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「同じストップ安でも、業種によって戻りやすさは違うのではないか」――もしこの体感が本物なら、業種を見るだけでストップ安銘柄をふるいにかけられることになります。そこで東証33業種の分類ごとに、ストップ安のその後を集計してランキングにしてみました。

検証期間は2022年10月3日から2026年7月31日までの約3年10か月です。株価データベースの4,818銘柄を走査し、値幅制限いっぱいまで下げて引けた「引けストップ安」1,894件を抽出。翌日の寄り付き・翌日終値・5営業日後のリターンを業種別に比べました。発生件数20件未満の業種は数字が安定しないためランキングから外し、別枠にしています(対象15業種/別枠17業種)。

結論を先にお伝えします。5営業日後リターンの首位は機械の+8.69%(72件・勝率65.3%)、最下位は医薬品の-2.10%(100件)で、差は約10.8ポイント。全業種平均は翌日終値-2.59%、5営業日後+0.28%でした。数字だけなら、上位業種は拾ってもよさそうに見えます。

ところが頑健性を確認したところ、順位表の意味が一変しました。1,894件のうち520件(27.5%)が2024年8月5日というたった1日に集中していたのです。いわゆる令和のブラックマンデーで、翌日に相場全体が急反発した日でもあります。この1日を除くと15業種すべてが5営業日後マイナス、全体平均も-7.22%・勝率27.9%まで沈みました。業種差は確かにありますが、それは「どこが儲かるか」ではなく「どこが傷が浅いか」の差だった、というのが今回の答えです。

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

システムトレード

1.検証ルール

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検証対象:株価データベース収録の東証全銘柄 4,818銘柄(ETF・ETN・REIT・指数は除外)
検証期間:2022年10月3日〜2026年7月31日
サンプル数:引けストップ安 1,894件
ランキング採用基準:発生20件以上(15業種)/20件未満は別枠(17業種)

【ストップ安の判定方法】

  • 日本取引所グループの価格帯別値幅制限テーブルを使い、前日終値から制限値幅いっぱいまで下げて引けた日を対象とします(許容度は制限値幅の99.5%)。ザラ場で一時的に下限へ触れただけの日は含めません。
  • 判定には分割調整前の実際の売買価格を使いました。調整後株価で判定すると、株式併合を行った銘柄で適用する値幅制限を取り違えます(実際に1銘柄で54件の誤検出を確認しました)。一方リターン計算は、分割をまたいでも連続する調整後株価を使用。分割・併合の権利落ち日は判定対象から除外しています。

【集計するリターン】いずれもストップ安当日終値を起点に、平均値・中央値・勝率(プラスで終わった割合)を算出します。

  • 翌日オーバーナイト(ON):翌日始値 ÷ 当日終値 − 1
  • 翌日終値(CC):翌日終値 ÷ 当日終値 − 1
  • 5営業日後:5営業日後の終値 ÷ 当日終値 − 1

【業種分類の定義】

  • 銘柄マスターが持つ業種コード(整数値)を使いました。社名を業種コードごとに突き合わせた結果、1〜33が東証33業種の標準的な並び順と一致していたため、この対応表を採用しています(1=水産・農林業、2=鉱業、3=建設業……33=サービス業)。
  • コード0は指数・ETF・不動産投資法人などで、事業会社ではないため集計から除外しました。
  • 34以降と空欄は旧分類の名残や上場廃止銘柄の受け皿で対応が確定できないため、「その他(分類不明)」としてランキングから外しています(27件)。

【頑健性チェック】業種ごとに「最も発生が多かった1日の比率」「上位3銘柄の比率」を算出し、特定の1日や少数銘柄への偏りを確認。あわせて発生が突出した2024年8月5日を除いた再集計も行いました。

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2.検証結果

(1) 業種別 5営業日後リターンのランキング

東証33業種別ストップ安5営業日後リターンのランキング

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

青が全期間、赤が2024年8月5日を除いた場合です。全期間では機械+8.69%、輸送用機器+5.53%、不動産業+4.12%と続き、10業種がプラス圏に並びます。ところが赤い棒はすべてマイナス側。1日を抜いただけで、プラスだった業種が例外なく反転しました。

全業種平均は5営業日後+0.28%(勝率47.0%)ですが、中央値は-1.49%です。平均がプラスで中央値がマイナスという時点で、少数の大きな戻りが全体を押し上げていたことが分かります。暴落日を除けば-7.22%・勝率27.9%。首位の機械でさえ-1.91%で、これが15業種中で最も浅い傷でした。最も深いのは建設業の-9.24%です。

