出来高が急に膨らんだ銘柄をどう見るか。9月17日の記事では「その日動いた金額」で切り分けましたが、今回は別の角度から調べます。会社そのものの大きさです。
時価総額50億円の会社の出来高が5倍になるのと、1兆円の会社が5倍になるのとでは、必要な資金量がまるで違います。同じ「5倍」でも意味は同じなのでしょうか。
東証全銘柄について、2022年10月3日から2026年8月8日までの3,324,343件(3,695銘柄・942営業日)を、時価総額5区分×出来高倍率5区分のクロスで集計しました。
結論を先に述べます。出来高急増がマイナスに働くのは、小型株だけでした。時価総額100億円未満の帯では、出来高5倍以上の5営業日後が-0.348%。一方で中型以上の帯では、出来高が増えるほど成績が上がる傾向すら見られます。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
- 期間:2022/10/03〜2026/08/08(942営業日・3,695銘柄)
- 出来高倍率:当日出来高 ÷ 直前20営業日の平均出来高(当日を含まない)
- 時価総額:3,887銘柄分の一覧から取得し、100億円未満/100〜500億/500〜1,000億/1,000〜5,000億/5,000億円以上の5区分に分類
- リターン:その日の終値で買ったとして、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後
構成比は100億円未満が31.4%、100〜500億円が30.6%、500〜1,000億円が10.6%、1,000〜5,000億円が16.8%、5,000億円以上が10.6%でした。
2.先に、この検証の弱点を述べます
結果を出す前に、どうしてもお伝えしておかなければならない制約があります。
使っている時価総額は「現在の」値です。2022年時点で1,000億円あった会社が、その後株価が下がって現在80億円になっていれば、この検証では100億円未満に分類されます。そしてその銘柄の履歴には、下げ続けた日々が並んでいます。
その結果、規模別の水準を縦に比べると、小型株が実態より不利に出ます。実際このあと示す表でも、時価総額が大きいほどリターンが高いという並びになりますが、それをそのまま「大型株が有利」と読むのは誤りです。
そこで本記事では、同じ規模帯の中で、出来高倍率による違いを横に比べるという見方を取ります。同じ帯の中であれば、この偏りは両方のグループに等しくかかるため、比較の妨げになりません。
3.規模と出来高倍率、それぞれ単独で見ると
まず参考として、単独で分けた結果を示します。
| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 100億円未満 | 1,045,505 | +0.090% | +0.030% | 44.2% | +0.141% | 47.3% | +0.492% | 47.9% |
| 100〜500億円 | 1,017,169 | +0.109% | +0.070% | 47.8% | +0.346% | 51.3% | +1.377% | 53.4% |
| 500〜1,000億円 | 351,218 | +0.101% | +0.088% | 50.0% | +0.434% | 53.0% | +1.748% | 55.6% |
| 1,000〜5,000億円 | 558,076 | +0.092% | +0.098% | 51.0% | +0.478% | 53.9% | +1.916% | 57.3% |
| 5,000億円以上 | 352,375 | +0.095% | +0.107% | 51.7% | +0.521% | 54.3% | +2.062% | 57.9% |
| 全体平均(比較用) | 3,324,343 | +0.098% | +0.068% | 47.9% | +0.332% | 51.0% | +1.301% | 53.0% |
時価総額が大きいほど数字が良くなっていますが、これは前章で述べた理由により、そのまま受け取るべきではありません。
| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1倍未満 | 2,150,423 | +0.097% | +0.078% | 47.8% | +0.325% | 51.1% | +1.260% | 53.1% |
| 1〜2倍 | 891,487 | +0.094% | +0.065% | 48.5% | +0.353% | 51.4% | +1.362% | 53.5% |
| 2〜3倍 | 153,669 | +0.053% | +0.006% | 47.3% | +0.361% | 49.6% | +1.460% | 52.4% |
| 3〜5倍 | 77,257 | +0.095% | +0.003% | 46.7% | +0.404% | 48.7% | +1.599% | 51.9% |
| 5倍以上 | 51,507 | +0.324% | -0.028% | 44.0% | +0.035% | 44.6% | +1.027% | 48.2% |
