株価が5日移動平均線から大きく離れたとき、「行き過ぎだから、そのうち戻る」と考える方は多いはずです。下に離れすぎたら反発し、上に離れすぎたら調整する。短期売買の基本として、よく語られる考え方です。
この「行き過ぎは戻る」を数字で確かめました。2014年1月1日から2026年9月10日までの全営業日・全銘柄、12,242,378件(5,393銘柄・3,089営業日)を、5日線からの乖離率で11区分に分けて集計しています。
結論を先に述べます。戻りの力は、下に離れた側にだけはっきり出ました。乖離-10%以下の5日後は+3.338%・勝率56.3%で、全体平均の+0.245%を+3.093ポイント上回っています。
一方、上に離れた側は期待ほどではありませんでした。乖離+7%以上の5日後は-0.139%と全体平均を下回りましたが、発生が多かった上位3日を除くと-0.002%まで縮みます。「上に離れすぎたら売り」と言えるほどの差は、確認できませんでした。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
- 期間:2014年1月1日〜2026年9月10日(3,089営業日・5,393銘柄・12,242,378件)。20営業日後のリターンまで計算できる範囲を対象にしています
- 5日線乖離率:(当日の終値÷5日移動平均−1)×100。当日の終値を含む5日間の単純平均
- 区分:-10%以下から+10%以上まで11区分(表の左端を参照)
- リターン:当日の終値で買ったとして、翌日の寄付き・翌日の終値・5営業日後の終値・20営業日後の終値
- 比較対象:同じ期間の全銘柄・全営業日の平均(以下「全体平均」)。翌日終値+0.049%、5日後+0.245%、20日後+0.969%
- 頑健性の確認:発生日の集中度、発生が多かった上位3日を除いた再集計、75日線との位置関係、年別
乖離率はふだん小さく、-1〜+1%に収まる日が全体の49.2%を占めます。-10%以下や+10%以上は、わずか0.4%と0.6%しか起きないまれな状態です。
2.5日線の下に離れた銘柄は戻るのか
まず下側です。5日線を下回って終えた銘柄が、その後どう動いたかを並べます。
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| 5日線乖離率(構成比) | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| -10%以下(0.4%) | 51,785 | +1.051% | +1.378% | 54.6% | +3.338% | 56.3% | +6.849% | 56.9% |
| -10〜-7%(0.8%) | 92,354 | -0.027% | +0.083% | 50.9% | +1.220% | 54.0% | +3.106% | 54.9% |
| -7〜-5%(1.5%) | 183,978 | +0.018% | +0.039% | 50.0% | +0.740% | 52.6% | +2.027% | 53.1% |
| -5〜-3%(4.6%) | 568,798 | +0.061% | +0.055% | 49.3% | +0.431% | 51.9% | +1.374% | 51.9% |
| -3〜-1%(17.8%) | 2,176,923 | +0.087% | +0.050% | 48.6% | +0.248% | 51.4% | +0.958% | 52.0% |
| -1〜+1%(49.2%) | 6,026,649 | +0.066% | +0.048% | 46.8% | +0.211% | 50.3% | +0.846% | 52.1% |
| 全体平均(比較用) | 12,242,378 | +0.080% | +0.049% | 47.0% | +0.245% | 49.9% | +0.969% | 51.4% |
5日後の列を、-1〜+1%から上へたどってください。+0.211%、+0.248%、+0.431%、+0.740%、+1.220%、+3.338%。下に離れた幅が大きいほど、戻りも大きくなるという、きれいな並びです。
5日後の勝率も、-3〜-1%の51.4%から-10%以下の56.3%まで上がります(全体平均49.9%)。
20日後でも差は開いたままで、-10%以下は+6.849%、全体平均は+0.969%でした。
見逃せないのは、小さな下げでは差が出ていない点です。-3〜-1%の5日後は+0.248%で、全体平均の+0.245%とほとんど変わりません。5日線を少し割った程度では、戻りの根拠にならないということです。差がはっきりしてくるのは、-7〜-5%(5日後+0.740%)より下の区分からでした。
3.5日線の上に離れた銘柄は下がるのか
次に上側です。ここでは翌日の寄付きも並べて見ます。
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| 5日線乖離率(構成比) | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| +1〜+3%(18.4%) | 2,257,667 | +0.051% | +0.022% | 45.9% | +0.202% | 48.3% | +0.904% | 50.1% |
| +3〜+5%(4.4%) | 542,231 | +0.090% | +0.009% | 44.8% | +0.152% | 46.5% | +0.959% | 48.0% |
| +5〜+7%(1.4%) | 174,202 | +0.106% | -0.040% | 43.4% | +0.009% | 44.5% | +1.105% | 46.8% |
