「1,000円の大台を回復」「節目の5,000円を突破」。ニュースでよく耳にする言い回しです。キリのいい株価には投資家の注目が集まりやすく、そこを超えると弾みがつく――そんな説明を聞いたことがある方も多いでしょう。逆に「大台では上値が重い」という言い方もあります。
どちらが本当なのか。2022年10月3日から2026年8月29日までの東証全銘柄について、株価が上昇した日1,959,608件(4,811銘柄・956営業日)を調べました。
そのまま集計すると、答えは明快に見えます。節目を終値で超えた111,557件の翌日は+0.150%。節目に届かなかった1,798,075件の+0.026%を大きく上回りました。節目突破は買い――そう結論づけたくなる数字です。
ところが、この数字にはからくりがあります。節目を超えるには、まずよく上がる必要がある。同じくらい上がった銘柄どうしで比べ直すと、差はほとんど消えてしまいました。ただし、たった1つだけ例外があります。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足。節目の判定は実際に市場で付いた価格(分割調整前)、リターンの計算は調整後株価
- 期間:2022/10/03〜2026/08/29(956営業日・4,811銘柄)
- 対象:その日株価が上昇した銘柄のみ(1,959,608件)。下落した日は節目を上抜ける余地がないため除外
- 節目の刻み:前日終値が1,000円未満なら100円刻み、1,000〜10,000円なら1,000円刻み、10,000円以上なら10,000円刻み
- 3つの状態に分類
- 突破:前日終値の上にある節目を、当日終値が超えた
- タッチ:日中の高値は節目に届いたが、終値は節目を下回った
- 非該当:日中の高値も節目に届かなかった
- リターン:翌日寄付き(当日終値→翌日始値)、翌日終値、5営業日後
「タッチ」を分けて数えているのは、上値の重さを確かめるためです。節目に跳ね返された銘柄が本当に弱いのかを、直接比較できるようにしています。
2.そのまま集計すると「節目突破は買い」に見える
まず、何の工夫もせずに3つの状態を比べます。
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| その日の状態 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 終値で節目を超えた | 111,557 | +0.303% | +0.150% | 43.9% | +0.399% | 47.3% |
| 日中に触れて押し戻された | 49,976 | +0.157% | +0.108% | 48.6% | +0.276% | 49.5% |
| 節目に届かなかった | 1,798,075 | +0.063% | +0.026% | 46.7% | +0.250% | 50.2% |
| 上昇した銘柄すべて | 1,959,608 | +0.079% | +0.035% | 46.6% | +0.259% | 50.0% |
翌日終値の列を見ると、突破+0.150%、タッチ+0.108%、非該当+0.026%。突破が最も高く、非該当の6倍近い数字です。翌日寄付きにいたっては+0.303%対+0.063%と、5倍近い差がついています。
年別に見ても傾向は変わりません。突破した銘柄の翌日リターンは2022年+0.026%、2023年+0.190%、2024年+0.177%、2025年+0.103%、2026年+0.167%。一方の非該当は2022年-0.015%、2023年+0.041%、2024年-0.013%、2025年+0.060%、2026年+0.022%で、どの年も突破が上回っています。
発生日の偏りもありません。突破111,557件のうち上位3日のシェアは2.5%にすぎず、その3日を除いても翌日+0.150%が+0.162%になるだけです。
ここまでの数字だけなら、節目突破には確かに意味がありそうに見えます。
3.同じだけ上がった銘柄どうしで比べる
しかし、ここで立ち止まる必要があります。節目を超えた銘柄は、そもそもよく上がった銘柄であるという点です。
前日終値の少し上にある節目を終値で超えるには、当然その分だけ上昇しなければなりません。一方「非該当」には、わずか0.1%しか上がらなかった銘柄も大量に含まれています。この2つを比べるのは、そもそも公平ではありません。
そこで、その日の上昇率で階層に分けたうえで、同じ階層の中だけで比較しました。
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| その日の上昇率 | 終値で節目を超えた | 日中に触れて押し戻された | 節目に届かなかった |
|---|---|---|---|
| 当日 0〜1%高 | +0.052% 20,561件 | +0.169% 23,301件 | +0.072% 983,378件 |
| 当日 1〜2%高 | +0.005% 27,051件 | +0.082% 11,697件 | +0.011% 454,108件 |
| 当日 2〜5%高 | -0.057% 37,105件 | +0.131% 10,248件 | -0.060% 300,370件 |
| 当日 5〜10%高 | -0.308% 15,633件 | -0.228% 3,703件 | -0.226% 49,156件 |
| 当日 10%以上高 | +2.010% 11,207件 | -0.020% 1,027件 | +0.015% 11,063件 |
※各セルは翌日終値までの平均リターン
結果は一目瞭然です。
- 当日0〜1%高:突破+0.052% vs 非該当+0.072% ―― むしろ突破のほうが低い
- 当日1〜2%高:突破+0.005% vs 非該当+0.011%
- 当日2〜5%高:突破-0.057% vs 非該当-0.060% ―― ほぼ同じ
- 当日5〜10%高:突破-0.308% vs 非該当-0.226% ―― 突破のほうが低い
上昇率をそろえた瞬間、差が消えました。それどころか5%以上の帯では突破のほうが不利になっています。「節目を超えたから翌日も強い」のではなく、「よく上がった銘柄だから節目も超えていた」だけだったということです。
これは統計を読むときによくある落とし穴です。2つのグループを比べる前に、そのグループ分けが別の要因と結びついていないかを確かめる必要があります。今回の場合、節目を超えたかどうかは、その日の上昇率と強く結びついていました。
