「掉尾の一振(とうびのいっしん)」。年末の大納会に向けて、相場が最後にもう一伸びする――相場の格言として、毎年12月になると必ず話題に上ります。
この格言を、東証の全銘柄の値動きで確かめました。2014年から2025年までの12年分、12月15日から大納会までの区間だけでも47,756件(銘柄×年)を集計しています。
結論を先に述べます。12月15日から大納会までの全体で見ると、掉尾は確認できませんでした。平均は-0.027%・勝率50.0%で、同じ年の同じ長さの全期間の平均(+0.501%)を下回ります。
ところが区間を二つに割ると、景色が変わりました。12月15日から25日までは平均-1.795%と下げ、12月25日から大納会までは平均+1.906%・勝率68.4%、12年中12年でプラスです。一振があるとすれば、それは年末の最後の3〜5営業日だけでした。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)、1年あたり平均約3,980銘柄。配当の調整はしていません
- 期間:2014年〜2025年の12年分
- 基準日:11月30日、12月15日、12月25日、大納会(その年の最終営業日)。いずれもその日以前で最後の営業日の終値を使用
- 区間リターン:「掉尾全体」は12/15から大納会まで、「前半」は12/15から12/25まで、「後半」は12/25から大納会まで。ほかに「12月前半」(11月末から12/15)、大納会当日、大納会の5営業日後・20営業日後
- 比較対象(市場平均):同じ年に始まる、同じ長さの全期間(毎営業日スタート)の平均
- 頑健性の確認:年別の結果、特定の年を除いた再集計、年への集中度、そして等ウェイト指数での位置
この検証では、毎年同じ日に一斉に起きる現象を「年に1回」の観測としてまとめています。同じ年の銘柄は同じ相場環境にあるため、独立した観測は12件しかないことに注意が必要です。
2.掉尾全体は市場平均を下回っていた
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| 区間 | 件数 | 平均 | 中央値 | 勝率 | 市場平均 | 市場の勝率 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 12月前半(11月末→12/15) | 47,703 | -0.174% | -0.267% | 45.9% | +0.516% | 50.8% | -0.690% |
| 掉尾全体(12/15→大納会) | 47,756 | -0.027% | +0.000% | 50.0% | +0.501% | 50.8% | -0.528% |
| 前半(12/15→12/25) | 48,065 | -1.795% | -0.808% | 38.5% | +0.331% | 50.3% | -2.126% |
| 後半(12/25→大納会) | 48,182 | +1.906% | +1.154% | 68.4% | +0.178% | 49.5% | +1.728% |
| 大納会当日 | 47,921 | +0.121% | +0.000% | 47.1% | +0.049% | 47.0% | +0.072% |
| 大納会の5営業日後 | 47,909 | +0.897% | +0.586% | 56.2% | +0.241% | 49.9% | +0.656% |
| 大納会の20営業日後 | 47,798 | +1.307% | +0.444% | 52.7% | +0.935% | 51.3% | +0.372% |
まず、格言の中心である12月15日から大納会までです。平均は-0.027%、中央値は+0.000%、勝率は50.0%でした。同じ年の同じ長さの全期間の平均は+0.501%・勝率50.8%で、差は-0.528%です。
市場平均がプラスなのは、この12年が全体として上昇基調だったためです。それと比べると、年末の約10営業日はむしろ平均より弱い区間でした。12月前半(11月末から12/15)も平均-0.174%と、市場平均(+0.516%)を下回っています。
ここまでは「掉尾の一振は本当ではなかった」という結論になりそうです。ところが、後半だけを取り出すと話が変わります。
3.伸びるのは12/25以降の数営業日だけだった
12月15日から大納会までを、12月25日で二つに割ります。
- 前半(12/15→12/25):平均-1.795%・勝率38.5%。市場平均(+0.331%)との差は-2.126%
- 後半(12/25→大納会):平均+1.906%・勝率68.4%。市場平均(+0.178%)との差は+1.728%
前半は下げ、後半は大きく上げています。掉尾全体の平均が-0.027%とほぼゼロだったのは、前半の下げと後半の上げが打ち消し合っていたためです。
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1日ごとの値動きでも確認しました。全銘柄の等ウェイト指数について、大納会から数えた営業日ごとの日次騰落を12年で平均した結果です。
大納会の3営業日前から当日までの4日間は、1日あたりの平均が+0.344%(4日の合計は+1.375%)で、この4日間に指数が上昇した割合は68.8%でした。
比べると、その手前の6日間(大納会の9営業日前から4営業日前)は1日あたり-0.226%、上昇した割合は44.4%です。対象12年の全営業日では、1日あたり+0.049%、上昇した割合は57.9%でした。
内訳では、大納会の2営業日前が+0.803%(10年で上昇)、1営業日前が+0.985%(10年で上昇)と突出し、3営業日前だけは-0.536%と下げています。
年末の最後の数日だけ、上昇する日の割合が目に見えて高くなっています。
「一振」は、12月後半の全体ではなく、大納会直前の短い期間に集中していました。
4.年別に見ても、後半は12年すべてでプラスだった
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| 年 | 12/15の基準日 | 大納会 | 前半 12/15→12/25 | 後半 12/25→大納会 | 掉尾全体 | 同年の市場平均 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2014年 | 12/15 | 12/30 | +0.317% | +1.789% | +2.060% | +0.595% | +1.465% |
| 2015年 | 12/15 | 12/30 | -2.045% | +3.533% | +1.373% | +0.307% | +1.066% |