(2) 上位業種と下位業種の翌日の値動き

業種別ストップ安翌日のリターンと勝率

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

上段が翌日終値リターン、下段が翌日にプラスで終わった割合です。機械は+2.72%・勝率61.1%と明確に反発し、不動産業も勝率55.1%と5割を超えました。一方の下位グループでは医薬品-4.45%、小売業-4.02%、そして小売業は勝率29.8%と全業種最低で、10回に7回は翌日もさらに下げていた計算です。

見落とせないのが翌日オーバーナイトです。全業種平均-2.40%、暴落日を除くと-5.38%。ストップ安の翌朝は、寄り付いた時点ですでに数%沈んでいます。その他製品-4.69%、医薬品-4.62%は特に厳しく、「翌朝なら安く拾える」という発想は成立しにくいことが分かります。

(3) 業種別ランキング完全データ

順位・業種件数翌日ON翌日CCCC勝率5営業日後5日勝率暴落日比率暴落日除く5日後
1.機械72+1.80%+2.72%61.1%+8.69%65.3%44.4%-1.91%
2.輸送用機器29+0.49%+0.57%44.8%+5.53%65.5%37.9%-2.48%
3.不動産業69-1.11%-0.11%55.1%+4.12%52.2%34.8%-6.15%
4.電気機器129-0.72%+0.11%48.8%+2.91%55.0%32.6%-4.35%
5.非鉄金属28-2.93%-3.70%46.4%+2.80%60.7%35.7%-8.70%
6.卸売業73-2.56%-3.50%37.0%+1.66%42.5%27.4%-5.80%
7.建設業30-1.30%+0.50%53.3%+1.62%53.3%40.0%-9.24%
8.その他製品43-4.69%-3.39%37.2%+1.01%48.8%23.3%-6.30%
9.情報・通信業514-2.13%-2.54%40.3%+0.69%45.3%27.2%-6.56%
10.化学63-1.64%-1.97%50.8%+0.17%54.0%28.6%-8.69%
11.精密機器32-4.62%-4.65%37.5%-1.25%50.0%21.9%-7.68%
12.食料品25-3.14%-2.39%48.0%-1.32%40.0%28.0%-7.78%
13.サービス業407-3.22%-3.68%36.9%-1.69%42.3%23.3%-8.24%
14.小売業104-3.09%-4.02%29.8%-1.78%36.5%23.1%-7.49%
15.医薬品100-4.62%-4.45%37.0%-2.10%46.0%16.0%-7.39%
【全業種平均】1,894-2.40%-2.59%41.4%+0.28%47.0%27.5%-7.22%

右端の「暴落日除く5日後」を縦に眺めると結論がはっきりします。プラスの業種は一つもありません。機械の-1.91%から建設業の-9.24%まで、順位こそ入れ替わりますが全業種が沈んでいます。

(4) 集中度チェックとサンプル僅少の業種

順位を信じてよいか確かめるため集中度を測りました。ランキング15業種すべてで、最も発生が多かった日は2024年8月5日で一致。比率は機械44.4%、建設業40.0%と高く、医薬品は16.0%と最低でした。上位業種ほど、この1日の急反発に順位を支えられていたことになります。

銘柄の偏りも残ります。上位3銘柄の比率は精密機器46.9%、その他製品41.9%に達し、業種全体の数字をごく一部の銘柄が作っている状態です。逆に情報・通信業は514件が268銘柄・242日に分散し、上位3銘柄は4.5%。統計的に最も信頼できるこの業種の数字が、5営業日後+0.69%、暴落日を除けば-6.56%・勝率25.9%でした。

次は発生20件未満でランキングから外した17業種です。参考値であり、投資判断の根拠にはできません。

業種(サンプル僅少)件数銘柄数翌日CC5営業日後最頻日の比率
銀行業1919-0.08%+7.67%74%
ガラス・土石製品1810-1.87%+0.20%28%
金属製品1713-2.08%-0.67%24%
証券、商品先物取引業1610-0.60%+2.97%25%
電気・ガス業135-6.60%-8.98%8%
保険業126-0.83%-2.96%42%
繊維製品116-9.75%-10.49%9%
パルプ・紙75+5.28%+8.85%57%
倉庫・運輸関連業74-3.73%-0.17%29%
鉱業61-10.27%-23.31%17%
その他金融業65-1.28%+1.84%33%
海運業63-1.77%+5.42%33%
鉄鋼32-4.41%-1.32%33%
陸運業32-9.93%-14.92%33%
水産・農林業21-16.28%-35.91%50%
ゴム製品22+3.32%+20.17%50%
石油・石炭製品11+11.59%+18.60%100%

