「相場が過熱しているときのストップ高は、天井が近いから避けたほうがいい」。逆に「相場が冷え込んでいるときのストップ高こそ、本物の材料だから強い」という声もあります。
どちらが正しいのか、数字で確かめました。2015年1月5日から2026年9月14日までの19,816件のストップ高(2,846日・3,124銘柄)を、ストップ高が出た日の25日騰落レシオで6つに分けて集計しています。
結論を先に述べます。翌日の結果は、騰落レシオの水準でほとんど変わりませんでした。翌日終値の平均は、最も低い区分が+3.473%、最も高い区分が+4.745%で、差は1.272%です。市場平均の+0.048%と比べれば、どの区分も大きく上回っています。
差が出たのは20営業日後でした。騰落レシオ120以上の日に出たストップ高は+6.603%(勝率47.6%)と最も高く、100〜110の+0.595%との差は6.008%に広がります。「過熱時のストップ高は避ける」という通説とは逆の結果です。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(リターンは株式分割の影響を除いた調整後株価、ストップ高の判定は調整前の実際の株価)
- 期間:2015年1月5日〜2026年9月14日(2,859営業日。20営業日後まで追える範囲)
- ストップ高:終値ベース。前日終値からの上昇幅が、JPXの値幅制限の上限とほぼ一致した日(差は制限幅の1%未満)。併合などの見かけ上の急騰は除外
- 騰落レシオ:過去25営業日の値上がり銘柄数の合計 ÷ 値下がり銘柄数の合計 × 100。ストップ高が出た当日の終値時点の値を使用
- 区分:騰落レシオ80未満/80〜90/90〜100/100〜110/110〜120/120以上の6つ。追加で、同じ日の東証全体のストップ高件数でも分けた
- リターン:ストップ高日の終値を基準に、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後
- 比較対象:同期間の全銘柄の平均(市場平均。11,524,915件)
ストップ高は1日あたり平均7.0件出ており、騰落レシオの中央値は101.8でした(期間の最高は153.8、最低は45.4)。
2.騰落レシオの水準別に見た結果
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 80未満(全体の7.4%) | 1,471 | +5.182% | +3.473% | 55.9% | +2.322% | 47.7% | +2.915% | 47.6% |
| 80〜90(全体の13.2%) | 2,614 | +5.942% | +3.849% | 56.6% | +3.583% | 48.7% | +1.951% | 45.0% |
| 90〜100(全体の22.9%) | 4,530 | +6.187% | +4.218% | 56.5% | +4.876% | 47.4% | +1.605% | 42.2% |
| 100〜110(全体の25.2%) | 4,987 | +6.356% | +3.906% | 55.7% | +3.728% | 44.3% | +0.595% | 40.3% |
| 110〜120(全体の18.7%) | 3,711 | +6.397% | +4.086% | 55.8% | +4.043% | 45.9% | +2.525% | 43.0% |
| 120以上(全体の12.6%) | 2,503 | +6.548% | +4.745% | 56.5% | +5.652% | 47.7% | +6.603% | 47.6% |
| ストップ高すべて | 19,816 | +6.208% | +4.077% | 56.1% | +4.169% | 46.6% | +2.298% | 43.3% |
| 市場平均(比較用) | 11,524,915 | +0.081% | +0.048% | 47.0% | +0.238% | 49.8% | +0.915% | 51.2% |
まず、ストップ高そのものの強さを確認します。ストップ高全体の翌日終値は+4.077%(勝率56.1%)、5日後は+4.169%、20日後は+2.298%でした。市場平均の+0.048%、+0.238%、+0.915%を、すべての期間で上回っています。
次に、水準別の違いです。翌日終値を上から順にたどると、80未満が+3.473%、80〜90が+3.849%、90〜100が+4.218%、100〜110が+3.906%、110〜120が+4.086%、120以上が+4.745%。勝率はどの区分も55.7%〜56.6%の範囲に収まりました。
最も高い区分でも最も低い区分との差は1.272%で、翌日だけを見るなら、騰落レシオの水準はほとんど判断材料にならないといえます。
3.差が出るのは20日後だった
水準で差が開くのは、日数が経ってからです。
5日後の平均は、80未満が+2.322%、120以上が+5.652%で、差は3.330%。20日後になると、120以上が+6.603%・勝率47.6%、100〜110が+0.595%・勝率40.3%で、差は6.008%、勝率の差は7.3ポイントです。
20日後を市場平均(+0.915%)と比べると、120以上は+5.688%上回るのに対し、100〜110は-0.320%と、市場平均を下回りました。ストップ高であっても、20日後には市場平均に埋もれる区分があるということです。
しかも並び方は単純な右肩上がりではありません。20日後を順に並べると、80未満+2.915%、80〜90+1.951%、90〜100+1.605%、100〜110+0.595%、110〜120+2.525%、120以上+6.603%。真ん中の100前後で最も低く、両端で高くなる谷の形です。
ただし谷の左側(80未満)は、後述のとおり特定の時期に偏っています。
