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MACDは、株価チャートのソフトにたいてい標準で入っている指標です。2本の線が下から上に交わったら買い、上から下に交わったら売り――ゴールデンクロスとデッドクロスという呼び方も広く知られています。

その合図どおりに動いていたのかを、東証全銘柄で数え直しました。2022年10月3日から2026年8月8日までに発生したクロスは326,016件(4,783銘柄・942営業日)。ゴールデンクロスが163,579件、デッドクロスが162,437件です。

結論を先に述べます。買いシグナルのほうが、成績が悪いという結果でした。ゴールデンクロス後の20営業日リターンは+1.106%で、市場全体の+1.296%を下回ります。一方デッドクロス後は+1.434%・勝率55.0%と、市場全体を上回りました。

「ゴールデンクロスで買い、デッドクロスで売り」という使い方は、この期間の日本株では裏返っていたことになります。

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

システムトレード

1.検証ルール

集計条件をすべて開示します。

  • データ:東証全銘柄の日足終値(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
  • 期間:2022/10/03〜2026/08/08(942営業日・4,783銘柄)
  • MACD:12日の指数平滑移動平均 − 26日の指数平滑移動平均
  • シグナル:MACDを9日で指数平滑したもの
  • ゴールデンクロス:前日はMACDがシグナル以下、当日はシグナルを上回った日
  • デッドクロス:前日はMACDがシグナル以上、当日はシグナルを下回った日
  • リターン:クロスが出た日の終値で買ったとして、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後
  • 比較対象:同じ期間の全銘柄全日(4,002,884件)の平均。これを「市場全体」と呼びます

比較対象を置いているのには理由があります。検証期間の日本株は上昇した年が多く、どんな条件で切り出してもプラスになりがちです。「プラスだった」ではなく「市場平均より良かったか」で見る必要があります。

2.ゴールデンクロスとデッドクロスの成績

まず全体像です。

MACDのゴールデンクロス・デッドクロス後の平均リターン

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
ゴールデンクロス163,579+0.096%+0.016%45.0%+0.259%48.8%+1.106%51.5%
デッドクロス162,437+0.116%+0.066%50.4%+0.294%53.1%+1.434%55.0%
市場全体(比較用)4,002,884+0.101%+0.068%48.0%+0.331%51.1%+1.296%53.4%

20営業日後の列を見てください。ゴールデンクロス+1.106%、デッドクロス+1.434%、市場全体+1.296%。買いシグナルが最も低く、売りシグナルが最も高いという並びです。

翌日終値で見るとさらにはっきりします。ゴールデンクロスは+0.016%・勝率45.0%。市場全体の+0.068%・48.0%を下回り、勝率は3ポイント以上低くなっています。

5営業日後も+0.259%対+0.331%で、どの期間を取っても市場平均に届きませんでした。

3.なぜ逆になるのか

理由を断定することはできませんが、指標の性質から考えられることはあります。

MACDは移動平均線の差から作られる指標です。ゴールデンクロスが出るのは、株価がある程度上げたあと。つまり買いシグナルが点灯した時点で、すでに上昇の一部は終わっていることになります。

逆にデッドクロスは、株価が下げたあとに出ます。そのタイミングで買うということは、下げた銘柄を拾う行為に近くなります。9月に公開した他の検証でも、下げた銘柄のほうがその後のリターンが高い傾向がくり返し出ていました。今回の結果も、その延長線上にあると考えると理解しやすくなります。

つまりMACDのクロスが「効いていない」というより、クロスの向きが、押し目か戻り売りかという別の要因を間接的に表しているという見方ができます。

4.「ゼロラインより上のクロスは強い」は本当か

MACDには、もう1つよく語られる使い方があります。MACD自体がゼロより上にあるとき(=短期の平均が長期の平均を上回っているとき)のゴールデンクロスは信頼できる、というものです。

クロスがゼロラインのどちら側で起きたかで分けた結果

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
ゴールデンクロス(ゼロより上)68,775+0.126%+0.043%45.6%+0.261%48.9%+1.268%52.7%
ゴールデンクロス(ゼロより下)94,804+0.075%-0.004%44.5%+0.257%48.8%+0.988%50.7%
デッドクロス(ゼロより上)108,516+0.108%+0.077%50.7%+0.310%53.5%+1.455%55.5%
デッドクロス(ゼロより下)53,921+0.131%+0.043%50.0%+0.260%52.3%+1.390%54.0%
市場全体(比較用)4,002,884+0.101%+0.068%48.0%+0.331%51.1%+1.296%53.4%

方向としては、この通説は当たっていました。ゼロラインより上のゴールデンクロスは20営業日後+1.268%・勝率52.7%。下で起きた場合の+0.988%・50.7%を明確に上回ります。

ただし、それでも市場全体の+1.296%には届いていません。条件を絞ることで悪い数字はマシになりましたが、平均を超えるところまでは行かなかった、というのが正確な読み方です。