この表は「なぜ20件で足切りするか」の実例集でもあります。銀行業は+7.67%と好成績に見えますが、19件中74%が2024年8月5日の1日で、実質その日の反発を測っているだけです。件数が一桁の業種では5営業日後が-35.9%から+20.2%まで散らばりました。

3.なぜ業種で差が出るのか

暴落日を除いた後も-1.91%から-9.24%まで約7ポイントの開きが残ります。この差の背景を、数字と照らしながら考えてみます。

  1. 悪材料が「相場全体」由来か「その会社」由来か:機械や電気機器のような景気敏感セクターは、為替や海外景気で一斉に売られます。機械の44.4%が暴落日に固まっていたのがその証拠です。相場全体が原因なら相場が戻れば株価も戻ります。逆に医薬品は暴落日比率16.0%と最低で、81日に散らばって発生していました。開発中止や承認見送りなど企業価値そのものが書き換わる材料が中心で、相場が戻っても株価は戻りません。5営業日後-2.10%という最下位はこれで説明がつきます。
  2. 「下値の目安」を持っているか:不動産業は保有資産、機械は受注残というかたちで、どこまで下げれば割安かの判断材料が比較的はっきりしています。翌日勝率55.1%・61.1%という数字は、下げたところに買い手が現れやすいことを示唆します。
  3. 悪材料が一過性か、繰り返し確認されるか:小売業の翌日勝率29.8%は全業種最低でした。既存店売上高のように毎月事実が更新される業種では続報が定期的に届き、下げが一日で終わりません。建設業や非鉄金属が暴落日を除くと-9.24%・-8.70%と最も深く沈むのも、工事採算や市況の悪化が数か月続く性質と整合します。
  4. 期待で買われている度合い:情報・通信業514件とサービス業407件だけで全体の49%近くを占めます。成長期待で買われた銘柄が多く、期待が剥がれると適正株価の拠り所が乏しくなります。暴落日を除いた5営業日後は-6.56%・-8.24%で、じりじり下げ続ける形です。
  5. そもそもストップ安になりにくい業種がある:別枠の17業種には内需・規制業種や重厚長大型が多く並びました。日々の値動きが値幅制限に比べて小さく、制限いっぱいまで下げること自体がまれです。件数の少なさは「安全だから」ではなく「発生条件を満たしにくいから」であって、期待値の高さを意味しません。
  6. 投資家層と信用取引の影響:精密機器やその他製品は上位3銘柄で46.9%・41.9%を占め、売買が偏っています。信用取引の残高が積み上がった銘柄では、ストップ安が追加保証金や強制決済の引き金となり、投げ売りが翌日以降も続きやすくなります。翌日オーバーナイトが-4.69%・-4.62%と沈むのは、寄り付き前に売り注文が積み上がっている状態の反映です。

4.データが示す正解戦略

1,894件の集計から読み取れる方針を、優先度の高い順に整理します。

  • 「業種が上位だから買う」は成立しません:2024年8月5日を除けばランキング15業種すべてが5営業日後マイナス、全体-7.22%・勝率27.9%。業種名は買いの根拠になりません。
  • 効いていたのは業種ではなく「その日が何の日か」でした:520件が1日に集中し、その日を含むか否かで平均が+0.28%と-7.22%に分かれます。個別材料によるストップ安と、相場全体が売られた日のストップ安は別物として扱う必要があります。
  • 平常時の単独ストップ安は業種を問わず見送りが基本:翌日終値-6.37%・勝率24.0%、5営業日後-7.22%・勝率27.9%。4回に3回は負ける計算で、逆張り対象としては分が悪すぎます。
  • 翌朝の寄り付きは「安い入口」ではありません:翌日オーバーナイトは全体-2.40%、暴落日を除くと-5.38%。前日終値で買えるわけではなく、寄り付いた時点で不利を背負います。
  • 業種情報は「避ける側」で使うほうが実用的:医薬品(-2.10%)、小売業(-1.78%)、小売業(翌日勝率29.8%)のように平常時も戻りが鈍い業種を候補から外す、という消去法が現実的です。

