「上昇トレンドの銘柄が、75日線まで押してきた。ここは押し目買いのチャンスだ」。トレンドフォローを学ぶと、まず教わる考え方の一つです。中期の目安である75日線は、押し目の候補としてよく名前が挙がります。
その感覚を数字で確かめました。2014年1月6日から2026年9月30日までの東証全銘柄の日足、12,283,951件(5,388銘柄・3,112営業日)を、75日線の傾き別に分けて集計しています。
結論を先に述べます。75日線にタッチして守った銘柄は、どの傾きでも全体平均に届きませんでした。75日線が+1%以上の上向きの局面で守った銘柄(127,941件)の20営業日後は+0.749%で、全体平均の+0.932%を下回っています。翌日終値に至っては-0.084%と、マイナスでした。
意外だったのは、同じ日に75日線を割り込んで引けた銘柄のほうが、その後は強かったことです。上向きの局面で割り込んだ銘柄の5日後は+0.335%で、守った銘柄の+0.051%を上回りました。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)
- 期間:2014年1月6日〜2026年9月30日(3,112営業日・5,388銘柄・12,283,951件)。データの最終日の約20営業日前までとし、20日後の値が揃う日だけを集計
- 75日線:終値の75日単純移動平均。傾き:20営業日前の75日線と比べた変化率
- 傾きの4区分:下向き(-1%未満)/横ばい(-1〜+1%)/緩やか上昇(+1〜+4%)/強い上昇(+4%以上)
- タッチして守った:前日の終値は75日線の上。当日の安値が75日線以下まで下がったが、終値は75日線以上で引けた日
- 割り込んだ:前日の終値は75日線の上。当日の安値が75日線以下で、終値も75日線を下回った日
- タッチなし:当日の安値が75日線より上にあった日(比較用)
- リターン:当日の終値で買ったとして、翌日の寄付き・翌日の終値・5営業日後の終値・20営業日後の終値
- 全体平均:同じ期間・同じ条件で、すべての銘柄・すべての日を集計した平均(比較用)
判定できた日のうち、タッチして守った日は5.0%、割り込んだ日は6.1%でした。残りの89.0%はタッチなしです。押し目の候補になる日は、全体から見ればごく一部ということになります。
2.タッチして守った銘柄は、全体平均に届かなかった
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 下向き(-1%未満) | 82,096 | -0.098% | -0.173% | 42.3% | -0.116% | 45.0% | +0.152% | 45.5% |
| 横ばい(-1〜+1%) | 111,444 | -0.079% | -0.102% | 42.0% | +0.009% | 46.4% | +0.586% | 49.0% |
| 緩やか上昇(+1〜+4%) | 89,673 | -0.036% | -0.084% | 44.6% | +0.010% | 47.9% | +0.751% | 50.3% |
| 強い上昇(+4%以上) | 38,268 | +0.033% | -0.084% | 46.3% | +0.147% | 48.4% | +0.743% | 48.2% |
| 全体平均(比較用) | 12,283,951 | +0.081% | +0.050% | 47.0% | +0.246% | 49.9% | +0.932% | 51.2% |
表の翌日終値の列を見てください。守った銘柄は、下向き(-1%未満)で-0.173%、横ばい(-1〜+1%)で-0.102%、緩やか上昇(+1〜+4%)で-0.084%、強い上昇(+4%以上)で-0.084%と、4区分すべてでマイナスでした。全体平均は+0.050%のプラスです。
20営業日後でも状況は同じです。下向きの+0.152%から、横ばい+0.586%、緩やか上昇+0.751%、強い上昇+0.743%と上がっていきますが、全体平均の+0.932%には届きません。
75日線が下向きの局面で守った銘柄が、最も弱い結果でした。翌日終値-0.173%・勝率42.3%、5日後-0.116%・勝率45.0%です。
上昇中の75日線では、緩やか上昇の5日後が+0.010%、強い上昇が+0.147%と少しずつ良くなりますが、全体平均の+0.246%を上回る区分はありませんでした。
3.相場全体の上げ下げを除いても、結果は変わらなかった
75日線へのタッチは、相場全体が下げた日に増えるはずです。結果が相場全体の動きを映しているだけかもしれません。そこで、各銘柄のリターンから同じ日の全銘柄の平均リターンを引いた「超過リターン」で再集計しました。
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| 傾き・区分 | 件数 | 翌日終値 | 5日後 | 20日後 |
|---|---|---|---|---|
| 下向き・守った | 82,096 | -0.209% | -0.348% | -0.664% |
| 下向き・割り込んだ | 99,397 | +0.149% | +0.126% | -0.167% |
| 下向き・タッチなし | 713,593 | -0.056% | -0.229% | -0.611% |
| 横ばい・守った | 111,444 | -0.133% | -0.157% | -0.195% |
| 横ばい・割り込んだ | 134,644 | +0.144% | +0.141% | +0.071% |
| 横ばい・タッチなし | 1,302,836 | -0.014% | -0.008% | +0.158% |
| 緩やか上昇・守った | 89,673 | -0.116% | -0.165% | -0.039% |
| 緩やか上昇・割り込んだ | 110,213 | +0.096% | +0.111% | +0.187% |
| 緩やか上昇・タッチなし | 1,977,850 | +0.007% | +0.056% | +0.251% |