| 2016年 | 12/15 | 12/30 | +0.015% | +0.593% | +0.574% | +0.707% | -0.134% |
| 2017年 | 12/15 | 12/29 | +0.704% | +1.026% | +1.712% | +1.348% | +0.364% |
| 2018年 | 12/14 | 12/28 | -15.065% | +7.673% | -8.768% | -0.720% | -8.048% |
| 2019年 | 12/13 | 12/30 | +0.045% | +1.092% | +1.123% | +0.830% | +0.293% |
| 2020年 | 12/15 | 12/30 | -1.534% | +0.899% | -0.681% | +0.290% | -0.971% |
| 2021年 | 12/15 | 12/30 | -0.587% | +1.061% | +0.493% | +0.192% | +0.301% |
| 2022年 | 12/15 | 12/30 | -3.979% | +1.101% | -2.953% | +0.087% | -3.040% |
| 2023年 | 12/15 | 12/29 | -0.175% | +2.196% | +1.976% | +0.790% | +1.186% |
| 2024年 | 12/13 | 12/30 | -0.614% | +1.866% | +1.266% | +0.304% | +0.962% |
| 2025年 | 12/15 | 12/30 | +1.110% | +0.293% | +1.392% | +1.242% | +0.150% |
後半(12/25→大納会)の平均がプラスだった年は12年中12年、同じ年の市場平均を上回った年は11年です。最も上げたのは2018年の+7.673%、最も弱かったのは2025年の+0.293%で、弱い年でもプラスを保っています。
一方、前半(12/15→12/25)は平均がプラスだった年が5年、マイナスだった年が7年で、市場平均を上回った年は1年しかありません。掉尾全体では、-8.768%だった2018年のように大きく崩れた年が平均を引き下げています。
5.頑健性の確認:年への集中と、除いたときの結果
結果が特定の年に引っ張られていないかを確認します。区間ごとに平均リターンへの寄与を年別に合計し、上位3年が全体の何割を占めるかを集計しました(発生が年に1回ずつなので、集中は日ではなく年で見ています)。
- 後半(12/25→大納会):2018年、2015年、2023年の3年で57.5%
- 前半(12/15→12/25):2018年、2022年、2015年の3年で80.0%
- 掉尾全体:2018年、2022年、2023年の3年で56.5%
12年を均等に並べれば上位3年は全体の約2割台になるはずですが、前半の下げは80.0%、後半の上げでも57.5%が上位3年に集中していました。
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上位の年を除いた再集計が図です。後半は、最も上げた3年(2018年、2015年、2023年)を除いても平均+1.077%が残り、市場平均との差も+0.866%でプラスを保ちます。後半の上昇は、特定の数年だけが作ったものではありません。
これに対し、前半の下げは様子が違います。最も下げた3年(2018年、2022年、2015年)を除くと、前半の平均は-0.083%とほぼゼロです。前半の下げは、少数の年が作っていました。
等ウェイト指数でも確かめました。後半の上昇は、同じ年の同じ長さの全期間のなかで平均して下から75.6%の位置にあり、上位3分の1に入った年は12年中8年でした。指数は12年すべてで上昇しています。
6.規模別の違いと、この検証の限界
時価総額別にも見ました。ただし使う時価総額は現在の値で、過去の時点の規模とは一致しません。すでに上場廃止になった銘柄は含まれないため、生存バイアスもあります。そこで帯をまたいだ縦の比較はせず、それぞれの帯で、同じ帯の市場平均との差だけを見ています。
| 時価総額帯(現在値) | 銘柄数 | 掉尾全体 | 同帯の市場平均 | 差 | 後半 12/25→大納会 | 同帯の市場平均 | 差 | 後半が上回った年 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 100億円未満 | 1,187 | -0.950% | +0.330% | -1.280% | +2.322% | +0.123% | +2.199% | 12/12年 |
| 100億〜500億円 | 1,128 | +0.333% | +0.544% | -0.211% | +2.199% | +0.194% | +2.005% | 11/12年 |
| 500億〜3,000億円 | 836 | +0.474% | +0.609% | -0.135% | +1.852% | +0.216% | +1.636% | 10/12年 |
| 3,000億円以上 | 512 | -0.040% | +0.609% | -0.649% | +0.947% | +0.208% | +0.739% | 7/12年 |
掉尾全体で市場平均を上回った帯はありません。100億円未満では差が-1.280%、3,000億円以上でも-0.649%でした。一方、後半だけを見ると、100億円未満で+2.199%、3,000億円以上で+0.739%と、4つの帯すべてで同じ帯の市場平均を上回りました。
ただし3,000億円以上では、最も上げた3年を除くと差が-0.137%とマイナスになり、後半の優位が数年に支えられていました。ほかの3帯は、最も上げた3年を除いても差がプラスを保っています(100億円未満は+1.315%)。
結果を使う前に、次の点もご承知おきください。
- 独立した観測は12年分だけです。件数は各区間で47,756件ほどありますが、同じ年の銘柄は同じ相場環境で動きます。年を超えた安定性の根拠にはなりません
- 後半は3〜5営業日と短く、基準日の置き方に敏感です。12月25日を1営業日ずらすだけで平均は動きます
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、実際に約定できるかは考慮していません
- 配当は調整していません。12月決算企業の権利落ちは年末に集中しますが、価格にそのまま含まれています
- 上場廃止の扱い。データが途切れた銘柄は集計に入っておらず、実際より良い数字になっている可能性があります
7.よくある質問(FAQ)