| 全体平均(比較用) | 3,324,343 | +0.098% | +0.068% | 47.9% | +0.332% | 51.0% | +1.301% | 53.0% |
出来高倍率だけで見ると、5倍以上の翌日終値は-0.028%とマイナス、20営業日後も+1.027%で1倍未満の+1.260%を下回ります。
ただしこの全体平均も、件数の多い小型株の影響を強く受けています。分けて見る必要があります。
4.規模帯の中で比べると景色が変わる
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
| 時価総額\出来高倍率 | 1倍未満 | 1〜2倍 | 2〜3倍 | 3〜5倍 | 5倍以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 100億円未満 | +0.175% 715,543件 | +0.129% 212,602件 | +0.058% 56,142件 | +0.049% 32,927件 | -0.348% 28,291件 |
| 100〜500億円 | +0.337% 658,898件 | +0.331% 266,118件 | +0.368% 51,314件 | +0.648% 25,331件 | +0.393% 15,508件 |
| 500〜1,000億円 | +0.407% 219,158件 | +0.448% 107,282件 | +0.582% 15,048件 | +0.629% 6,550件 | +0.802% 3,180件 |
| 1,000〜5,000億円 | +0.463% 343,170件 | +0.459% 182,599件 | +0.801% 20,414件 | +0.687% 8,459件 | +0.605% 3,434件 |
| 5,000億円以上 | +0.486% 213,654件 | +0.548% 122,886件 | +0.767% 10,751件 | +0.823% 3,990件 | +0.842% 1,094件 |
※各セルは5営業日後の平均リターン。
帯をまたいで縦に比べるのではなく、同じ行の中で横に比べてください
各行を横に見てください。100億円未満の行だけが、右に行くほど下がっています。1倍未満の+0.175%から、5倍以上では-0.348%へ。
ところが100〜500億円の行では、1倍未満+0.337%に対し3〜5倍が+0.648%と、むしろ上がります。
500〜1,000億円の行はさらにはっきりしていて、1倍未満+0.407%から5倍以上+0.802%へと右肩上がりです。5,000億円以上でも1倍未満+0.486%に対し5倍以上+0.842%となっています。
つまり「出来高急増は買うな」という助言が当てはまるのは、小型株に限られていたということです。
5.出来高5倍以上だけを規模別に並べる
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 100億円未満 × 出来高5倍以上 | 28,291 | +0.387% | -0.156% | 41.3% | -0.348% | 40.9% | +0.063% | 43.4% |
| 100〜500億円 × 出来高5倍以上 | 15,508 | +0.264% | +0.085% | 46.1% | +0.393% | 47.7% | +2.029% | 52.8% |
| 500〜1,000億円 × 出来高5倍以上 | 3,180 | +0.246% | +0.245% | 48.8% | +0.802% | 51.2% | +2.775% | 55.5% |
| 1,000〜5,000億円 × 出来高5倍以上 | 3,434 | +0.180% | +0.186% | 50.1% | +0.605% | 52.4% | +2.400% | 57.4% |
| 5,000億円以上 × 出来高5倍以上 | 1,094 | +0.201% | +0.213% | 51.5% | +0.842% | 53.9% | +2.362% | 57.7% |
100億円未満の翌日終値は-0.156%・勝率41.3%。5営業日後は-0.348%と、全区分で唯一のマイナスです。
翌日寄付きは+0.387%と全区分で最も高く、そこから終値までに大きく下げています。注目された翌朝に高く寄り、その日のうちに押し戻されるという形です。小型株ほどこの傾向が強く出ました。
この結果が特定の日によるものでないことも確認しています。100億円未満で出来高5倍以上となった28,291件は942営業日に分散し、上位3日は全体の2.4%。その3日を除くと5営業日後は-0.348%から-0.637%と、むしろ悪化しました。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 時価総額は現在の値です。過去時点の規模とは一致しません。規模帯をまたいだ比較はできません(本記事で帯の中の比較に徹しているのはこのためです)
- 売買コストを含みません。とくに小型株は、希望する値段で売買できるとは限りません
- 時価総額が取得できた銘柄に限っています。一覧に載っていない銘柄は集計から外れています
- 材料の中身は見ていません。決算なのか、業務提携なのか、需給要因なのかを区別していません
7.よくある質問(FAQ)
