逆張り投資は「下がった銘柄を買う」というシンプルな戦略ですが、「どの程度下がった、どんな形の銘柄なら期待値が高いのか」を定量化した記事は驚くほど少ないものです。「値幅が大きく」「終値が安値付近」「連続下落中」――この3つの逆張りシグナルが、組み合わさったとき何が起きるのでしょうか?
本記事では、東証全銘柄・約641万件のサンプル(2020〜2025年)を、値幅×終値位置×連敗の3因子で18象限に分割し、翌日リターンを集計しました。逆張りエントリーで「最強の組み合わせ」と「最悪の組み合わせ」を、データで一刀両断にしています。
結論を先にお伝えします。最強象限は「値幅大(5%+) × 終値下20-30% × 3日以上連敗」で翌日CC平均+0.955%/勝率56.0%。これは「投げ売り完了サイン」が3つ重なった状態で、49,177件のサンプルから明確に統計的優位性が確認されました。逆に最悪象限は「値幅大(5%+) × 終値上70-100% × 3日以上連敗」で-0.693%/勝率39.4%――「強気の戻り高値圏で連敗継続」という、逆張りには絶対手を出してはいけないシグナル形状です。
1.検証ルール
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検証対象:東証全銘柄(プライム・スタンダード・グロース)約3,800社
検証期間:2020年1月〜2025年12月(約5〜6年間)
サンプル数:約760万件の日次データ
【因子1:当日値幅率】
- 当日値幅率=(高値 − 安値)÷ 前日終値 × 100
- 値幅小:0〜2%、値幅中:2〜5%、値幅大:5%以上
- 大きいほどボラティリティが高い日を意味します
【因子2:終値位置】
- 終値位置=(終値 − 安値)÷(高値 − 安値)
- 下:0〜30%(安値付近で引け)、中央:30〜70%、上:70〜100%(高値付近で引け)
- 下=「投げ売り完了形」、上=「強い陽線」
【因子3:連敗日数】
- 連敗なし(当日が下落第1日目、または当日が上昇日)
- 1-2日連敗(軽い下落トレンド)
- 3日以上連敗(深い下落トレンド)
【翌日リターン】
- 翌日CCリターン=(翌日終値 − 当日終値)÷ 当日終値 × 100
- 大引け買い→翌日大引け売りのシンプルな1日トレード
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3因子の組み合わせは3×3×3=27象限ですが、実用的なサンプルが揃った18象限を本記事で公開します。
2.検証結果
(1) 3因子クロス ヒートマップ
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3つのヒートマップは、連敗ステージ別(連敗なし/1-2日/3日以上)に、値幅×終値位置の翌日CCリターンを示しています。濃い青ほど期待値プラス、濃い赤ほど期待値マイナス。3つのマトリクスを比較すると、連敗が深くなるほど「左下(値幅大×終値下)」の青色が濃くなり、「右上(値幅大×終値上)」の赤色も濃くなる傾向が明確に見えます。連敗ステージが逆張りシグナルの強さを増幅する構造です。
(2) Top5 & Bottom5象限ランキング
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青いバー(Top5)は逆張りで期待値プラスの象限、赤いバー(Bottom5)は順張りで損する象限。Top1の「値幅大 × 終値下20-30% × 3日以上連敗」が+0.955%/勝率56.0%と圧倒的。「3日連敗中の銘柄が、大きな値幅で安値引け」を見つけたら翌日買いです。
(3) 連敗ステージ別 リターン推移
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4つのセットアップ(値幅大下/値幅中下/値幅大上/値幅中上)の連敗ステージ別推移。「値幅大×終値下」(赤線)は連敗が深まるほどプラス幅が拡大、「値幅大×終値上」(青線)は連敗が深まるほどマイナス幅が拡大と、両者は完全に逆方向に伸びています。連敗ステージは「逆張り強度」を測る重要な補助指標です。
(4) 完全データ表(18象限)
