「押し目買い」は株式投資の代表的なエントリー戦略です。直近高値から株価が一時的に下落した場面で買い、再上昇を狙う――シンプルですが、「どれくらい押せば買い時なのか」を定量的に示した記事は意外と少ないものです。3%の浅い押し?それとも20%の深い押し?
本記事では、東証全銘柄・約642万件のサンプル(2020〜2025年)で、直近20営業日(約1ヶ月)の高値からの下落率別に、翌日・5日後のリターンを集計しました。0-3%(浅押し)/3-5%/5-10%/10-20%/20%以上(深押し)の5段階で、データが示す「最良の押し目幅」を完全公開します。
結論を先にお伝えします。押し率が深くなるほど期待リターンが拡大します。20%以上の深押しは翌日CC+0.175%/5日後+0.651%。浅押し(0-3%)の翌日+0.019%と比べて、約9倍のリターン差。「深く押した銘柄ほど、リバウンドのエネルギーが大きい」という教科書セオリーは、データでも明確に支持されました。
1.検証ルール
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検証対象:東証全銘柄(プライム・スタンダード・グロース)約3,800社
検証期間:2020年1月〜2025年12月(約5〜6年間)
サンプル数:約640万件の押し目シナリオ
【押し率の定義】
- 直近20営業日高値=当日含む直近20日間(約1ヶ月)の最高値
- 押し率=(20日高値 − 当日終値)÷ 20日高値 × 100
- 当日終値が20日高値そのものなら押し率0%、20日高値から10%下落していれば押し率10%
【押し率帯】
- 0-3%(浅押し):高値圏で踊り場、または小さな調整
- 3-5%:通常の押し目
- 5-10%:中規模の押し目
- 10-20%:深押し
- 20%以上(深押し):大幅調整、暴落水準
【翌日・5日後リターン】
- 翌日CCリターン=(翌日終値 − 当日終値)÷ 当日終値 × 100
- 5日後CCリターン=(5日後終値 − 当日終値)÷ 当日終値 × 100
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2.検証結果
(1) 押し率別 翌日 vs 5日後 リターン
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青いバー(翌日CC)も赤いバー(5日後CC)も、押し率が深くなるほど右肩上がりに拡大。20%以上の深押しでは翌日CC+0.175%・5日後+0.651%と、浅押しの5倍以上のリターンが期待できます。「深く押した銘柄ほど反発が大きい」というセオリーが、データで明確に裏付けられました。
(2) 押し率別 勝率推移
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注目すべきは勝率は約47〜50%でほぼ横ばいという点。深押しでも勝率は50%前後しか上がらないのに、平均リターンは大きく拡大している。これは「勝つときの利幅 > 負けるときの損幅」という非対称性が、深押し銘柄ほど強く現れることを示しています。期待値プラスは勝率より損益比率で稼ぐ構造です。
(3) 押し率別 サンプル件数分布
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サンプル件数は浅押し(0-3%)が225万件と最多、深押し(20%以上)が33万件と最小。それでも年間あたり東証全銘柄で約5万件=月間4,000件のスクリーニング対象があり、深押し銘柄を狙うトレード戦略は実行可能なボリュームです。
(4) 完全データ表
| 押し率帯 | 件数 | 翌日CC | 勝率 | 5日後CC | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0-3%(浅押し) | 2,259,427 | +0.019% | 46.4% | +0.139% | 49.0% |
| 3-5% | 1,138,069 | +0.044% | 47.8% | +0.214% | 50.4% |
| 5-10% | 1,655,108 | +0.058% | 48.1% | +0.260% | 50.6% |
| 10-20% | 1,036,145 | +0.065% | 47.9% | +0.325% | 50.2% |
| 20%以上(深押し) | 331,703 | +0.175% | 47.1% | +0.651% | 49.1% |