もう一点、見ておきたいことがあります。ストップ高全体の20日後は平均+2.298%と市場平均を上回る一方、勝率は43.3%と、市場平均の51.2%より7.9ポイント低くなっています。中央値は-3.709%です。平均を引き上げているのは一部の大きく上がった銘柄で、多くのストップ高銘柄は20日後には上がっていない点に注意が必要です。
4.ストップ高の件数が多い日は強いのか
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騰落レシオとは別に、その日に東証全体でストップ高が何件出たかでも分けてみました。
| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1〜4件(全体の13.1%) | 2,588 | +7.407% | +4.478% | 57.1% | +4.113% | 44.0% | +1.558% | 39.3% |
| 5〜9件(全体の47.7%) | 9,454 | +6.332% | +3.912% | 55.1% | +3.942% | 44.5% | +1.348% | 41.1% |
| 10〜19件(全体の31.6%) | 6,269 | +5.852% | +4.104% | 56.2% | +4.378% | 48.7% | +3.048% | 45.8% |
| 20件以上(全体の7.6%) | 1,505 | +4.846% | +4.317% | 60.3% | +4.817% | 55.3% | +6.409% | 53.7% |
| 市場平均(比較用) | 11,524,915 | +0.081% | +0.048% | 47.0% | +0.238% | 49.8% | +0.915% | 51.2% |
翌日寄付きは、件数が少ない日ほど高くなります。1〜4件の日は+7.407%、20件以上の日は+4.846%です。ストップ高が少ない日は、その銘柄に買いが集中するため、翌朝の窓が大きくなるのでしょう。
ところが20日後は逆転します。1〜4件の日は+1.558%・勝率39.3%、20件以上の日は+6.409%・勝率53.7%で、差は4.851%です。ストップ高が何銘柄も出るほど相場が熱い日のストップ高は、その後も伸びやすいという形になりました。
ただし20件以上の日は全部で56日しかありません。件数は1,505件でも、独立した観測は日数に近くなります。次の章で確認します。
5.発生日の集中と、上位日を除いた結果(頑健性チェック)
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ストップ高は、相場が急変した数日にまとまって出ることがあります。特定の日に集中していると、その数日の値動きだけで平均が決まってしまいます。そこで、発生が多かった上位3日を除いて集計し直しました。
ストップ高全体では、上位3日が占める割合は1.0%にすぎず、2,846日に分散しています。上位3日を除いた5日後は+4.194%で、除く前の+4.169%とほぼ変わりません。20日後も+2.298%から+2.200%へのわずかな変化です。
主役の120以上では、上位3日の占める割合が3.3%と低く、上位3日を除いた20日後は+6.881%(除く前は+6.603%)でした。特定の数日に頼った結果ではありません。100〜110も、占める割合は1.4%で、除いた後は+0.679%と、弱いままです。
一方、騰落レシオ80未満には注意が必要です。この区分は上位3日が10.2%を占め、その3日は2020/03/25(68件)、2020/03/24(48件)、2020/03/23(34件)と、2020年3月のコロナショック直後に集中しています。上位3日を除くと20日後は+2.915%から+1.830%へ、1.085%下がりました。谷の左側が高く見えるのは、この時期の影響が混ざっているためです。
ストップ高が20件以上出た日も同様で、上位3日の占める割合は13.6%、その3日は2024/08/06(88件)、2020/03/25(68件)、2020/03/24(48件)です。除くと20日後は+6.409%から+5.581%へ0.828%下がりますが、1〜4件の日より高い水準は残りました。
年別にも見ておきます。120以上の20日後は、2015年+1.945%、2016年+5.696%、2017年+12.103%、2018年-6.414%、2019年+5.755%、2020年+5.756%、2021年+0.010%、2022年+4.561%、2023年+11.841%、2024年+8.075%、2025年+6.139%、2026年+11.657%でした。12年のうち11年がプラスで、マイナスだったのは2018年だけです。100〜110は2015年+0.188%、2016年+3.291%、2017年+6.899%、2018年+5.097%、2019年+1.860%、2020年+1.834%、2021年-2.631%、2022年-7.171%、2023年-1.877%、2024年-1.900%、2025年+0.124%、2026年+1.523%で、12年のうちプラスは8年、マイナスは2021年・2022年・2023年・2024年でした。ストップ高全体でも、マイナスの年は2021年・2022年の2年があります。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 基準はストップ高日の終値です。その価格は、翌日に買い注文が殺到する水準で、実際に買えることはほとんどありません。翌日寄付きの+6.208%も、市場平均より6.127%高いのですが、その上昇分を取れるとは限りません
- 独立した観測の数は件数よりずっと少なくなります。同じ日のストップ高銘柄は同じ相場環境を共有しているためです
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、約定のしやすさは考慮していません
- 上場廃止の扱い。データが途切れた銘柄のその後は追えていません
- 時価総額・業種・材料の有無は区別していません
7.よくある質問(FAQ)
