相場が急落した日の翌日は、どの業種が最初に戻るのでしょうか。「ディフェンシブな業種は底堅い」「景気に敏感な業種ほど反発も大きい」といった見方がありますが、数字で確かめた記事は多くありません。
そこで、東証全銘柄の日足から、市場全体が前日比−2%以下になった日を拾い、その日の終値で各銘柄を買った場合のその後を東証33業種ごとに集計しました。対象は2014年1月6日から2026年9月16日までの急落日83日、33万件(330,882件)です。
結論を先に述べます。急落の翌日は、まだ下がりました。翌日終値の平均は-0.439%・勝率46.2%で、全日平均(+0.050%)を下回ります。業種の差が出たのはその後で、5営業日後に市場を上回って戻ったのは医薬品(+0.892%)や情報・通信業(+0.420%)、下回ったのは輸送用機器(-0.609%)や非鉄金属(-0.562%)でした。
ただし、市場全体の戻りは「特に深く下げた数日」に頼っています。この点も後半で詳しく確かめます。
1.検証ルール
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
- 期間:2014/01/06〜2026/09/16(3,105営業日・5,435銘柄)。20営業日後の株価が確定できる日までを対象にしています
- 市場の動き:全銘柄の前日比(終値)の単純平均。日経平均そのもののデータは使っていません
- 急落日:市場が前日比-2.0%以下の日。3,105営業日のうち83日(2.7%)です。−3%以下の日は31日(1.0%)
- リターン:急落日の終値で買ったとして、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後
- 業種:東証33業種(銘柄マスターの現在の分類)
- 業種の戻り:銘柄のリターンから「同じ日の全銘柄平均」を引いて超過リターンを求め、業種ごとに平均します。さらに、通常の日に同じ業種が出す超過リターンを差し引きました。業種には元から強い・弱いの癖があるため、急落後に固有の動きだけを取り出すための処理です
2.急落の翌日は下げ続け、戻りは5営業日後から
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 急落日すべて(−2%以下) | 330,882 | -0.239% | -0.439% | 46.2% | +0.346% | 52.6% | +2.611% | 57.5% |
| −2〜−3%の日(52日) | 207,183 | -0.323% | -0.584% | 43.5% | -0.346% | 48.6% | +1.937% | 55.0% |
| −3%以下の日(31日) | 123,699 | -0.097% | -0.198% | 50.6% | +1.505% | 59.3% | +3.741% | 61.9% |
| 全日平均(比較用) | 12,435,838 | +0.082% | +0.050% | 47.0% | +0.245% | 49.9% | +0.938% | 51.2% |
まず、市場全体の動きです。急落日すべてをまとめると、翌日寄付きは-0.239%、翌日終値は-0.439%でした。全日平均の翌日寄付き+0.082%、翌日終値+0.050%と比べると、翌日の時点ではまだ売りが続いています。
5営業日後は+0.346%・勝率52.6%。全日平均の+0.245%との差は0.101ポイントしかなく、ようやくプラスに転じた程度です。20営業日後は+2.611%(中央値+1.433%)と、全日平均の+0.938%を1.673ポイント上回りました。
下げ幅で分けると、景色が変わります。−2〜−3%の日の5営業日後は-0.346%で、全日平均より0.591ポイント低い水準です。一方、−3%以下の日は+1.505%・勝率59.3%、20営業日後は+3.741%でした。
浅い急落では5営業日後もまだ戻らず、深い急落になって初めて戻りが大きくなります。−3%以下の日は31日しかないため、少数の大きな下げ日の結果であることを、頭に置いておく必要があります。
3.業種別に見た戻りの差
次に、33業種に分けます。下の図は、急落日の後の超過リターンから通常の日の超過リターンを引いた値を、5営業日後の高い順に並べたものです。プラスは「市場より戻った」、マイナスは「市場より戻らなかった」を意味します。
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5営業日後の戻りがプラスの業種は16業種、マイナスは17業種で、ほぼ半々です。最高の医薬品(+0.892%)と最低の輸送用機器(-0.609%)の差は1.501ポイントありました。
| 業種 | 件数 | 急落日の市場との差 | 翌日終値 | 5営業日後 | 20営業日後 | 5営業日後に市場を上回った日の割合 | 最も下げた3日を除いた5営業日後 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品 | 5,742 | -0.412% | +0.164% | +0.892% | +1.599% | 55.4% | +0.832% |
| 情報・通信業 | 34,644 | -0.744% | -0.071% | +0.420% | +1.420% | 53.0% | +0.343% |
| 証券・商品先物取引業 | 3,329 | -0.587% | +0.018% | +0.266% | +0.385% | 54.2% | +0.227% |
| 銀行業 | 5,885 | -0.290% | +0.079% | +0.265% | +0.113% | 50.6% | +0.191% |
| 空運業 | 1,662 | +0.078% | +0.121% | +0.216% | -1.732% | 53.0% | +0.226% |
| 繊維製品 | 3,936 | +0.393% | -0.057% | -0.407% | -0.748% | 37.3% | -0.382% |
| 鉱業 | 527 | -0.383% | -0.233% | -0.449% | -1.713% | 49.4% | -0.521% |
| 金属製品 | 8,450 | +0.120% | -0.145% | -0.469% | -0.893% | 24.1% | -0.439% |
