.72%
精密機械器具製造業0.48%
倉庫業0.37%
農業0.24%
旅館業0.17%
保険業0.17%
鉄鋼業-0.23%
銀行,信託業-0.42%
繊維工業-0.56%
娯楽業-1.03%
運輸に付帯するサービス業-1.61%
証券業-1.74%
水運業-1.74%
電気業-2.14%
その他の製造業-2.67%
皮革,同製品製造業-3.62%
建設業-85.04%


以上の通り、金属鉱業、ゴム製品製造業、林業が約3%の利益率を維持している業界であることが分かりましたね。
次にこの業界の中から、更にROAの高い企業を確認していきましょう。

業界TOP3を更に分析していく

①金属鉱業ランキング

1. 住友金属鉱山(単体)7.50%6,853億円899億円
2. 住友金属鉱山(連結)6.41%8,085億円1,150億円
3. DOWAホールディングス(連結)4.34%4,193億円272億円
4. 日本精鉱(単体)3.94%68億円3億円
5. 日本精鉱(連結)3.69%116億円6億円
6. 三菱マテリアル(単体)3.56%6,736億円543億円
7. 中外鉱業(単体)2.74%168億円3億円
8. (株)ジパング(連結)2.68%58億円2億円
9. 中外鉱業(連結)2.63%195億円14億円
10. 三井金属鉱業(連結)2.26%4,172億円161億円

 

金属鉱業の業界平均ROAは3.42%となっていますので、ランキング6位以上の企業は平均水準以上の利益率となっていることが分かります。

そして住友金属鉱山が単体、連結ともに1位2位を独走している形ですが、注目すべきはROAの高さです。

平均水準に対して倍以上となっており、水準を下回る7位以下とは大きな差があるので、TOP企業が業界平均値を引き上げているという見方も出来ます。

②ゴム製品製造業

1. 鬼怒川ゴム工業(単体)10.42%378億円46億円
2. 鬼怒川ゴム工業(連結)8.10%662億円70億円
3. 横浜ゴム(単体)6.56%3,596億円399億円
4. ニッタ(単体)6.46%378億円44億円
5. 横浜ゴム(連結)5.99%5,597億円523億円
6. 西川ゴム工業(連結)5.50%707億円71億円
7. 三ツ星ベルト(連結)5.13%555億円59億円
8. 三ツ星ベルト(単体)4.91%370億円42億円
9. 豊田合成(単体)4.89%3,595億円262億円
10. ニッタ(連結)4.89%507億円48億円


ゴム製品製造業の平均ROAは3.4%となっていますので、TOP10企業に関しては全て平均水準を上回っていると言えますね。
TOPにいる鬼怒川ゴムは単体で10%を超える優秀企業。
創業から80年を超える業界の老舗です。

③林業

1. 住友林業(単体)3.00%6,824億円230億円
2. 住友林業(連結)2.90%8,451億円269億円


林業に関しては絶対数が他業種よりも少なく、住友林業の独壇場となっています。
平均値に関してもこの企業が作り出している状態となっており、ROAから分析するのであれば迷う余地はないと言っていいでしょう。

企業のROAから成長性、安定性を知ることが出来たら、次は個別に決算を確認していきます。
各企業のIR情報や四季報から閲覧することが出来ますので、
業績推移や負債比率はもちろん、時価総額等も絡めることで分析精度を更に高めることが可能です。


同業種内で比較検討するには

ROAが水準以上で自身が目を付けた企業を他社と比較検討したいこともありますよね。

この時に当然大切なのが、同業種であることそして会社規模が近いこととなります。

例えば設備投資が大規模になり得る製造業等は総資産が大きく、ROAが低くなる傾向があります。
しかし設備投資がそこまで必要ない業種では逆に比較的高い数値になるわけですね。
つまり、根本的にベースが違う他業種同士を比較しても、全く意味がありません

加えて会社規模の違う企業を比較対象にしても、ベースの総資産額に大きな差異が出てしまう事になります。

したがってROAの正確な比較は、同じ業界の同程度の会社規模同士でしか正しい検証は出来ないというわけです。

ちなみにこの作業は四季報を利用すれば簡単に済ませることが出来ます。

今回の参考は任天堂となりますが、基本的な構成はどれも同じ。
目当ての企業ページの左側に比較会社という項目がありますので、そこを見れば一目で比較することが可能です。

 


出典:株初心者が本気で儲けるブログ

 

任天堂に対する比較企業はソニー、スクエニ、カプコンといったゲーム業界をリードする名だたる企業ばかりであることが分かりますので、あとはこれらのROAを調べるだけです。
手作業で探し出すよりもかなり効率よく検証することが出来ますね。

まとめ

これまでテクニカル分析をメインで投資してきた方は、今回の記事を参考にROA等の企業指標も参考にしてみてはいかがでしょうか。

企業の運営や今後の安定性に関しても分析することが出来ますので、長期運用を目指す方には特に必須と言えるでしょう。

一方で、ROAの良し悪しだけで収益性を判断することは出来ませんので、その他の材料も忘れずに併用することが大切ですね。

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