| +7〜+10%(0.7%) | 90,912 | +0.099% | -0.123% | 41.6% | -0.247% | 42.1% | +1.104% | 45.1% |
| +10%以上(0.6%) | 76,879 | +1.530% | +0.539% | 42.6% | -0.012% | 39.7% | +0.432% | 40.9% |
| 全体平均(比較用) | 12,242,378 | +0.080% | +0.049% | 47.0% | +0.245% | 49.9% | +0.969% | 51.4% |
5日後の列は、+1〜+3%の+0.202%、+3〜+5%の+0.152%、+5〜+7%の+0.009%、+7〜+10%の-0.247%と、離れるほど低くなります。+7〜+10%では全体平均より0.492ポイント低く、勝率は42.1%でした。
ここまでは「行き過ぎは戻る」の形です。ところが+10%以上の5日後は-0.012%と、+7〜+10%よりむしろ高くなり、下側のような並びになっていません。
その理由は、翌日の値動きの中身にあります。+10%以上の翌日寄付きは+1.530%と、全区分で最も高い数字でした。急騰した銘柄は、翌朝もそのまま買われやすいということです。
ところが翌日の終値では+0.539%まで縮み、寄付きから終値までの日中の動きは-0.991%でした。寄付きで上げても、日中に失速しているわけです。5日後は-0.012%・勝率39.7%、20日後は+0.432%・勝率40.9%と、全体平均を下回って終わります。
まとめると、下に離れた銘柄の戻りは広く強く、上に離れた銘柄の失速は弱くて限定的です。同じ「行き過ぎ」でも、上下は対称ではありませんでした。
4.75日線の上か下かで、戻りの大きさが変わる
同じ乖離でも、銘柄が置かれている地合いは違います。そこで、終値が75日線の上にあるか下にあるかで、乖離-5%以下と乖離+5%以上を分けて集計しました。
| 乖離率 × 75日線との位置 | 件数 | 翌日終値 | 5日後 | 勝率 | 20日後 |
|---|---|---|---|---|---|
| -5%以下・75日線の上 | 81,208 | +0.152% | +0.445% | 48.2% | +0.564% |
| -5%以下・75日線の下 | 246,909 | +0.299% | +1.560% | 55.4% | +3.918% |
| +5%以上・75日線の上 | 265,517 | +0.065% | -0.040% | 42.3% | +0.506% |
| +5%以上・75日線の下 | 76,476 | +0.077% | -0.147% | 44.5% | +2.510% |
| 全銘柄・75日線の上(比較用) | 6,331,132 | +0.023% | +0.174% | 49.0% | +0.866% |
| 全銘柄・75日線の下(比較用) | 5,911,246 | +0.076% | +0.320% | 50.8% | +1.080% |
下側から見ます。乖離-5%以下の5日後は、75日線の下で終えたもの(246,909件)が+1.560%・20日後+3.918%、75日線の上で終えたもの(81,208件)が+0.445%・20日後+0.564%でした。
下落トレンドの中で急落した銘柄のほうが、戻りは大きくなっています。上昇トレンド中の押しも、75日線の上にある全銘柄の平均(5日後+0.174%)は上回りますが、戻りの大きさでは下の組み合わせに及びません。
発生が多かった上位3日を除いても順序は変わりません。75日線の下の組み合わせは上位3日が全体の4.2%で、除いた5日後は+1.172%、上の組み合わせは2.7%で+0.329%です。
上側の乖離+5%以上は、5日後が75日線の上で-0.040%、下で-0.147%と、どちらも全体平均を下回りました。
5.発生日の集中と、上位3日を除いた結果
極端な乖離は、市場全体が急変した数日に一斉に発生します。件数が多くても、その数日だけで平均値が決まっている可能性があります。そこで発生が多かった上位3日を除いて、集計し直しました。
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乖離-10%以下(51,785件)は、2,988営業日に分散して発生していますが、発生の上位3日だけで全体の12.1%を占めます。最多は2024年8月5日の2,999件、次が2025年4月7日の1,774件です。
この上位3日を除くと、5日後は+3.338%から+2.064%へ、20日後は+6.849%から+4.633%へ下がりました。急落日の分を除いても、全体平均(5日後+0.245%・20日後+0.969%)を大きく上回るという結論は変わりません。
乖離-7%以下(144,139件)も同様です。上位3日の占有率は6.3%で、除いた5日後は+1.370%(そのままだと+1.980%)でした。一方、翌日終値だけを見ると+0.549%が+0.195%に縮みます。短い期間の結果は急落日の影響を強く受け、5日後以降のほうが安定していました。
上側の乖離+7%以上(167,791件)は事情が違います。発生が集中したのは2020年3月25日(2,132件)を中心とした急反発の局面で、上位3日の占有率は2.3%でした。これを除くと5日後は-0.139%から-0.002%へ、ほぼゼロになります。上に離れすぎた銘柄の5日後がマイナスという結果は、頑健とは言えません。
年別にも確認します。