3.なぜ「深く押した銘柄ほど儲かる」のか
データが示す「押し率と期待リターンの正の相関」は、市場心理と需給の両面から説明できます:
- 投げ売り完了による需給改善:20%以上下落した銘柄は、その下落過程で売り手の大半が売り切っている状態。新規売り手は減り、買い手の優位が生まれます。3因子クロスの「最強象限」と同じメカニズム。
- 過剰反応の自律修正:個別銘柄が20%以上下落するのは、決算ミスや業績修正など強い材料による場合が多いですが、市場はしばしば過剰反応します。冷静な投資家による「過剰反応の修正買い」がリバウンドを生みます。
- テクニカル買い注文の蓄積:直近高値から20%下落したライン付近には、テクニカル分析を使うトレーダーの買い指値が集中しがち。「50日移動平均線」「200日移動平均線」「重要なサポートライン」などが20%付近で交差することが多く、買い厚みが形成されます。
- ファンダメンタル評価の再認識:20%以上下落した銘柄は、PERやPBRが大幅に低下し、ファンダメンタル投資家から見て「割安」評価が出始めます。長期投資家の買いが入りやすくなります。
これら4つの要因が複合的に作用し、深押し銘柄の翌日・5日後の期待値プラスを支えています。
4.「勝率より損益比率」の重要性
本検証で重要な気づきは、勝率は押し率に関わらず約47〜50%でほぼ一定という点です。一方で平均リターンは押し率が深くなるほど明確に拡大。これは何を意味するのでしょうか?
答えは「損益比率の非対称性」です。深押し銘柄は:
- 勝つときは大きく勝つ:反発開始時に+5〜10%の急騰が頻発
- 負けるときは小さく負ける:既に大きく下落しているため、追加下落の余地は限定的
- 結果として「勝率50%でも期待値プラス」を実現
これは投資戦略構築における重要な原則です。勝率を高めようとせず、損益比率を非対称にする戦略を選ぶのが王道。深押し銘柄の押し目買いは、まさにこの原則に合致します。
具体的な実践例:
- エントリー:20日高値から20%以上下落した銘柄
- 利確:+10%(5日後リターン平均+0.65%の数倍を狙う)
- ロスカット:-3%(小さく損切る)
- 損益比率:3.3倍。勝率50%でも理論期待値+3.5%/トレード
5.実践活用――押し目買い戦略の具体的フロー
(1) スクリーニング条件
毎日大引け後に以下のスクリーニングを実施:
- 直近20営業日高値からの下落率 ≧ 10%(理想は20%以上)
- 時価総額 ≧ 100億円(流動性確保)
- 上場後1年以上経過(IPO直後の特殊銘柄を除外)
- 直近5日間の出来高 ≧ 通常の0.7倍以上(出来高枯渇銘柄を除外)
このスクリーニングで毎日10〜30件程度のエントリー候補が抽出されます。
(2) エントリーの判断
スクリーニング通過銘柄の中から、以下のフィルターで絞り込み:
- 下落原因が「業績悪化」「不祥事」「セクター全体の下落」のうち、需給的な要因か材料要因か判断
- 材料要因の場合:3〜5日待ってからエントリー(材料の織り込み完了後)
- 需給要因の場合:即日エントリー(押し目買いタイミング)
- 3因子クロス(前記事参照)の最強象限「値幅大×終値下×3日以上連敗」と重なる場合は確信度が高い
(3) 利確とロスカット
- 利確目標:5〜10%(5日後リターン平均+0.65%の8〜15倍の振れ幅を取りに行く)
- ロスカット:エントリー時の終値から-3%(または直近20日安値を割ったら)
- 保有期間:最大10営業日、それまでに利確できなければ撤退
- ポジションサイズ:1銘柄あたり資金の3〜5%、10〜20銘柄分散
(4) 浅押し(0-3%)は避ける
0-3%の浅押しは、翌日CC+0.019%/勝率46.4%とほぼフラット。エントリーコスト(手数料・スリッページ)を考えると期待値マイナスです。「高値圏での小さな調整」は、押し目買いの対象から外しましょう。
6.注意点とリスク
- 個別銘柄リスク:「20%押し→さらに20%押し→計-40%」というケースもあります。ロスカット徹底必須
- 業績悪化材料の見極め:下落原因が「業績下方修正」「黒字→赤字」「不祥事」など本質的問題の場合、リバウンドは弱い傾向
- 地合いの影響:日経平均自体が暴落中の局面では、押し目買いも全滅しやすい。マクロ環境チェック必須
- セクター集中リスク:同セクターの複数銘柄に押し目が出ている場合、業種全体の問題なので分散効果が薄い
- 20日基準の制約:本検証は20営業日高値基準。5日・60日・250日基準では結果が変わる可能性
7.よくある質問(FAQ)