| 強い上昇・守った | 38,268 | -0.142% | -0.160% | -0.246% |
| 強い上昇・割り込んだ | 47,272 | +0.008% | +0.149% | +0.022% |
| 強い上昇・タッチなし | 1,749,573 | +0.002% | +0.020% | +0.089% |
守った銘柄の超過リターンは、4区分とも5日後がマイナスです(下向き(-1%未満)-0.348%、横ばい(-1〜+1%)-0.157%、緩やか上昇(+1〜+4%)-0.165%、強い上昇(+4%以上)-0.160%)。相場全体の動きを除いても、同じ日の他の銘柄に負けていたことになります。
さらに、75日線に触れない日(タッチなし)と比べてみます。緩やか上昇では、守った銘柄の20日後が+0.751%、タッチなしが+1.067%で、その差は-0.316%です。強い上昇でも差は-0.128%でした。
押し目まで待って買うより、75日線から離れたまま上昇している銘柄を持つほうが、平均的には結果が良かったということです。「押すのを待つ」ことの対価は、この集計からは見えませんでした。
4.割り込んだ銘柄のほうが強かった
今度は75日線を割り込んで引けた日です。
| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 下向き(-1%未満) | 99,397 | +0.192% | +0.156% | 48.6% | +0.328% | 50.0% | +0.668% | 49.0% |
| 横ばい(-1〜+1%) | 134,644 | +0.170% | +0.121% | 50.7% | +0.236% | 53.0% | +0.844% | 53.4% |
| 緩やか上昇(+1〜+4%) | 110,213 | +0.130% | +0.064% | 50.1% | +0.258% | 52.1% | +1.007% | 52.9% |
| 強い上昇(+4%以上) | 47,272 | +0.093% | +0.025% | 49.7% | +0.516% | 51.2% | +1.127% | 49.8% |
| 全体平均(比較用) | 12,283,951 | +0.081% | +0.050% | 47.0% | +0.246% | 49.9% | +0.932% | 51.2% |
割り込んだ銘柄は、4区分すべてで翌日終値がプラスです(下向き(-1%未満)+0.156%、横ばい(-1〜+1%)+0.121%、緩やか上昇(+1〜+4%)+0.064%、強い上昇(+4%以上)+0.025%)。守った銘柄がすべてマイナスだったのとは、対照的な結果です。
5日後の超過リターンも4区分ともプラスです。上向きの局面で割り込んだ銘柄全体(157,485件)では、5日後+0.335%・勝率51.8%、20日後+1.043%・勝率52.0%でした。
理由は断定できません。75日線を割り込む日は売りが一巡しやすく、短期的な反発が出やすいのかもしれません。ただしこれは「割り込んだら買い」という意味ではなく、平均値が上回ったというだけです。
5.発生日の集中と年別の結果
極端な条件の好成績や不成績は、市場全体が急変した特定の数日に偏っていることがあります。ここでは、発生日の集中度と、発生が多かった上位3日を除いた再集計で確認しました。
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| 区分 | 上位3日の占有率 | 件数 | 発生日数 | 20日後(そのまま) | 20日後(上位3日を除く) |
|---|---|---|---|---|---|
| 上向き(+1%以上)でタッチして守った | 0.9% | 127,941 | 3,107 | +0.749% | +0.737% |
| 強い上昇(+4%以上)でタッチして守った | 1.6% | 38,268 | 3,051 | +0.743% | +0.729% |
| 上向き(+1%以上)で割り込んだ | 1.3% | 157,485 | 3,106 | +1.043% | +0.990% |
| 下向き(-1%未満)でタッチして守った | 1.1% | 82,096 | 3,095 | +0.152% | +0.206% |
結果は、集中は小さいというものでした。上向きで守った銘柄は3,107営業日にわたって発生しており、最も多かった2015年7月9日(409件)、2026年3月9日(399件)、2018年2月6日(336件)の3日を合わせても全体の0.9%です。上向きで割り込んだ銘柄も、上位3日(2018年2月6日(961件)、2014年2月4日(587件)、2026年3月23日(560件))で1.3%にとどまります。
その3日を除いて再集計しても、上向きで守った銘柄の20日後は+0.749%から+0.737%へ、上向きで割り込んだ銘柄は+1.043%から+0.990%へと、ほとんど動きませんでした。特定の数日の影響で結果が決まっているわけではありません。
次に年別です。上向きで守った銘柄の20日後は、13年のうち11年でプラスでしたが、振れ幅は大きく、2017年の+2.755%から2020年の-1.270%までばらつきます。2018年(-1.204%)と2020年はマイナスで、相場が崩れた年に押し目買いが傷を広げた形です。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、当日の終値で実際に約定できるかは考慮していません
- 終値でタッチの成否が決まります。「終値が75日線以上で引けた」ことは、その日の引けにならないとわかりません。ここでは当日の終値で買えた前提で計算しています
- 上場廃止の扱い。データが途切れた銘柄のその後は追えていません。下げ続けて上場廃止に至った銘柄が抜けている分、実際より良い数字になっている可能性があります
- 同じ銘柄の連続した日が含まれます。独立した観測は、件数よりずっと少なくなります
7.よくある質問(FAQ)