Q. なぜ時価総額で分けるのですか?
A. 出来高が5倍に増えたという事実は同じでも、時価総額50億円の会社と1兆円の会社では意味が違うと考えられるからです。前者は数人の売買でも出来高が動きますが、後者が5倍になるには相応の資金が動く必要があります。
Q. 小型株だけ出来高急増がマイナスになるのはなぜですか?
A. データから理由は断定できません。ただ100億円未満の帯では、出来高が増えるほど成績が下がり、5倍以上では5営業日後-0.348%とマイナスになります。普段ほとんど売買されていない銘柄が急に注目される場面では、短期の値幅取りが集まりやすいという説明は可能です。
Q. 中型・大型株では出来高急増は買いですか?
A. 少なくともマイナスではありませんでした。500〜1,000億円の帯では5倍以上が5営業日後+0.802%で、同じ帯の1倍未満(+0.407%)を上回っています。5,000億円以上でも同様の形でした。
Q. 「大型株のほうがリターンが高い」という表の見方は正しいですか?
A. その読み方は避けてください。本記事で使っている時価総額は現在の値です。いま小さい会社は、この期間に株価が下がった会社である可能性が高く、規模別の水準を縦に比べると実態より小型株が不利に出ます。同じ規模帯の中で、出来高倍率による違いを横に比べる形でご覧ください。
Q. 出来高倍率だけで見るとどうなりますか?
A. 5倍以上の20営業日後は+1.027%で、1倍未満の+1.260%を下回ります。翌日終値は-0.028%とマイナスです。ただしこの全体平均は、件数の多い小型株の影響を強く受けています。
Q. この結果は特定の日に偏っていませんか?
A. 確認しました。100億円未満で出来高5倍以上となった28,291件は942営業日に分散し、上位3日は全体の2.4%です。その3日を除くと5営業日後は-0.348%から-0.637%と、むしろ悪化しました。マイナスは特定の日によるものではありません。
Q. 時価総額はどこで確認できますか?
A. 証券会社の取引画面や株価情報サイトの個別銘柄ページに表示されています。株価×発行済株式数で計算した金額で、会社の規模を測る代表的な指標です。出来高倍率と合わせて見る習慣をつけると、今回の結果を自分で確かめられます。
8.まとめ
3,324,343件を数え直してわかったことを整理します。
- 出来高急増がマイナスに働くのは小型株だけでした。100億円未満の帯で出来高5倍以上の5営業日後は-0.348%。全区分で唯一のマイナスです
- 中型以上では、むしろ右肩上がりでした。500〜1,000億円の帯では1倍未満+0.407%に対し5倍以上+0.802%です
- 小型株は翌朝いちばん高く寄ります(+0.387%)。そこから終値までに-0.156%まで沈みます
- この結果は特定の日によるものではありません。発生上位3日を除くと、むしろ成績は悪化しました
- 規模別の水準を縦に比べてはいけません。時価総額が現在の値であるため、小型株が実態より不利に出ます
「出来高急増銘柄には近づくな」という助言も、「出来高を伴う動きは本物だ」という助言も、どちらも半分正しく半分間違っていました。どちらが当てはまるかは、その銘柄の大きさで変わります。
そしてもう1つ。データの制約を先に述べてから結果を示すという順序を今回は取りました。都合の良い数字だけを並べれば「大型株は小型株より有利」という記事も書けますが、それは検証の弱点を伏せた書き方になります。数字を読むときは、その数字がどう作られたかを一緒に確かめてみてください。
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