Q. 掉尾の一振とは何ですか?基準日はどう決めましたか?
A. 年末の大納会に向けて、相場が最後に一伸びする現象を指す相場の格言です。今回は12月15日以前で最後の営業日の終値を起点に、大納会(その年の最終営業日)の終値までを「掉尾」としました。さらに12月25日以前で最後の営業日を境に、前半と後半に分けています。起点から大納会までは平均で約10.4営業日です。
Q. 12月後半は本当に上がっているのですか?
A. 12月15日から大納会までの全体で見ると、全銘柄の平均は-0.027%・勝率50.0%で、同じ年の同じ長さの全期間の平均(+0.501%)を下回りました。通説どおりに上がっているとは言えません。ただし12月25日以降の後半に絞ると平均+1.906%・勝率68.4%と、はっきり上がっています。
Q. なぜ12月25日以降だけが上がるのですか?
A. このデータだけでは理由を断定できません。年末の益出し・損出しの売りが出尽くす、年明けを前に持ち高を整える動きが入る、といった説明がよく語られますが、今回の検証ではその原因までは確かめていません。前半の12/15→12/25は平均-1.795%と下げており、後半の上昇はその反動を含んでいる可能性もあります。
Q. 後半は12年すべてプラスなら、毎年使えるのではありませんか?
A. 簡単ではありません。後半は12年中12年でプラスでしたが、期間はわずか3〜5営業日です。独立した観測は12年分しかなく、起点を1営業日ずらすだけで平均は動きます。最も上げた3年(2018年、2015年、2023年)を除いた平均は+1.077%まで下がります。投資判断はご自身でお願いします。
Q. 大納会当日の値動きはどうでしたか?
A. 大納会当日(前営業日の終値から大納会の終値)は平均+0.121%・勝率47.1%、中央値は+0.000%でした。同じ年の1日の市場平均は+0.049%で、差は+0.072%と小さく、当日だけが特別に強いわけではありません。
Q. 大納会のあと、年明けはどうなりますか?
A. 大納会から5営業日後は平均+0.897%・勝率56.2%、20営業日後は平均+1.307%・勝率52.7%でした。ただし最も上げた3年を除くと、5営業日後は+0.249%、20営業日後は+0.017%まで下がります。掉尾の勢いが年明けまで続くとは言い切れません。
Q. 小型株でも同じ傾向ですか?
A. 時価総額100億円未満の銘柄では、12/15→大納会の掉尾全体が平均-0.950%で、同じ帯の市場平均との差は-1.280%でした。後半だけを見ると平均+2.322%(差+2.199%)です。時価総額は現在の値で、すでに上場廃止になった銘柄は含まれない点に注意が必要です。
8.まとめ
「掉尾の一振」を、12年・47,756件(12/15→大納会の区間)で検証してわかったことを整理します。
- 12/15→大納会の全体では、掉尾は確認できませんでした。平均は-0.027%で、市場平均(+0.501%)を下回りました
- 理由は区間の内訳にあります。前半(12/15→12/25)が-1.795%と下げ、後半(12/25→大納会)が+1.906%・勝率68.4%と上げて、打ち消し合っていました
- 後半は12年中12年でプラス。最も上げた3年を除いても+1.077%が残り、時価総額の4つの帯すべてで同じ帯の市場平均を上回りました(最大の帯だけは3年を除くと差がマイナス)
- 前半の下げは、最も下げた3年を除くと-0.083%とほぼゼロで、少数の年が作っていました
- 大納会の20営業日後は、最も上げた3年を除くと+0.017%まで縮み、年明けへの持続性は確認できませんでした
格言は「12月後半が強い」と語られがちですが、数字で切り分けると、強かったのは12月25日以降の数営業日だけでした。それ以前の12月後半は、むしろ市場平均を下回っています。
ただし後半は期間が短く、独立した観測は12年分です。年末の数日に過去の傾向が続く保証はありません。格言を使うなら、日付だけで売買を決めるのではなく、数字で確かめたうえで、ご自身の判断で活用してください。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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