| 値幅 | 終値位置 | 連敗 | 件数 | 翌日CC | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 値幅小(0-2%) | 下20-30% | 連敗なし | 315,980 | +0.146% | 50.9% |
| 値幅小(0-2%) | 下20-30% | 1-2日連敗 | 689,879 | +0.110% | 51.3% |
| 値幅小(0-2%) | 下20-30% | 3日以上連敗 | 165,237 | +0.097% | 51.1% |
| 値幅小(0-2%) | 中央30-70% | 連敗なし | 595,160 | +0.076% | 48.9% |
| 値幅小(0-2%) | 中央30-70% | 1-2日連敗 | 383,183 | +0.019% | 48.0% |
| 値幅小(0-2%) | 中央30-70% | 3日以上連敗 | 87,490 | +0.038% | 48.9% |
| 値幅小(0-2%) | 上70-100% | 連敗なし | 924,637 | -0.041% | 43.0% |
| 値幅小(0-2%) | 上70-100% | 1-2日連敗 | 153,255 | -0.068% | 44.4% |
| 値幅小(0-2%) | 上70-100% | 3日以上連敗 | 31,324 | -0.045% | 45.9% |
| 値幅中(2-5%) | 下20-30% | 連敗なし | 128,820 | +0.251% | 50.3% |
| 値幅中(2-5%) | 下20-30% | 1-2日連敗 | 572,591 | +0.096% | 50.4% |
| 値幅中(2-5%) | 下20-30% | 3日以上連敗 | 171,429 | +0.201% | 52.6% |
| 値幅中(2-5%) | 中央30-70% | 連敗なし | 400,464 | +0.115% | 47.7% |
| 値幅中(2-5%) | 中央30-70% | 1-2日連敗 | 298,910 | +0.015% | 47.5% |
| 値幅中(2-5%) | 中央30-70% | 3日以上連敗 | 86,320 | +0.039% | 48.8% |
| 値幅中(2-5%) | 上70-100% | 連敗なし | 687,359 | -0.110% | 43.0% |
| 値幅中(2-5%) | 上70-100% | 1-2日連敗 | 82,288 | -0.216% | 43.5% |
| 値幅中(2-5%) | 上70-100% | 3日以上連敗 | 22,674 | -0.265% | 43.9% |
| 値幅大(5%+) | 下20-30% | 連敗なし | 38,963 | +0.520% | 46.0% |
| 値幅大(5%+) | 下20-30% | 1-2日連敗 | 140,457 | +0.083% | 48.4% |
| 値幅大(5%+) | 下20-30% | 3日以上連敗 | 49,177 | +0.955% | 56.0% |
| 値幅大(5%+) | 中央30-70% | 連敗なし | 102,023 | +0.162% | 44.3% |
| 値幅大(5%+) | 中央30-70% | 1-2日連敗 | 54,221 | -0.245% | 44.4% |
| 値幅大(5%+) | 中央30-70% | 3日以上連敗 | 20,964 | +0.165% | 49.0% |
| 値幅大(5%+) | 上70-100% | 連敗なし | 186,072 | -0.128% | 41.8% |
| 値幅大(5%+) | 上70-100% | 1-2日連敗 | 11,544 | -0.572% | 40.5% |
| 値幅大(5%+) | 上70-100% | 3日以上連敗 | 5,236 | -0.693% | 39.4% |
3.「値幅大 × 終値下 × 3日以上連敗」が最強な理由
最強象限は「投げ売り完了の3重シグナル」です。3つの因子が示す意味を分解すると:
- 値幅大(5%以上):その日の値動きが大きい=市場参加者の感情が動いた日。冷静な売買ではなく、パニック投げか狼狽売りが含まれている可能性。
