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ADX(平均方向性指数)は、トレンドの向きではなく「強さ」だけを測る指標です。「ADXが25を超えたらトレンドが出ている。順張りの出番だ」と教わった方は多いのではないでしょうか。強いトレンドに乗れば大きく取れる、という発想は説得力があります。

この通説を確かめました。東証全銘柄の12,264,235件(5,408銘柄・3,084営業日)を、ADX(14)の水準と、+DI・-DIのどちらが優勢かで分けて集計しています。

結論を先に述べます。「ADXが高ければ順張りが効く」は成り立ちませんでした。

  • ADX25以上で+DIが優勢(上昇トレンド)の20営業日後は+0.954%・勝率49.4%。全体平均の+0.964%・勝率51.4%に届かない
  • 同じADX25以上でも、-DIが優勢(下降トレンド)だと+1.524%・勝率54.7%。通説とは逆に、下げの強い銘柄ほどその後が高い
  • ただし、その日の全銘柄平均を差し引くと、この下降トレンドの優位は+0.116%まで縮む

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

システムトレード

1.検証ルール

集計条件をすべて開示します。

  • データ:東証全銘柄の日足の高値・安値・終値(分割調整後)。出来高がゼロの日は除外
  • 期間:2014年1月6日〜2026年9月1日(20営業日後まで確認できる日まで)
  • +DI・-DI・ADX:Wilderの方法(14営業日)で計算。銘柄ごとの最初の45営業日は平滑値が安定しないため除外
  • 向き:+DIが-DIより大きければ「上向き」、小さければ「下向き」
  • ADXの水準:15未満から40以上までの6つ。強さの3区分は、20未満・20〜25・25以上
  • リターン:その日の終値で買ったとして、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後
  • 地合い差引:各銘柄のリターンから、その日の全銘柄の平均リターンを引いた超過リターン

比較対象は同じ期間の全銘柄平均で、5営業日後が+0.243%、20営業日後が+0.964%(勝率51.4%)です。

2.ADXが高いほど、その後は高かった

ADX(14)の水準別 その後の平均リターン

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まず向きを分けずに、ADXの水準だけで見ました。20営業日後は15未満の+0.755%から40以上の+1.350%まで、水準が上がるごとに高くなるきれいな右肩上がりです。

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
ADX15未満(全体の18.4%)2,251,871+0.066%+0.032%46.8%+0.168%49.8%+0.755%51.2%
ADX15〜20(全体の22.9%)2,808,544+0.069%+0.034%47.1%+0.186%49.9%+0.815%51.3%
ADX20〜25(全体の19.6%)2,398,392+0.081%+0.048%47.3%+0.234%50.1%+0.897%51.4%
ADX25〜30(全体の14.3%)1,748,385+0.090%+0.056%47.2%+0.278%50.2%+1.044%51.8%
ADX30〜40(全体の15.9%)1,953,524+0.097%+0.072%47.1%+0.326%50.2%+1.215%52.0%
ADX40以上(全体の9.0%)1,103,519+0.101%+0.071%45.6%+0.363%48.6%+1.350%50.3%
全体平均(比較用)12,264,235+0.081%+0.049%47.0%+0.243%49.9%+0.964%51.4%

5営業日後も同じ形で、20営業日後の差は0.595ポイントです。これだけ見ると、「ADXが高い銘柄ほど、その後も伸びる」という通説どおりに見えます。

ただし、勝率は同じ形になっていません。20営業日後の勝率は30〜40の52.0%まで緩やかに上がったあと、40以上では50.3%に下がります。平均は高いのに勝率は低い。一部の大きく上げた銘柄に平均が引っ張られている可能性があります。

3.伸びていたのは「下向き」だけだった

ADXは強さしか示しません。上昇トレンドの強さなのか、下降トレンドの強さなのかは、+DIと-DIで見分けます。そこで、+DIが優勢の「上向き」と、-DIが優勢の「下向き」に分けました。

ADXの水準と向き別 20営業日後の平均リターン

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景色が変わります。上向きは、ADXが15未満の+0.790%から30〜40の+1.024%まで、緩やかにしか上がりません。40以上では+0.884%に下がりました。一方、下向きは+0.719%から上がり続け、ADX40以上では+2.500%に達します。

勝率はさらにはっきりしています。上向きの20営業日後の勝率は、ADXが高くなるほど51.0%から47.9%へじりじり下がります。下向きは逆に51.4%から56.2%へ上がります。

