「戻り売り」は下落トレンド中の銘柄が一時的に上昇した場面で空売り(ショート)を仕掛ける、押し目買いの逆方向戦略です。「上がりすぎたら売る」――シンプルですが、「どれくらい戻したら売り時なのか」を定量化した研究は驚くほど少ないものです。直近20日安値から3%戻った時?10%戻った時?それとも20%以上?
本記事では、東証全銘柄・約641万件のサンプル(2020〜2025年)で、直近20営業日安値からの上昇率別に翌日・5日後リターンを集計しました。結果は、教科書セオリーに反する衝撃的なものでした。
結論を先にお伝えします。全戻り率帯で翌日・5日後リターンはプラス。「戻り売り」の前提となる「上昇後はモメンタム減衰」は、データ上は確認できません。むしろ戻り率20%以上の高戻り銘柄は5日後+0.426%と、浅戻り(0-3%)の+0.198%より大きいリターン。「戻り売り」セオリーは、平均的には機能しないという、教科書を覆すデータ証明になりました。
1.検証ルール
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検証対象:東証全銘柄(プライム・スタンダード・グロース)約3,800社
検証期間:2020年1月〜2025年12月(約5〜6年間)
サンプル数:約640万件の戻りシナリオ
【戻り率の定義】
- 直近20営業日安値=当日含む直近20日間(約1ヶ月)の最安値
- 戻り率=(当日終値 − 20日安値)÷ 20日安値 × 100
- 当日終値が20日安値そのものなら戻り率0%、20日安値から10%上昇していれば戻り率10%
【戻り率帯】
- 0-3%(浅戻り):安値圏で踊り場、または小さな反発
- 3-5%:通常の戻り
- 5-10%:中規模の戻り
- 10-20%:深戻り
- 20%以上(高戻り):強い反発、リバウンド継続中
【翌日・5日後リターン】
- 翌日CCリターン=(翌日終値 − 当日終値)÷ 当日終値 × 100
- 5日後CCリターン=(5日後終値 − 当日終値)÷ 当日終値 × 100
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2.検証結果――驚きの全帯プラス
(1) 戻り率別 翌日 vs 5日後リターン
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このグラフが本記事最大の衝撃です。すべての戻り率帯で翌日CC・5日後CCともにプラス。教科書的には「戻り率が高い銘柄は売り時」のはずが、データはむしろ戻り率20%以上で5日後+0.426%と最大リターンを示しています。「戻り売り」セオリーは、平均的には機能しないことが明確になりました。
(2) 戻り率別 勝率推移
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注目すべきは戻り率が高くなるほど勝率は微減すること。0-3%で48.3%、20%以上で45.9%。「勝率は下がるが、平均リターンは増える」――これは押し目買い記事で発見した「損益比率の非対称性」と同じ構造。勝つときは大きく、負けるときは小さくのパターンが、戻り銘柄にも当てはまります。
(3) 戻り率別 サンプル件数分布
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サンプル件数は浅戻り(0-3%)が213万件と最多、20%以上の高戻りは47万件。それでも年間あたり東証全銘柄で約8万件=月間6,000件のスクリーニング対象があり、データ駆動の戦略構築に十分なボリュームです。
(4) 完全データ表
| 戻り率帯 | 件数 | 翌日CC | 勝率 | 5日後CC | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0-3%(浅戻り) | 2,132,203 | +0.068% | 48.3% | +0.198% | 51.6% |
| 3-5% | 1,147,357 | +0.030% | 47.1% | +0.184% | 49.8% |
| 5-10% | 1,628,077 | +0.023% | 46.9% | +0.191% | 48.8% |
| 10-20% | 1,030,703 | +0.055% | 47.1% | +0.395% | 49.3% |
| 20%以上(高戻り) | 473,958 | +0.104% | 45.9% | +0.426% | 47.3% |