4.唯一の例外――10%以上の大幅高
ただし、1つだけ例外がありました。当日10%以上上昇した銘柄です。
この帯では突破+2.010%に対し、非該当は+0.015%。2ポイント近い差がついています。件数も突破11,207件、非該当11,063件と十分にあり、偶然では説明しづらい大きさです。
なぜここだけ違うのか。10%以上という上昇は、材料が出て買いが殺到した状態を意味します。そのうえで節目まで一気に到達したということは、途中にある戻り売りや利益確定をすべて呑み込んだということです。翌日もその勢いが残りやすい、という解釈はできます。
もっとも、この帯には値幅制限いっぱいまで買われた銘柄も多く含まれます。翌日の始値が大きく飛ぶケースも珍しくないため、数字どおりに売買できるとは限りません。
5.「上値が重い」は本当か、株価水準による違い
節目のもう1つの言い伝え――「大台では上値が重い」も確かめます。
日中に節目へ触れながら終値では下回った「タッチ」の翌日は+0.108%。終値で超えた+0.150%と大差ありません。上昇率をそろえると、当日2〜5%高の帯ではタッチ+0.131%に対し突破-0.057%と、押し戻されたほうが翌日は良いという逆転まで起きています。
節目に跳ね返されたからといって、翌日以降が弱くなるわけではありませんでした。
最後に株価水準による違いです。
- 1,000円未満(100円刻み):突破の翌日+0.177%(63,712件)
- 1,000〜10,000円(1,000円刻み):+0.134%(41,729件)
- 10,000円以上(10,000円刻み):-0.021%(6,116件)
株価が高くなるほど数字は下がり、10,000円以上では符号が反転します。値がさ株では、1万円という区切りを超えたこと自体に意味が見いだされていないようです。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 節目の定義は1つの考え方にすぎません。100円/1,000円/10,000円刻みとしましたが、500円刻みや過去の高値を節目と見る立場もあります
- 売買コストを含みません。今回の差の多くは0.1ポイント前後で、コストを引けば消える大きさです
- 10%以上の帯は約定できるとは限りません。値幅制限いっぱいの銘柄が含まれ、翌日の寄り付きが大きく飛ぶ場合があります
- 観測が重なっています。同じ銘柄の連日のデータが含まれるため、1,959,608件が独立した試行というわけではありません
7.よくある質問(FAQ)
Q. ラウンドナンバーとは何ですか?
A. 1,000円・5,000円・10,000円といった、キリのいい株価のことです。節目、大台とも呼ばれます。投資家が目標や損切りの水準として意識しやすいため、そこで値動きが変わるという見方があります。本記事では株価水準に応じて100円/1,000円/10,000円刻みの数字を節目としました。
Q. 節目を超えた銘柄は買いですか?
A. そのまま集計すると、節目を超えた日の翌日は+0.150%で、届かなかった銘柄の+0.026%を上回ります。ただしこれは「よく上がった日」を選んでいるだけでした。次の質問をご覧ください。
Q. 「よく上がった日を選んでいるだけ」とはどういう意味ですか?
A. 節目を超えるには、当然ながらそれなりに上昇する必要があります。そこで同じ上昇率の銘柄どうしで比べると、当日0〜1%高の範囲では突破+0.052%に対し非該当+0.072%、2〜5%高でも突破-0.057%に対し非該当-0.060%と、差がほぼ消えます。
Q. 例外はありましたか?
A. 当日10%以上上昇した銘柄だけは別でした。節目を超えた11,207件の翌日は+2.010%で、同じ10%以上高でも節目に届かなかった11,063件は+0.015%。2ポイント近い差がついています。
Q. 節目では上値が重くなるという話は本当ですか?
A. 日中に節目へ触れながら終値では下回った「押し戻された」ケースは、翌日+0.108%でした。終値で超えた+0.150%と大きな差はなく、当日2〜5%高の帯にかぎれば押し戻されたほう(+0.131%)が超えたほう(-0.057%)を上回っています。
Q. 株価の水準によって違いはありますか?
A. ありました。100円刻みの節目を超えた低位株は翌日+0.177%ですが、10,000円刻みの値がさ株では-0.021%と符号が変わります。株価が高い銘柄ほど、節目の突破に意味がなくなる傾向でした。
Q. この検証で使った「節目」の定義を教えてください。
A. 前日終値が1,000円未満なら100円刻み、1,000〜10,000円なら1,000円刻み、10,000円以上なら10,000円刻みとしました。前日終値のすぐ上にある区切りの数字を、その日の節目としています。株式分割の影響を受けないよう、実際に市場で付いた価格で判定しています。
8.まとめ
1,959,608件を数え直してわかったことを整理します。
- そのまま集計すると節目突破は有利に見えます。翌日+0.150%対+0.026%。どの年でも突破が上回り、特定の日にも依存していません
- しかし同じ上昇率どうしで比べると差は消えます。0〜1%高では突破+0.052%が非該当+0.072%を下回り、5〜10%高でも突破のほうが不利でした
- 例外は10%以上の大幅高だけです。突破+2.010%に対し非該当+0.015%と、2ポイント近い差がつきます
- 「大台は上値が重い」も確認できません。押し戻されたケースの翌日は+0.108%で、超えたケースと大差ありません
- 株価が高いほど節目の意味は薄れます。10,000円以上の銘柄では突破しても-0.021%でした
「節目を超えたら買い」という考え方は、数字の上では確かに裏づけがあるように見えます。しかしその正体は、節目を超えた銘柄がよく上がった銘柄だった、というだけのことでした。
この種の見かけの関係は、相場の通説のあちこちに潜んでいます。ある条件で切り出した銘柄の成績が良かったとき、その条件が結果を生んでいるのか、それとも別の要因の言い換えにすぎないのか。一度立ち止まって確かめる習慣が、判断の質を確実に上げてくれます。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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