| 年 | 乖離-7%以下の件数 | -7%以下の5日後 | +7%以上の5日後 | 全銘柄平均の5日後 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年 | 9,407 | +2.316% | +0.376% | +0.342% |
| 2015年 | 10,435 | +4.608% | -0.759% | +0.234% |
| 2016年 | 13,821 | +2.920% | -0.676% | +0.320% |
| 2017年 | 4,772 | +0.520% | +0.914% | +0.658% |
| 2018年 | 17,443 | +2.261% | -0.297% | -0.399% |
| 2019年 | 6,168 | +0.150% | -0.033% | +0.392% |
| 2020年 | 26,642 | +0.163% | -0.512% | +0.127% |
| 2021年 | 6,809 | +0.593% | -0.620% | +0.139% |
| 2022年 | 8,994 | +0.578% | -1.083% | +0.023% |
| 2023年 | 6,959 | +0.891% | -0.134% | +0.407% |
| 2024年 | 12,780 | +4.931% | +1.018% | +0.172% |
| 2025年 | 10,896 | +3.264% | +0.332% | +0.523% |
| 2026年(9月まで) | 9,013 | +1.550% | +0.011% | +0.252% |
乖離-7%以下の5日後が全銘柄平均を上回った年は13年中11年、乖離+7%以上が下回った年は13年中9年でした。下側の戻りは多くの年で見られ、上側の弱さは年ごとのばらつきが大きくなっています。
6.この検証の限界
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、値幅制限や板の薄さで実際に約定できるかは考慮していません
- 翌日寄付きのリターンは、約定できる保証がありません。前日終値から翌日始値までを機械的に計算しています。ストップ高・ストップ安で値が付かない銘柄は、現実には買えない場合があります
- 極端な乖離は、小型株や出来高の細い銘柄に多く含まれます。流動性による絞り込みはしていません
- 同じ銘柄の連続した日が重なります。12,242,378件は独立した観測ではなく、実質的な標本の数はもっと少なくなります
- 上場廃止になった銘柄のその後は追えていません。抜けている分、下側の成績は実際より良く見えている可能性があります
7.よくある質問(FAQ)
Q. 5日線乖離率とは何ですか?
A. その日の終値が5日移動平均線から何%離れているかを表します。計算式は(終値÷5日移動平均−1)×100です。乖離-1〜+1%に収まる日が全体の49.2%を占めるため、大きな乖離はまれな状態です。
Q. 5日線から下に離れた銘柄は、戻りやすいのですか?
A. 離れた幅が大きいほど戻りも大きくなりました。乖離-10%以下の5日後は+3.338%・勝率56.3%で、全体平均の+0.245%を大きく上回ります。一方、乖離-3〜-1%の5日後は+0.248%と、全体平均とほぼ同じでした。
Q. 5日線から上に離れた銘柄は、売りで取れるのですか?
A. 明確には言えません。乖離+7%以上の5日後は-0.139%と全体平均を下回りましたが、発生が多かった上位3日を除くと-0.002%とほぼゼロになります。
Q. 乖離+10%以上の翌日寄付きが高いのはなぜですか?
A. 乖離+10%以上の翌日寄付きは+1.530%と全区分で最も高くなりました。理由は断定できませんが、急騰した銘柄の勢いが翌朝まで続きやすいのかもしれません。ただし日中の値動きは-0.991%と失速しています。
Q. 75日線との位置関係で結果は変わりますか?
A. 変わりました。乖離-5%以下の5日後は、75日線の下で+1.560%、上で+0.445%でした。下落トレンドの中で急落した銘柄のほうが戻りが大きい形です。
Q. 急落日の影響を除いても、結果は残りますか?
A. 5日後以降は残ります。乖離-10%以下は上位3日を除いても5日後が+2.064%と、全体平均の+0.245%を大きく上回りました。ただし翌日終値だけを見ると、-7%以下で+0.549%から+0.195%へ縮みます。
Q. この結果は毎年同じですか?
A. 乖離-7%以下の5日後が全銘柄平均を上回った年は13年中11年、乖離+7%以上が下回った年は13年中9年でした。下側の戻りのほうが再現性は高くなっています。
8.まとめ
12,242,378件を数え直してわかったことを整理します。
- 下に離れた側にだけ、戻りが出ました。乖離-10%以下の5日後は+3.338%・勝率56.3%で、全体平均+0.245%を大きく上回ります
- 上に離れた側の失速は弱く、頑健とは言えません。乖離+7%以上の5日後は-0.139%ですが、上位3日を除くと-0.002%になります
- 乖離+10%以上は、翌日寄付きが+1.530%と高く、日中は-0.991%と失速しました。5日後は-0.012%です
- 急落日の集中を除いても、下側の結果は残りました。-10%以下は上位3日を除いても5日後+2.064%です。ただし翌日だけの結果は急落日の影響を強く受けます
「行き過ぎは戻る」という言葉は、上と下を区別せずに使われがちです。しかし今回の数字は、戻りがはっきり見えるのは、大きく下に離れたときだけだったことを示しています。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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