| 非鉄金属 | 3,312 | -0.485% | -0.170% | -0.562% | -0.983% | 41.0% | -0.648% |
| 輸送用機器 | 7,686 | -0.319% | -0.151% | -0.609% | -1.175% | 34.9% | -0.616% |
上位5業種は医薬品、情報・通信業、証券・商品先物取引業、銀行業、空運業、下位5業種は繊維製品、鉱業、金属製品、非鉄金属、輸送用機器です。上位5業種の5営業日後の平均は+0.412%、下位5業種は-0.499%。20営業日後でも、上位が+0.357%、下位が-1.102%と、差は残ります。
下位に並んだのは、輸送用機器・非鉄金属・金属製品・鉱業・繊維製品といった、景気や為替の影響を受けやすい製造業・素材系の業種です。一方、上位には医薬品・情報・通信業・証券・銀行・空運が入りました。ただし、この並びの理由までは、今回のデータから断定できません。
なお、医薬品は83日分を合わせても5,742件と、件数の少ない業種です。1つの業種の数字を、そのまま一般化するのは避けたほうがよさそうです。
4.急落日に底堅かった業種が、戻るとは限らない
「急落日にあまり下げなかった業種は強いから、その後も強い」と考えたくなります。これも確かめました。
急落日の下げが市場より小さかった・大きかった度合いと、5営業日後の戻りの関係を33業種で見ると、相関係数は-0.09。ほぼ無関係です。
具体例では、情報・通信業は急落日に市場より-0.744%と弱かったにもかかわらず、5営業日後は+0.420%と大きく戻りました。逆に倉庫・運輸関連業は急落日に市場より+0.903%と底堅かったのに、5営業日後は-0.261%と戻りませんでした。
業種の順位が時期を越えて保たれるかも見ました。急落日を2020年までの59日と、2021年以降の24日に分け、業種の戻りの順位を比べると、相関は0.39です。前半で戻りの強かった上位5業種(医薬品、銀行業、情報・通信業、証券・商品先物取引業、空運業)は、後半でも平均+0.063%と、後半の全業種平均(-0.082%)を上回りました。
傾向は弱いながら残りますが、強い関係とは言えません。業種の順位は、毎回同じになるものではないと見たほうが安全です。
5.特定の日や年に偏っていないか
急落日は数十日しかなく、少数の日に結果が引っ張られていないか、最も気になる点です。
件数で見た発生日の集中度は低く、83日に分散しています。件数の多い上位3日は2024年8月5日(4,342件)、2025年4月7日(4,340件)、2026年3月9日(4,339件)で、合わせても全体の3.9%です。ただし急落日は全銘柄が対象のため、件数はどの日もほぼ同じで、この指標だけでは偏りを測れません。
そこで、最も下げた3日を除いて集計し直しました。その3日は2024年8月5日(-11.99%)、2025年4月7日(-7.39%)、2020年3月9日(-7.24%)です。
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市場全体の5営業日後は、+0.346%から+0.181%へ下がります。全日平均(+0.245%)との差は-0.064ポイントとなり、5営業日後の戻りは、特に大きく下げた数日に支えられていたことがわかります。翌日終値は-0.653%と、除く前より弱くなりました。
一方、20営業日後は+2.233%と、+2.611%から大きくは動きません。数週間の単位で見れば、急落後に戻りやすい傾向は、この3日を除いても残っています。
業種別では、上位・下位の10業種のうち10業種で、3日を除いても5営業日後の向きは変わりませんでした。表の右端の列のとおり、医薬品は+0.832%、輸送用機器は-0.616%です。業種の差は、特定の日だけの結果ではありません。
次に、年別です。
| 年 | 急落日の日数 | 翌日終値 | 5営業日後 | 20営業日後 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年 | 8 | -0.474% | +0.358% | +1.506% |
| 2015年 | 8 | -0.836% | +1.698% | +1.797% |
| 2016年 | 14 | +0.320% | +1.523% | +2.609% |
| 2017年 | 2 | +0.786% | +1.084% | +6.720% |
| 2018年 | 11 | -1.171% | -0.577% | +2.068% |
| 2019年 | 1 | +0.409% | +1.441% | +3.384% |
| 2020年 | 15 | -0.858% | -1.561% | +1.503% |
| 2021年 | 3 | +0.389% | +0.720% | -1.233% |
| 2022年 | 4 | -0.059% | +1.102% | +3.602% |
| 2023年 | 2 | +1.365% | +2.112% | +2.209% |
| 2024年 | 4 | -2.509% | -0.211% | +6.852% |
| 2025年 | 5 | +0.028% | +0.409% | +7.966% |
| 2026年 | 6 | -0.020% | +1.037% | +1.004% |
5営業日後がプラスだった年は13年のうち10年、翌日終値がマイナスだった年は7年、20営業日後がプラスだった年は12年です。ただし2018年、2020年は5営業日後がマイナスで(-0.577%、-1.561%)、急落が連続した局面では、5営業日後ではまだ戻っていません。
また、急落日は2020年に15日あり、全体の18.1%を占めます。コロナ禍の局面の影響が大きい点には、ご注意ください。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 市場は全銘柄の平均です。日経平均やTOPIXが同じ日に急落した日とは一致しないことがあります
- 急落日は83日と少なく、業種別では1日の動きが数字を左右します。特に件数の少ない業種は、偶然の影響を受けやすくなります
- 業種の分類は現在のものです。過去に業種が変わった銘柄や上場廃止になった銘柄は、反映できていません
- 売買コストを含みません。急落日の終値で実際に買えるかどうかも考慮していません
- 差は限られます。超過リターンは最大でも1.501ポイント程度の差で、業種の選択だけで安定して勝てるとは言えません
7.よくある質問(FAQ)