デッドクロス側も同じ傾向で、ゼロラインより上が+1.455%、下が+1.390%。こちらは両方とも市場全体を上回りました。

5.この結果はどれくらい信頼できるか

極端な結果が出たときは、それが特定の日に偏っていないかを確かめる必要があります。市場全体が急変した数日でクロスが一斉に発生すれば、その数日で平均値が決まってしまうからです。

確認したところ、ゼロラインより上のゴールデンクロス68,775件は941営業日に広く分散していました。最も多かった上位3日を合わせても全体の1.4%です。

その3日を除いて集計し直しても、20営業日後は+1.268%から+1.264%へとわずかに動くだけでした。ゼロラインより下のクロスも+0.988%から+0.970%です。特定の相場に引きずられた結果ではありません

年別でも見ておきます。ゴールデンクロスの20営業日後は2022年+0.597%、2023年+1.619%、2024年+0.276%、2025年+1.840%、2026年+0.597%。どの年もプラスではありますが、2025年の+1.840%から2024年の+0.276%まで、相場環境による差は小さくありません。

6.この検証の限界

結果を使う前に、次の点をご承知おきください。

  • 単純なルールだけを試しています。「クロスした日の終値で買う」以外の条件は付けていません。銘柄の選別や、他の指標との組み合わせは考慮していません
  • 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、実際に約定できるかは考慮していません
  • パラメータは標準設定です。12日・26日・9日という一般的な組み合わせで計算しました。別の数値なら違う結果になる可能性があります
  • 観測が重なっています。同じ銘柄で何度もクロスが発生するため、326,016件が独立した試行というわけではありません

7.よくある質問(FAQ)

Q. MACDとは何ですか?

A. 2本の移動平均線の差から作る指標です。12日と26日の指数平滑移動平均の差をMACD、そのMACDをさらに9日で平滑したものをシグナルと呼びます。2本の線が交わるタイミングを売買の合図とする使い方が一般的です。

Q. ゴールデンクロスは買いシグナルではないのですか?

A. この期間のデータでは、買いシグナルとしての優位性は確認できませんでした。ゴールデンクロス163,579件の20営業日後は+1.106%で、市場全体の+1.296%を0.190ポイント下回っています。翌日の勝率も45.0%と、市場全体の48.0%より低い数字でした。

Q. デッドクロスのほうが成績が良いのはなぜですか?

A. デッドクロス162,437件の20営業日後は+1.434%・勝率55.0%で、市場全体を上回りました。理由まではデータから断定できませんが、デッドクロスは株価が下げたあとに出るため、下げた銘柄を買うことになり、結果として押し目買いに近い形になっているという見方はできます。

Q. 「ゼロラインより上のゴールデンクロスは強い」と聞きますが?

A. 方向としては合っていました。ゼロラインより上で起きたゴールデンクロスの20営業日後は+1.268%、下で起きた場合は+0.988%と0.280ポイントの差があります。ただし上で起きた場合でも市場全体の+1.296%には届いていません。

Q. この結果は特定の時期の影響を受けていませんか?

A. 発生日の偏りを確認しました。ゼロラインより上のゴールデンクロスは941営業日に分散しており、最も多かった上位3日を合わせても全体の1.4%です。その3日を除いても20営業日後は+1.268%から+1.264%とほとんど変わりません。

Q. 年によって結果は違いますか?

A. 違います。ゴールデンクロスの20営業日後は2022年+0.597%、2023年+1.619%、2024年+0.276%、2025年+1.840%、2026年+0.597%でした。どの年もプラスではあるものの、相場環境によって振れ幅は大きくなっています。

Q. MACDは使う意味がないということですか?

A. 本記事が検証したのは「クロスした翌日に買う」という単純なルールだけです。銘柄を絞り込んだうえで押し目のタイミングを測る、複数の時間軸で確認するなど、実際の使い方はさまざまです。クロスという事実そのものに平均的な優位性がなかった、という点だけをご理解ください。

8.まとめ

326,016件のクロスを数え直してわかったことを整理します。

  • ゴールデンクロスは市場平均に負けていました。20営業日後+1.106%に対し、市場全体は+1.296%。翌日の勝率も45.0%と市場全体の48.0%を下回ります
  • デッドクロスのほうが成績は上でした。20営業日後+1.434%・勝率55.0%で、市場全体を上回っています
  • 「ゼロラインより上のクロスは強い」は方向として正しいものでした。+1.268%対+0.988%。ただし市場平均には届きません
  • この結果は特定の日に依存していません。発生上位3日を除いても数字はほとんど変わりませんでした

MACDというよく知られた指標が、教科書どおりには機能していなかった。この事実をどう受け止めるかは、使う方それぞれの判断だと思います。

ひとつ言えるのは、指標が出す合図は「いま株価がどういう状態にあるか」を言い換えたものにすぎないということです。ゴールデンクロスは「最近上げた」、デッドクロスは「最近下げた」を別の形で表示しているだけ、と考えると、今回の結果はむしろ自然に見えてきます。合図の名前ではなく、その合図が何を意味しているかを確かめてみてください。

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「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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