Q. 75日線へのタッチは、どう判定していますか?
A. その日の安値が75日移動平均線以下まで下がり、かつ前日の終値が75日線の上にあった日をタッチとしました。終値が75日線以上で引けた日が「守った」、終値も75日線を下回った日が「割り込んだ」です。75日線は終値の単純移動平均で、傾きは20営業日前の75日線との比較で測っています。
Q. 上昇中の75日線にタッチした押し目は買いでしょうか?
A. 今回の集計では、買い場と言える結果は出ませんでした。75日線が+1%以上の上向きの局面で守った銘柄(127,941件)は、翌日終値が-0.084%、20日後が+0.749%で、全体平均の+0.050%、+0.932%を下回りました。
Q. 75日線の傾きが急なほど、押し目は効きやすいですか?
A. 傾きが強くなるほど少しずつ良くなる傾向はありますが、全体平均を超えるほどではありませんでした。5日後は、下向きの-0.116%から強い上昇の+0.147%まで改善しますが、全体平均の+0.246%には届いていません。
Q. 75日線を割り込んだら、その後は悪くなるのですか?
A. 今回の平均では逆でした。上向きの局面で割り込んだ銘柄(157,485件)は、5日後が+0.335%、20日後が+1.043%で、守った銘柄より高い結果です。ただし平均値の話であり、個々の銘柄で同じことが起きるとは限りません。
Q. 特定の相場局面に結果が偏っていませんか?
A. 偏りは小さいと考えています。上向きで守った銘柄の発生は3,107営業日に分散しており、最も多い上位3日でも全体の0.9%でした。その3日を除いても、20日後は+0.749%から+0.737%と、ほぼ変わりません。
Q. 年によって結果は違いますか?
A. 違います。上向きで守った銘柄の20日後は、2017年+2.755%、2018年-1.204%、2020年-1.270%、2025年+2.080%と、年によって大きく振れました。13年のうち11年はプラスでしたが、プラスだったからといって全体平均を上回ったとは限りません。
Q. この結果をそのまま売買に使えますか?
A. そのままの利用はおすすめできません。売買コストや上場廃止銘柄のその後は考慮しておらず、平均値の検証のため、個別の銘柄で同じ結果になる保証もありません。
8.まとめ
12,283,951件(5,388銘柄・3,112営業日)を、75日線の傾き別に数え直してわかったことを整理します。
- 75日線にタッチして守った銘柄は、4区分すべてで翌日終値がマイナス。上向きの局面(127,941件)でも20日後は+0.749%と、全体平均の+0.932%を下回りました
- 75日線が下向きの局面でタッチした銘柄が最も弱く、5日後は-0.116%・勝率45.0%でした
- 同じ日の全銘柄平均を引いても結果は変わらず、守った銘柄の5日後はどの傾きでも超過リターンがマイナスでした
- 割り込んだ銘柄のほうが強い。上向きの局面では5日後+0.335%、20日後+1.043%と、守った銘柄を上回りました
- 発生日の集中は小さく(上位3日で0.9%)、上位3日を除いても結果はほぼ変わりませんでした。ただし年による振れは大きく、2018年と2020年はマイナスでした
「75日線まで押したら買い」という考え方は、教科書的にはもっともらしく聞こえます。しかし、今回の数字が示したのは、線にタッチして持ち直したという事実だけでは、その後の強さの根拠にならなかったということでした。
押し目買いを使うなら、75日線へのタッチだけで判断せず、他の条件との組み合わせで検証してみてください。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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