なお本記事の数値はいずれも手数料・税金・スリッページを含まない理論値です。実際の成績はこれより悪くなります。過去約3年10か月の傾向であり、将来同じ結果になることを保証するものではありません。

5.実践活用

(1) 「全体パニック日」か「単独の悪材料」かを切り分ける

  • 大引け後、その日のストップ安が何件あったかを数えます。2024年8月5日のように1日で数百件規模に膨らむ日は、明らかに相場全体の要因です。
  • ストップ安が特定業種に偏らず市場全体へ散らばっているかも確認します。全体パニック日は業種を問わず発生します。
  • その銘柄だけが単独でストップ安なら、決算や下方修正など個別の材料が原因です。この平常時パターンの5営業日後が-7.22%・勝率27.9%でした。

(2) 平常時のストップ安に出会ったときの確認手順

  • 材料の性質を読む:業績の下方修正か、開発の中止か、不祥事か。企業価値そのものが書き換わる材料なら、株価はその水準に居着きます。
  • 続報が出る種類かを考える:月次売上や受注のように数字が定期更新される業種では、悪材料が繰り返し確認されます。小売業の翌日勝率29.8%がその現れです。
  • 財務の耐久力を確認する:自己資本比率、有利子負債、営業キャッシュフロー、継続企業の前提に関する注記の有無。ここが弱ければ下落は1回では終わりません。
  • その業種の平常時の期待値を思い出す:表の右端がそれにあたります。すべてマイナスである以上、「買わない」が最も期待値の高い選択になる場面が大半です。

(3) それでも関わる場合のリスク管理

  • 資金配分を先に決める:勝率が3割を切る局面では、1銘柄あたりの金額を通常より小さくしないと連敗で資金が削られます。
  • 寄り付きで飛びつかない:寄り付き段階の平均が-5.38%(暴落日を除く)である以上、寄り付き成行は不利な入口になりがちです。
  • 損切り価格を注文前に決める:翌日もストップ安で売買が成立しないことがあります。想定より深い損失になり得る前提で金額を決めてください。
  • 平均値だけで判断しない:今回も全体平均+0.28%に対し中央値は-1.49%でした。自分で検証する際は中央値と発生日の分布を必ず併せて見てください。

6.注意点とリスク

  • 順位の大半が特定の1日に依存しています:1,894件中520件(27.5%)が2024年8月5日に集中し、ランキング15業種すべてで最頻発生日がこの日でした(機械44.4%、建設業40.0%)。上位業種の数字を「その業種の平常時の性質」と読み替えないでください。
  • サンプル僅少の17業種は数字を鵜呑みにできません:件数が一桁の業種では5営業日後が-35.9%から+20.2%まで散らばりました。1件・2件の結果はその業種の性質ではなく偶然です。
  • 少数銘柄への集中も残ります:精密機器は上位3銘柄で46.9%、その他製品は41.9%。20件以上あっても実質数銘柄を見ているだけの業種があります。
  • 手数料・スリッページで実リターンは目減りします:本記事の数値は売買コストを含まない理論値です。ストップ安の翌日は板が薄く値動きも荒いため、想定価格で約定しないのが常態で、数%程度の差はコストで簡単に消えます。
  • 売買が成立しないリスクがあります:ストップ安が連日続けば売却したくても約定しません。信用取引では追加保証金や強制決済に至る可能性もあります。
  • 上場廃止・経営破綻の可能性を無視できません:今回の集計でも上場廃止銘柄の一部は業種が判別できず「その他(分類不明)」(27件、5営業日後-9.20%)に回り、ランキングから外れています。実際の期待値は表の数字よりやや悪い可能性があります。
  • 業種分類は推定を含みます:業種コードと東証33業種の対応は社名の突き合わせによる推定で、公式の対応表に基づくものではありません。業種変更や上場廃止の履歴も反映されていません。
  • 過去の傾向であり将来を保証しません:検証は2022年10月〜2026年7月の約3年10か月です。金利や為替の局面が変われば業種ごとの反応も変わります。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

7.よくある質問(FAQ)

Q. ストップ安からいちばん戻りやすい業種はどこですか?

A. 全期間の5営業日後リターンで首位は機械(+8.69%、72件、勝率65.3%)でした。ただし発生の44.4%が2024年8月5日に集中しており、この日を除くと-1.91%とマイナスに転じます。「戻りやすい業種」ではなく「相場全体が急反発した日に一緒に戻った業種」と理解するのが正確です。