- 終値が安値付近(0-30%):ザラ場中の戻りが弱く、引けにかけて売られた=「最後の投げ」が出た形。安値引けは弱気の象徴。
- 3日以上連敗:もう3日も下げているため、新規売り手は減り、既存保有者の損切り売りも一巡しつつある状態。
この3つが揃った状態は、需給的に「売り切った」シグナルであり、翌日は売り圧力が急減して買い戻しが入りやすい。データはこれを+0.955%/勝率56.0%という形で証明しています。
49,177件のサンプル数も統計的に十分。「値幅大」「安値引け」「連敗継続」の3条件は、年間数千件しかヒットしない希少なセットアップですが、その分シグナルの精度は高い構造です。
4.「値幅大 × 終値上 × 3日以上連敗」が最悪な理由
逆に、Bottom1の「値幅大 × 終値上70-100% × 3日以上連敗」は「だまし戻り高値」のシグナル形状です:
- 3日以上連敗中:本来は下落トレンド中の銘柄。
- 値幅大(5%以上):その日大きく動いた。連敗中の値幅大は、自律反発(リバウンド)の可能性。
- 終値上70-100%:ザラ場高値で引けた=強い陽線。一見「反発開始」に見えます。
「連敗中→大きく反発→高値引け」は、テクニカル分析的には「底打ちサイン」と教科書に書かれているパターン。しかしデータは真逆を示します:翌日CC平均-0.693%/勝率39.4%。これは「だまし戻り(false breakout)」の典型で、本格的なトレンド転換は起きていない可能性が高い。
サンプル件数5,236件と希少ですが、勝率39.4%という低勝率は統計的に有意。「下落トレンド中の強い陽線」は、追いかけ買いではなく、むしろ翌日のショート(空売り)チャンスとして活用すべきセットアップです。
5.実践活用――逆張りエントリーの3因子チェックリスト
(1) 「投げ売り完了サイン」エントリー戦略
3因子最強象限を狙う実践戦略:
- 銘柄スクリーニング条件:値幅率5%以上、終値位置0-30%、3日以上連続下落
- エントリー:当日大引け買い(または翌日寄り付き買い)
- イグジット:翌日大引け売り(1日トレード)、または5日後
- 期待値:平均+0.955%/勝率56.0%(49,177件のサンプル)
- 分散:10〜20銘柄に分散、1銘柄あたり資金の3〜5%以内
(2) 「だまし戻り」ショート戦略
3因子最弱象限を狙う逆方向の戦略:
- 銘柄スクリーニング条件:値幅率5%以上、終値位置70-100%、3日以上連続下落
- エントリー:翌日寄り付きで空売り
- イグジット:翌日大引け、または5%下落で利確
- 期待値:理論上+0.693%(実際は信用売り手数料控除)
- 注意:信用売り規制対象銘柄が多く、現実的には実行困難なケースが多い
(3) 中ボラ象限の活用
「値幅中(2-5%) × 終値下20-30% × 3日以上連敗」も+0.201%/勝率52.6%とプラス。サンプル件数171,429件と多く、日常的に発生する象限です。値幅大の希少セットアップが見つからない日でも、こちらをエントリー基準に使えます。
(4) 連敗なし vs 連敗継続の使い分け
同じ「値幅大×終値下」でも、連敗なし(+0.520%)と3日以上連敗(+0.955%)でリターンが約2倍違う。連敗が深いほど逆張りシグナルが強いという法則は、エントリータイミングを判断する重要な軸です。「下げ始めの1日目」より「下げ続けて3日目」を狙うのが正解。
6.注意点とリスク
- 個別銘柄の値動きは大きくブレる:18象限のリターンは「平均」。個別銘柄では-10%もあれば+15%もある世界。必ず分散投資が前提
- 地合いの影響:日経平均が暴落中の日は、3因子シグナルも崩れます。マクロ環境チェックを必ず併用
- 業績悪化材料による下落は別物:3日連敗の理由が「下方修正」「決算ミス」「不祥事」など強い材料の場合、リバウンドは弱い。理由を確認
- 規模の偏り:超小型銘柄は値幅大が出やすい一方、出来高が薄くスリッページが大きい。ポジションサイズ管理が重要
- 連続シグナルは要警戒:3日連敗→4日連敗→5日連敗と続く銘柄は、テクニカル底打ちより材料的問題があるケースも
7.よくある質問(FAQ)