3.「戻り売りは儲からない」――データが示す3つの理由
戻り売りセオリーがデータ上機能しない理由は、日本株市場の構造的特性にあります:
- 日本株の長期上昇バイアス:2020〜2025年は、コロナ禍を含むが全体としては日経平均が大きく上昇した期間。長期的に株価は上がる方向にバイアスがかかっており、「戻り=売り」というモメンタム減衰仮説と相性が悪い。
- 下落トレンドからの反発は本格上昇の入口になりやすい:直近20日安値からの戻りは「下落トレンドの終了サイン」になることが多く、その後5日間も上昇継続するケースが頻発。データ上、戻り率20%以上の銘柄は5日後+0.426%と最大リターン。
- 個人投資家の信用買い文化:日本株は個人投資家の信用買い残が圧倒的に多く、空売り(信用売り)参加者が少ない。需給的に「売り圧力」が弱く、戻り銘柄が押し戻されにくい構造。
これら3つの要因が複合し、戻り売り戦略を機能不全に陥らせています。「戻ったら売り」というセオリーは、米国株のような構造(空売り文化が強い)では機能するかもしれませんが、日本株では真逆の戦略(「戻ったらホールド」)の方が儲かるという結論になります。
4.「戻りはトレンド転換のサイン」――押し目買いとの対称性
本検証と前回の「押し目買い」検証を合わせると、興味深い構造が見えます:
- 押し目買い(直近20日高値からの下落):押し率が深いほど翌日・5日後リターンが拡大
- 戻り売り(直近20日安値からの上昇):戻り率が高いほど翌日・5日後リターンが拡大
両方の検証で「振れ幅が大きいほど将来リターンが拡大」という共通法則が観測されました。これは「平均回帰(mean reversion)」ではなく、むしろ「トレンド継続(trend continuation)」の証拠です。具体的に:
- 大きく下落 → 投げ売り完了 → 上昇トレンドへ転換 → 押し目買い成功
- 大きく上昇 → 下落トレンドからの本格反転 → 上昇トレンド継続 → 戻り銘柄でも上昇
この構造は、「日本株は強いトレンドフォロー戦略の方が、逆張りより儲かりやすい」という証明でもあります。戻り売りで「上がりすぎたから売る」のは、トレンドの大きな波を逃すだけです。
5.実践活用――戻り売りではなく「リバウンドフォロー」戦略
(1) 戻り売り戦略は実行非推奨
データが示す通り、戻り銘柄を空売りする戦略は期待値マイナスになる確率が高いです。具体的な弊害:
- 翌日CC平均はプラス=空売り建てた翌日に逆行する確率が高い
- 5日後+0.426%のリターン=空売りホールドすると含み損確定
- 信用売り手数料・貸株料も加算され、コスト負け
「戻ったら売り」というセオリーは、教科書から削除すべきレベルで機能していません。
(2) 「リバウンドフォロー」戦略のすすめ
データを活かすなら、戻り売りとは逆方向の「リバウンドフォロー(買い継続)」戦略が有効です:
- スクリーニング条件:直近20日安値から10%以上戻った銘柄、出来高増加、終値位置上70%以上
- エントリー:当日大引け買い
- イグジット:5日後または+5%利確
- 期待値:5日後+0.395〜0.426%(10-20%戻り or 20%以上戻り帯)
(3) 保有銘柄の戻り売り検討は要注意
「含み損銘柄が戻ってきたから売って損切り完了」と判断するのも要注意です。データ上、戻ってきた銘柄はさらに上昇継続する確率が高い。「戻ったら売り」ではなく、「ロスカット水準でなければホールド継続」が期待値プラスです。
(4) 例外:明確な業績悪化が確認できる場合
ただし、業績悪化・不祥事・行政処分など本質的問題が確認できる銘柄の戻り上昇は「だまし戻り」の可能性が高く、戻り売りが機能することもあります。「戻り+業績悪化材料」の2条件が揃った場合のみ、空売り検討の余地ありです。
6.注意点とリスク
- 期間バイアス:2020〜2025年は日経平均上昇期で、戻り銘柄が上昇継続しやすい時期。下落相場ではモメンタム減衰が機能する可能性
- 個別銘柄リスク:「20%戻り→さらに20%下落」というケースもあります。リバウンドフォロー戦略でもロスカット必須
- 材料確認の重要性:戻り上昇の原因が「悪材料出尽くし」か「本格回復」か、ニュースで判断
- 地合いの影響:日経平均自体が暴落中の局面では、戻り銘柄も再度下落しやすい
- 20日基準の制約:60日・250日基準では結果が変わる可能性
7.よくある質問(FAQ)