Q. 日経平均ではなく、全銘柄の平均を市場としたのはなぜですか?
A. 手元の株価データベースには、日経平均そのものの値が入っていないためです。代わりに、東証全銘柄の前日比(終値)の単純平均を、その日の市場の動きとして使いました。値がさ株の影響を受ける日経平均とは、動きが一致しない日があります。記事の数値はすべて、この全銘柄平均で-2.0%以下の日を急落日とした結果です。
Q. 市場が急落した翌日に買えば、戻りを取れますか?
A. 翌日については、取れませんでした。急落日の翌日終値は-0.439%・勝率46.2%で、全日平均の+0.050%を下回ります。翌日寄付きの時点で既に-0.239%と下げています。戻りが見えてくるのは5営業日後(+0.346%)、20営業日後(+2.611%)です。
Q. 下げ幅が大きいほど、その後はよく戻りますか?
A. 5営業日後で見ると、そうでした。市場が−2〜−3%下げた日の5営業日後は-0.346%、−3%以下の日は+1.505%と、1.851ポイントの差があります。ただし−3%以下の日は31日しかなく、次章のとおり、特に下げた数日の影響を強く受けています。
Q. 急落後に戻りやすい業種はどこですか?
A. 通常の日との差引後の5営業日後で、医薬品(+0.892%)、情報・通信業(+0.420%)、証券・商品先物取引業(+0.266%)の順に高くなりました。逆に輸送用機器(-0.609%)、非鉄金属(-0.562%)などは、市場より戻りが弱い結果でした。業種の傾向であり、個別の銘柄の値動きを示すものではありません。
Q. 急落日にあまり下げなかった業種のほうが、その後も強いのですか?
A. 関係はほとんど見られませんでした。急落日の下げが市場より小さかった業種ほど戻る、という関係の相関係数は-0.09で、ほぼゼロです。例えば情報・通信業は急落日に市場より-0.744%と弱かったのに5営業日後は高く、倉庫・運輸関連業は+0.903%と底堅かったのに5営業日後は-0.261%でした。
Q. 業種の順位は、時期が変わっても同じですか?
A. 弱い傾向が残る程度でした。2020年までの59日と2021年以降の24日に分けて業種の順位を比べると、順位の相関は0.39です。前半で戻りの強かった上位5業種は、後半でも平均+0.063%と、後半の全業種平均(-0.082%)を上回りました。ただし後半は日数が少なく、順位を固定的に扱うことはできません。
Q. この結果は毎年同じですか?
A. 違います。急落日の5営業日後の平均がプラスだった年は、13年のうち10年でした。2018年-0.577%、2020年-1.561%、2023年+2.112%のように、年によって向きも大きさも異なります。急落日は2020年に15日と集中し、全体の18.1%を占めます。
8.まとめ
市場が前日比−2%以下になった83日・330,882件を、33業種に分けて検証した結果を整理します。
- 急落の翌日はさらに下がりました。翌日終値は-0.439%・勝率46.2%で、戻りは5営業日後(+0.346%)から
- 深い急落ほど戻りは大きい。ただし5営業日後の戻りは、最も下げた3日を除くと+0.181%へ縮みました
- 5営業日後に市場を上回って戻ったのは医薬品(+0.892%)、情報・通信業(+0.420%)など
- 市場を下回ったのは輸送用機器(-0.609%)、非鉄金属(-0.562%)など、景気や為替に敏感な製造業・素材系の業種
- 急落日の底堅さは、戻りの強さと無関係でした(相関係数-0.09)
- 業種の順位は時期で入れ替わります。前後半の順位の相関は0.39にとどまりました
急落した日は、「底だ、買おう」と考えたくなる場面です。ただ今回の数字は、翌日の時点ではまだ下げが続くことが多く、その後の戻りも業種や年によって差が大きいことを示しています。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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