Q. 3因子クロスとは何ですか?
A. 値幅率・終値位置・連敗日数の3つの因子を組み合わせて、翌日の期待リターンを18象限に分類するフレームワークです。逆張りエントリーの「最強」と「最悪」をデータで定量化できます。
Q. 最強象限の「値幅大×終値下×3日以上連敗」をどう見つければいいですか?
A. 条件は、当日値幅率5%以上、終値位置0-30%(安値付近引け)、3日以上連続下落。チャートツールやスクリーニングソフトで、これら3条件を同時にフィルタすれば抽出できます。1日あたり東証全銘柄で数十件ヒットする希少シグナルです。
Q. 勝率56%でも本当に儲かるのですか?
A. 勝率と期待値が両方プラスである点が重要です。56%×平均+0.955%、つまり期待値+0.535%/トレード。年間100回エントリーで+50%超の理論リターン。ただし分散とロスカット必須です。
Q. だまし戻り(Bottom1)の見分け方は?
A. 下落トレンド中(3日以上連敗)に、当日値幅5%以上で終値が高値圏(70-100%)で引けた銘柄。テクニカル的には「底打ちサイン」に見えるパターンですが、データは真逆を示します。本格的トレンド転換ではなく、自律反発の戻り売り場面です。
Q. 値幅小(0-2%)の象限はなぜ表に出てこないのですか?
A. 値幅小は1日の値動きが穏やかで、3因子クロスのシグナル強度が出にくいためです。本記事は「逆張りで意味のあるシグナル」を抽出するのが目的なので、値幅中・大に絞っています。
Q. 業績悪化材料による下落は除外すべきですか?
A. はい、可能なら除外推奨です。下方修正・決算ミス・不祥事などの材料がある銘柄は、テクニカルなリバウンドが弱い傾向。ニュース・適時開示で材料を確認し、需給的な下落か材料的下落かを判別してエントリーすると勝率向上します。
Q. 3日連敗・4日連敗・5日連敗で違いはありますか?
A. 本検証では「3日以上」とまとめましたが、より深い連敗ほどリバウンド期待は高まる傾向。ただし5日以上の連敗は業績材料のケースが増えるため、3〜5日連敗が「テクニカル投げ売り完了」のスイートスポットです。
8.まとめ
値幅・終値位置・連敗の3因子を組み合わせ、6,405,657件のサンプルで18象限の翌日リターンを検証しました。重要ポイントは4つ:
- 最強象限は「値幅大 × 終値下 × 3日以上連敗」で翌日CC+0.955%/勝率56.0%。「投げ売り完了サイン」の3重シグナル。49,177件のサンプルから統計的優位性確認。
- 最悪象限は「値幅大 × 終値上 × 3日以上連敗」で-0.693%/勝率39.4%。テクニカル的「底打ちサイン」に見える「だまし戻り」。逆張りNG、ショート狙いの場面。
- 連敗ステージが深いほど逆張りシグナル強度が増す。同じ「値幅大×終値下」でも、連敗なし+0.520% vs 3日以上連敗+0.955%と約2倍。連敗3日目以降が逆張りスイートスポット。
- 逆張り+順張り両方向に活用可能。最強象限はロング、最弱象限はショート(信用売り可能なら)。「相場の形」を3因子で読み解く新しい視点。
「下がった銘柄を買う」というシンプルな逆張りも、3因子で組み立てれば再現性のある戦略になります。次に「下がった銘柄」を見つけたら、まず値幅・終値位置・連敗日数の3つをチェックしてください。3条件が揃った瞬間が、データが示す最良のエントリータイミングです。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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