Q. 戻り売りはなぜ儲からないのですか?
A. 日本株市場の長期上昇バイアス、下落トレンドからの本格反転、個人投資家の信用買い文化など、構造的に「上昇方向への需給」が強い市場特性のためです。2020-2025年のデータでは、全戻り率帯で翌日・5日後リターンがプラスでした。
Q. 教科書で「戻り売り」が推奨されるのはなぜですか?
A. テクニカル分析の教科書は米国市場の研究がベースになっていることが多く、米国では空売り文化が強いため戻り売りが機能しやすい。日本市場は構造が異なり、教科書セオリーがそのまま当てはまらないケースが多いです。
Q. 含み損銘柄が戻ってきたら売るべきですか?
A. データ上は売らない方が良いです。戻ってきた銘柄はさらに上昇継続する確率が高く、戻り売りで損切り完了すると、その後の上昇を取り逃します。「ロスカット水準でなければホールド継続」が期待値プラス。
Q. 戻り率20%以上は本当にリバウンドが続くのですか?
A. 47万件のサンプルで5日後+0.426%(勝率47.3%)という結果です。勝率は50%未満ですが、損益比率の非対称性(勝つときは大きく、負けるときは小さく)で期待値プラスを実現。ロスカット-3%、利確+5〜10%の設定が現実的。
Q. 戻り売りが機能する例外的なケースはありますか?
A. 業績悪化・不祥事・行政処分など本質的問題が確認できる銘柄の戻り上昇は「だまし戻り」の可能性があり、戻り売りが機能することも。「戻り+業績悪化材料」の2条件が揃った場合のみ、空売り検討の余地があります。
Q. リバウンドフォロー戦略の具体的なエントリー条件は?
A. ①直近20日安値から10%以上戻り、②出来高が通常の1.5倍以上、③終値位置が高値70%以上(強い陽線)、④日経平均が上昇中、の4条件を満たす銘柄。スクリーニング後、10〜20銘柄に分散投資。
Q. 戻り売り戦略はもう完全に使えないのですか?
A. 本検証の期間(2020-2025年、日経平均上昇期)では機能しません。下落相場や地合い悪化時には、モメンタム減衰効果が強まり戻り売りが機能する可能性があります。相場環境を見極めた選択的な使用が必要です。
8.まとめ
東証全銘柄6,412,298件で「戻り売り」戦略の期待値を検証しました。重要ポイントは4つ:
- 全戻り率帯で翌日・5日後リターンがプラス。「戻ったら売り」というセオリーは、平均的には機能しない。教科書を覆すデータ。
- 戻り率20%以上の高戻り銘柄が5日後+0.426%と最大リターン。リバウンド継続効果が、戻り率が深いほど強く現れる。
- 勝率は戻り率が高いほど微減(48.3%→45.9%)するが、平均リターンは増加。「損益比率の非対称性」で稼ぐ構造は押し目買いと共通。
- 「リバウンドフォロー」戦略が期待値プラス。戻り売りではなく、戻り銘柄を買い継続する方が儲かる。日本株の長期上昇バイアスを活かす戦略。
本検証は、テクニカル分析の常識「戻ったら売り」を、640万件のサンプルで真っ向から覆す結果になりました。日本株では「上がっていたら、もっと上がる」というトレンドフォロー特性の方が、平均回帰仮説より強く現れます。
次に「下落トレンドから戻ってきた銘柄」を発見したら、空売りを仕掛けるのではなく、むしろ買い候補としてウォッチしてください。データが示す日本株の真実は、教科書セオリーよりトレンドフォローに分があります。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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