通説でいう3つの強さ区分にまとめ直すと、次のとおりです。

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
ADX20未満・上向き(全体の21.0%)2,575,885+0.079%+0.041%46.7%+0.176%49.1%+0.815%50.8%
ADX20未満・下向き(全体の20.3%)2,484,530+0.056%+0.025%47.3%+0.179%50.6%+0.761%51.7%
ADX20〜25・上向き(全体の10.1%)1,241,052+0.090%+0.042%46.6%+0.198%48.9%+0.857%50.2%
ADX20〜25・下向き(全体の9.4%)1,157,340+0.072%+0.053%48.0%+0.273%51.4%+0.940%52.6%
ADX25以上・上向き(全体の23.4%)2,874,039+0.092%+0.038%45.9%+0.203%48.1%+0.954%49.4%
ADX25以上・下向き(全体の15.7%)1,931,389+0.100%+0.107%48.1%+0.487%52.4%+1.524%54.7%
全体平均(比較用)12,264,235+0.081%+0.049%47.0%+0.243%49.9%+0.964%51.4%

注目点は2つです。1つ目は、強い上昇トレンド(ADX25以上・上向き)が平均並みにとどまったこと。20営業日後は全体平均より0.010ポイント低く、勝率は2.0ポイント下回ります。順張りの優位は見当たりません。

2つ目は、強い下降トレンド(ADX25以上・下向き)が全体平均を0.560ポイント上回ったことです。上向きとの差は20営業日後で0.570ポイント、勝率でも5.3ポイントでした。なお、ADX20未満では上向きと下向きの差は0.054ポイントしかありません。

4.地合いを差し引くと、差はほぼ消えた

強い下降トレンドの銘柄が多く出るのは、市場全体が大きく下げた局面です。そのあとは全体が戻りやすいため、好成績は「市場全体が戻ったから」かもしれません。そこで、各銘柄のリターンからその日の全銘柄平均を差し引きました。

ADXの強さと向き別 地合いを差し引いた20営業日後の平均リターン

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区分件数5営業日後
そのまま
5営業日後
地合い差引
20営業日後
そのまま
20営業日後
地合い差引
ADX20未満・上向き2,575,885+0.176%-0.040%+0.815%-0.047%
ADX20未満・下向き2,484,530+0.179%-0.014%+0.761%-0.072%
ADX20〜25・上向き1,241,052+0.198%-0.029%+0.857%-0.061%
ADX20〜25・下向き1,157,340+0.273%+0.005%+0.940%-0.039%
ADX25以上・上向き2,874,039+0.203%+0.001%+0.954%+0.068%
ADX25以上・下向き1,931,389+0.487%+0.085%+1.524%+0.116%

ADX25以上・下向きの20営業日後は、+1.524%から+0.116%へ縮みました。全体平均との差0.560ポイントのうち、銘柄固有で説明できたのは20.7%にとどまります。

上向き・下向きの差も、地合い差引後は5営業日後で0.084ポイント、20営業日後で0.048ポイントです。見かけの差はほとんど地合いで説明できてしまいました。

ADXの水準別に超過リターンを見ても、20営業日後は15未満の-0.074%から40以上の+0.158%の範囲に収まります。

5.ADXの上昇・低下、+DI/-DIの交差はどうか

ADXの「水準」ではなく「動き」を見る使い方もあります。ADX25以上の銘柄を、ADXが5営業日前より上がっているか下がっているかで分けました。

上向きでは、20営業日後がADX上昇中で+0.989%、低下中で+0.903%。下向きでは上昇中+1.492%、低下中+1.563%です。差は上向きで0.086ポイント、下向きで0.071ポイント。5営業日後でも0.064ポイントと0.090ポイントにとどまります。トレンドが強まっているか弱まっているかは、その後の値動きに関係ありませんでした。

次に、+DIと-DIが交差した日です。「+DIが-DIを上抜けたら買い」がよく知られた使い方です。

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
+DIが-DIを上抜けた日(全体)553,555+0.118%+0.043%46.1%+0.129%48.2%+0.755%50.1%
+DIが-DIを上抜けた日(ADX25以上)76,172+0.249%+0.083%45.9%+0.018%46.9%+0.677%48.9%
-DIが+DIを上抜けた日(全体)553,682+0.037%-0.015%47.8%+0.127%50.4%+0.798%51.3%
-DIが+DIを上抜けた日(ADX25以上)89,262+0.020%-0.033%48.4%+0.256%51.1%+1.096%51.9%
全体平均(比較用)12,264,235+0.081%+0.049%47.0%+0.243%49.9%+0.964%51.4%

+DIの上抜けは、翌日寄付きこそ+0.118%と全体平均を0.037ポイント上回ります。しかし5営業日後は+0.129%、20営業日後は+0.755%と、全体平均を0.114ポイント、0.209ポイント下回りました。

ADX25以上の上抜けはもっとはっきりしています。翌日寄付きは+0.249%と高いものの、5営業日後は+0.018%まで下がりました。買いサインの上昇は、翌朝の寄付きで出尽くしていた形で、翌日寄付きから5営業日後までに0.231ポイントが失われています。