Q. なぜ2024年8月5日を特別扱いしているのですか?

A. この1日だけでストップ安が520件発生し、全1,894件の27.5%を占めるためです。しかも翌日に相場全体が急反発したため、この日のサンプルだけが極端に良い数字になります。ランキング15業種すべてで最頻発生日がこの日で一致しており、除外して再集計しないと業種本来の性質を測れません。

Q. 暴落日を除くと、本当にすべての業種がマイナスなのですか?

A. はい。ランキング対象15業種すべてが5営業日後マイナスでした。最も浅い機械で-1.91%、最も深い建設業で-9.24%、全体では-7.22%・勝率27.9%です。平常時のストップ安を逆張りで拾う行為には統計的な裏付けがない、という結果になります。

Q. いちばん信頼できる業種の数字はどれですか?

A. 情報・通信業です。514件が268銘柄・242日に分散し、上位3銘柄の比率は4.5%と最低。特定銘柄や特定日に偏っていない点で信頼度は最も高い部類です。その数字は5営業日後+0.69%、暴落日を除くと-6.56%・勝率25.9%でした。

Q. なぜ20件を足切りラインにしたのですか?

A. ストップ安はストップ高より発生数が少なく、業種で割ると一桁になる業種が続出するためです。実際、ランキングから外した17業種では5営業日後が-35.9%から+20.2%まで散らばりました。1件や2件のサンプルから業種の性質を読み取ることはできません。

Q. ストップ安の翌日、寄り付きで買えば安く拾えるのではないですか?

A. データは逆を示しています。翌日オーバーナイト(翌日始値÷当日終値−1)の平均は全体-2.40%、2024年8月5日を除くと-5.38%。前日終値で買えるわけではなく、寄り付いた時点ですでに数%下で始まっているということです。さらに手数料とスリッページも差し引かれます。

Q. ストップ安の判定に調整後株価を使ってはいけないのはなぜですか?

A. 株式分割や併合を行った銘柄では、調整後株価が実際に売買された価格と大きく異なるためです。値幅制限は前日終値の価格帯ごとに決まるため、調整後株価で判定すると適用する制限値幅を取り違えます。今回も調整後株価で判定した場合、1銘柄だけで54件の誤検出が発生し、特定業種の平均を大きく歪めていました。判定は分割調整前の売買価格、リターン計算は調整後株価、と使い分けています。

8.まとめ

東証33業種別に、1,894件のストップ安のその後を検証しました。要点は5つです。

  1. 首位は機械(5営業日後+8.69%・72件)、最下位は医薬品(-2.10%・100件)で差は約10.8ポイント。全業種平均は+0.28%・勝率47.0%でした。
  2. その順位の大半は2024年8月5日の1日が作っていました。1,894件中520件(27.5%)がこの日に集中し、ランキング15業種すべてで最頻発生日が一致しています。
  3. この1日を除くと15業種すべてが5営業日後マイナス。全体-7.22%・勝率27.9%、翌日終値でも-6.37%・勝率24.0%です。
  4. 業種差として残るのは「傷の浅さ」の違いでした。相場全体の要因で売られる機械や電気機器は戻りやすく、個別材料で売られる医薬品(暴落日比率16.0%と最低)や、悪材料の続報が届き続ける小売業(翌日勝率29.8%と最低)は戻りにくい、という構図です。
  5. 業種情報は「買う理由」ではなく「避ける理由」として使うのが実用的です。平常時のストップ安を業種名だけを根拠に拾う判断には、データ上の裏付けがありません。

「業種を選べばストップ安は買い場になる」という仮説は、今回のデータでは支持されませんでした。むしろ浮かび上がったのは、平均値だけを見ていると正反対の結論に到達してしまうという事実です。全体平均+0.28%、中央値-1.49%、暴落した1日を除いた平均-7.22%――同じデータから3つの違う顔が出てきます。

下げ続けている銘柄を拾いにいく行為は、外れたときの損失も、売りたくても売れない事態も、最悪の場合は上場廃止も引き受けることになります。手数料とスリッページを差し引けば、表の数字はさらに削られます。ストップ安の銘柄を前にしたときは業種名で判断せず、「その日は相場全体が売られた日か、それともこの会社だけの問題か」をまず確認してください。その切り分けこそ、1,894件のデータが示した最も再現性のある視点です。

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「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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