Q. 騰落レシオ(25日)はどう計算していますか?
A. 過去25営業日の値上がり銘柄数の合計を、値下がり銘柄数の合計で割って100を掛けた値です。この検証では、STOCK.dbに入っている東証の全銘柄の前日比から自分で計算しました。市販の指標とは対象銘柄の範囲が違うため、数値が少しずれる場合があります。
Q. ストップ高はどう判定していますか?
A. 終値ベースで、前日終値からの上昇幅が、JPXの値幅制限の上限とほぼ一致した日(差が制限幅の1%未満)をストップ高としました。株式併合などで株価が飛んだだけの日を拾わないよう、調整後の騰落率との整合も確認しています。場中にタッチしただけで、引けでは戻した日は含みません。
Q. 騰落レシオが高いとき、ストップ高は買わないほうがいいですか?
A. 今回のデータでは逆でした。騰落レシオ120以上の日に出たストップ高は、20日後が+6.603%・勝率47.6%と、6区分で最も高くなりました。ただし、これはストップ高日の終値で買えた場合の数字で、実際にその価格で買えるとは限りません。
Q. 翌日の結果は騰落レシオで変わりますか?
A. ほとんど変わりません。翌日終値の平均は、最も低い80未満で+3.473%、最も高い120以上で+4.745%と、差は1.272%にとどまります。市場平均の+0.048%とは桁が違うので、ストップ高であること自体の影響のほうが大きいといえます。
Q. ストップ高の件数が多い日は、翌日以降も強いのですか?
A. 20件以上出た日のストップ高は、20日後が+6.409%・勝率53.7%でした。1〜4件の日の+1.558%・勝率39.3%を上回ります。ただし20件以上の日は56日しかなく、日数が少ない点に注意が必要です。
Q. 特定の日に偏った結果ではありませんか?
A. ストップ高全体では、発生が多かった上位3日が占める割合は1.0%にすぎず、その3日を除いても5日後は+4.194%と、除く前の+4.169%とほぼ同じでした。一方、騰落レシオ80未満では上位3日の占める割合が10.2%と高く、2020年3月に集中しています。区分ごとに確認が必要です。
Q. この結果をそのまま売買に使えますか?
A. そのままでは使えません。ストップ高日の終値は、翌日に買い注文が殺到する水準で、実際には約定できないことが多いためです。売買コストも含んでいません。市場全体の過熱感によってストップ高銘柄の見え方が変わるか、という傾向を確かめる材料としてご覧ください。
8.まとめ
19,816件のストップ高を、日の騰落レシオと突き合わせてわかったことを整理します。
- 翌日は水準でほとんど変わりません。翌日終値は+3.473%(80未満)から+4.745%(120以上)の範囲で、差は1.272%。市場平均の+0.048%は全区分が上回ります
- 差が出るのは20日後です。120以上は+6.603%・勝率47.6%、100〜110は+0.595%・勝率40.3%で、差は6.008%
- 過熱時のストップ高を避ける理由は、このデータからは見つかりませんでした。上位3日を除いても120以上は+6.881%を保ち、12年のうち11年でプラスです
- 騰落レシオ80未満の好成績は、2020年3月への集中が大きい。上位3日を除くと+2.915%から+1.830%へ下がります
- ストップ高が20件以上出た日は、20日後も強い(+6.409%)。ただし56日分のデータです
- ストップ高全体の20日後の勝率は43.3%で、市場平均を下回ります。平均は一部の銘柄が引き上げています
今回の数字は、ストップ高の強さが市場全体の温度とは別のところで決まっていることを示しています。ただしストップ高日の終値で買えることはほとんどないため、追うかどうかの判断ではなく、市場の状況で見え方がどう変わるかを確かめる材料としてご活用ください。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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