-DIの上抜けも、ADX25以上の20営業日後は+1.096%と全体平均を0.132ポイント上回り、売りサインにもなっていません。

6.この結果はどれくらい信頼できるか

極端な条件は、市場が急変した数日に一斉に発生しやすい性質があります。特定の日に集中していないかを確認しました。

発生が多かった上位3日を除いた20営業日後の平均リターン

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

ADX25以上・下向きの1,931,389件は3,083営業日に広く分散し、発生の集中度は低く、上位3日(2020年3月17日、2020年3月16日、2020年3月13日)でも全体の0.6%です。その3日を除いて集計し直しても、20営業日後は+1.524%から+1.449%と、ほとんど動きません。ADX25以上・上向きも上位3日は0.3%で、除いた20営業日後は+0.954%から+0.951%です。

例外が、最も成績が良かったADX40以上・下向きです。上位3日(2020年3月19日、2020年3月23日、2020年3月18日)が全体の2.3%を占め、この3日を除くと20営業日後は+2.500%から+2.189%に下がります。最も好成績に見えた区分ほど、2020年3月の暴落とその後の反発に支えられていました。

次に年別です。ADX25以上で、下向きが上向きを20営業日後で上回ったのは13年のうち11年でした。向きの違いは、おおむね毎年現れています。

ただし、年ごとの振れは小さくありません。上向きの20営業日後は2017年の+2.811%から2018年の-2.814%まで開き、マイナスの年が3年ありました。下向きでもマイナスが1年あります。地合いを差し引いた20営業日後がプラスだった年は、上向きが13年中9年、下向きが7年で、どちらかの向きが安定して勝つわけではありません。

この検証の限界も挙げます。

  • 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、約定できるかは考慮していません
  • 観測が重なっています。強いトレンドの状態は連日続くため、12,264,235件が独立した試行というわけではありません
  • 14日という設定の1例です。他の期間のADXや25・20以外のしきい値は確認していません
  • 上場廃止の扱い。データが途切れた銘柄のその後は追えず、下向き側は実際より良い数字になっている可能性があります

7.よくある質問(FAQ)

Q. ADX(平均方向性指数)とは何ですか?

A. トレンドの「強さ」を0〜100で表す指標で、上昇か下落かの方向は示しません。方向は+DIと-DIの大小で判断します。一般にADX25以上でトレンドあり、20未満でトレンドなしとされます。

Q. ADXが25を超えたら順張りが有利ですか?

A. 今回の数字では有利になっていません。ADX25以上・上向きの20営業日後は+0.954%・勝率49.4%で、全体平均の+0.964%・勝率51.4%に届きませんでした。

Q. ADXが高い下降トレンドの銘柄は買い場ですか?

A. 数字は高く、ADX25以上・下向きの20営業日後は+1.524%・勝率54.7%でした。ただし地合いを差し引くと+0.116%まで縮みます。

Q. 地合いを差し引くとはどういう意味ですか?

A. 各銘柄のリターンから、その日の全銘柄の平均リターンを引くことです。市場全体の動きによる数字の上げ下げを取り除くための処理です。

Q. ADXが上昇中か低下中かで結果は変わりますか?

A. ほとんど変わりません。ADX25以上・下向きの20営業日後で、上昇中と低下中の差は0.071ポイントでした。

Q. +DIが-DIを上抜けたら買いサインですか?

A. 5営業日後は+0.129%、20営業日後は+0.755%と、全体平均(+0.243%、+0.964%)を下回りました。買いサインとしての強みは確認できませんでした。

Q. この結果は特定の日や年に偏っていませんか?

A. ADX25以上・下向きは上位3日の合計が全体の0.6%で、日の集中はほぼありません。ただしADX40以上・下向きは2020年3月に集中し、除くと+2.500%から+2.189%に下がります。年別では13年中11年で下向きが上向きを上回りました。

8.まとめ

12,264,235件(銘柄×日)を数え直してわかったことを整理します。

  • ADXが高いほどその後は高く見えました。20営業日後はADX15未満の+0.755%から40以上の+1.350%へ上がります
  • 伸びていたのは下向きだけでした。ADX25以上・上向きは+0.954%で全体平均+0.964%に届かず、下向きは+1.524%です
  • 地合いを差し引くと差は消えます。ADX25以上・下向きの超過リターンは+0.116%、上向きは+0.068%です
  • ADXの上昇・低下は関係なく、+DIの上抜けも翌日寄付きの+0.249%(ADX25以上)をピークに、5営業日後は+0.018%まで下がりました
  • 最も好成績のADX40以上・下向きは2020年3月に集中しています

「ADXが25を超えたらトレンドが出ている」という説明は、トレンドの存在については正しいのでしょう。ただ、トレンドが出ていることと、そのトレンドに乗れば儲かることは、別の話でした。

強く下げた銘柄ほどその後に戻る傾向は出ましたが、差の大半は市場全体の動き、つまり地合いです。ADXの数字は銘柄の強さというより、市場がどの局面にあるかを映していると読むほうが、今回のデータには合っていました。

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<追伸>
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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