Q. 「押し目買い」とはどんな戦略ですか?
A. 上昇トレンド中の銘柄が一時的に下落した場面で買い、再上昇を狙う戦略です。短期トレーダーから長期投資家まで幅広く使われる王道のエントリー手法。本記事では「直近20日高値からの下落率」で押し目を定量化しています。
Q. 何%押したら買いですか?
A. データ上、押し率が深いほど期待値が大きいです。10%以上の押し目から効果が顕著、20%以上の深押しは翌日CC+0.175%/5日後+0.651%と最大リターン。浅押し(0-3%)はほぼフラットなので避けましょう。
Q. 勝率が47〜50%でも本当に儲かるのですか?
A. 勝率と期待値は別物です。深押し銘柄は「勝つときは+10%、負けるときは-3%」という損益比率の非対称性で稼ぎます。勝率50%でも、損益比率3:1なら期待値+3.5%/トレードの計算。20銘柄分散すれば月間+5〜10%が現実的に狙えます。
Q. 20日高値ではなく60日高値や年初来高値ではダメですか?
A. 60日・250日(年初来)基準でも検証可能ですが、本記事は「実用的なスクリーニング頻度」を考慮して20日高値を採用。60日高値だと押し目までに時間がかかりすぎ、エントリー機会が減ります。20日は1ヶ月単位で実用的。
Q. 業績悪化材料による下落も買いですか?
A. 材料の性質を見極めてください。一時的な業績下方修正(為替・原料コスト等)は3〜5日後にエントリー、本質的問題(黒字→赤字・粉飾・不祥事)はリバウンド弱いので回避が無難です。
Q. 利確はどのタイミングが最適ですか?
A. 5日後リターン平均+0.65%が示すように、本検証の期待値は1週間程度が最良ゾーン。5〜10%の利確目標を設定し、利確水準到達か10営業日経過のどちらか早い方で手仕舞いが現実的。
Q. ロスカット幅はどう設定すべきですか?
A. エントリー時の終値から-3%が目安。深押し銘柄はすでに大きく下落しているので、追加下落余地は限定的。-3%はエントリーミスをすぐ認識して撤退するための水準です。
8.まとめ
東証全銘柄6,420,452件で押し目買いの期待値を検証しました。重要ポイントは4つ:
- 押し率が深いほど期待値が拡大。20%以上の深押しは翌日CC+0.175%/5日後+0.651%。浅押し(0-3%)の30倍以上のリターン差。
- 勝率は約47〜50%でほぼ一定。深押しでも勝率は上がらず、リターン拡大は「損益比率の非対称性」で実現。
- 「勝率より損益比率」で稼ぐ戦略。勝つときは+5〜10%、負けるときは-3%。10〜20銘柄分散で期待値プラスを安定化。
- 浅押し(0-3%)は避ける。高値圏での小さな調整は期待値ほぼゼロ、エントリーコスト考慮で実質マイナス。10%以上の本格的押し目だけを狙う。
押し目買いは「下がった銘柄を買う」というシンプルな戦略ですが、「どれくらい押せば買い時か」を定量化することで、再現性のある勝てる戦略に進化します。本記事のデータを基に、自分のトレードスタイルに合わせた押し目幅の基準を決めてください。
次に上昇トレンド中の銘柄が下落を始めたら、まず「直近20日高値から何%下落したか」を計算してみてください。10%以上、できれば20%以上の深押しを待つことが、本記事のデータが示す「期待値プラスを取る秘訣」です。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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