無料レポート 直近25年分の統計データで分かる「株の買い時・売り時」
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移動平均線の使い方として、まず教わるのは「株価が線の上にあるか下にあるか」です。ただ実際にチャートを見るとき、多くの方は線の向きも見ているはずです。上を向いている線と、下を向いている線。同じ「線の上」でも意味が違う気がする――その直感を数字で確かめました。

東証全銘柄について、2022年10月3日から2026年8月8日までの4,005,191件(4,795銘柄・942営業日)で、25日移動平均線の傾きを計算し、その後のリターンを集計しています。

結論を先に述べます。線が急降下している銘柄のほうが、その後のリターンは高くなりました。傾き-3%未満の20営業日後は+2.130%で、全体平均+1.297%を大きく上回ります。逆に3%以上の急上昇は+0.839%・勝率47.0%と、全区分で最低でした。

さらに、株価が線の上にあるか下にあるかを掛け合わせると、同じ「急降下」でも結果が4倍以上ひらきます。ここが今回いちばん面白い部分です。

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

システムトレード

1.検証ルール

集計条件をすべて開示します。

  • データ:東証全銘柄の日足終値(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
  • 期間:2022/10/03〜2026/08/08(942営業日・4,795銘柄)
  • 移動平均線:25日単純移動平均
  • 傾き:当日の25日線 ÷ 5営業日前の25日線 − 1 を%で表示
  • 帯:-3%未満/-3〜-1%/-1〜0%/0〜1%/1〜3%/3%以上の6区分
  • もう1つの軸:当日終値が25日線の上にあるか下にあるか
  • リターン:その日の終値で買ったとして、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後

傾きの分布も示しておきます。中央値は+0.097%、下位25%が-0.786%、上位25%が+1.027%。ほとんどの日は0%の近くにあり、3%以上になるのは全体の6.3%、-3%未満は4.6%にすぎません。

2.傾き別に見た結果

まず傾きだけで分けます。

25日移動平均線の傾き別 その後の平均リターン

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
-3%未満182,439+0.218%+0.270%48.4%+0.985%52.2%+2.130%52.1%
-3〜-1%662,768+0.127%+0.108%48.6%+0.466%51.9%+1.598%53.7%
-1〜0%1,012,069+0.081%+0.041%47.6%+0.234%50.8%+1.140%53.9%
0〜1%1,125,862+0.082%+0.052%48.2%+0.269%51.9%+1.207%54.7%
1〜3%769,452+0.092%+0.054%48.2%+0.313%50.8%+1.332%53.0%
3%以上252,601+0.138%+0.030%45.8%+0.226%47.3%+0.839%47.0%
全体平均(比較用)4,005,191+0.101%+0.068%48.0%+0.331%51.1%+1.297%53.4%

20営業日後の列を見てください。最も高いのが-3%未満の+2.130%、次が-3〜-1%の+1.598%。そして最も低いのが3%以上の+0.839%です。

線が下を向いているほど、その後のリターンが高い。順張りの感覚とは正反対の並びになりました。

5営業日後でも同じです。-3%未満が+0.985%で、3%以上の+0.226%を大きく上回ります。

ただし勝率に目を移すと、印象が変わります。-3%未満の20営業日後の勝率は52.1%。3%以上の47.0%と大差ありません。当たりやすいわけではなく、当たったときの値幅が大きいという構造です。急降下した銘柄を買うということは、大きく戻る可能性と、さらに下げる可能性の両方を引き受けることを意味します。

3.株価が線の上か下かで景色が変わる

ここからが本題です。傾きと、株価が線のどちら側にいるかを掛け合わせました。

線の向き × 株価が線の上にあるか下にあるか

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
線の下 × 傾き-3%未満170,007+0.214%+0.288%48.8%+1.055%52.7%+2.247%52.8%
線の下 × 傾き-3〜-1%559,234+0.129%+0.127%49.1%+0.531%52.8%+1.700%54.6%
線の下 × 傾き-1〜0%669,839+0.095%+0.059%48.6%+0.280%52.4%+1.209%55.0%
線の下 × 傾き0〜1%362,540+0.111%+0.083%50.1%+0.327%54.1%+1.342%55.6%
線の下 × 傾き1〜3%105,593+0.105%+0.073%49.1%+0.448%52.4%+1.462%52.5%
線の下 × 傾き3%以上16,057+0.121%+0.011%45.9%+0.348%47.3%+0.992%46.3%

まず株価が線の下にいる場合です。傾きが下向きになるほどリターンが上がり、-3%未満で+2.247%。これが全24通りの組み合わせの中で最高でした。

次に、株価が線の上にいる場合を見てください。

区分件数翌日寄付き翌日終値勝率5営業日後勝率20営業日後勝率
線の上 × 傾き-3%未満12,432+0.272%+0.022%43.8%+0.031%44.4%+0.534%43.3%
線の上 × 傾き-3〜-1%103,534+0.116%+0.005%46.0%+0.111%46.8%+1.047%48.9%
線の上 × 傾き-1〜0%342,230+0.053%+0.006%45.5%+0.145%47.7%+1.004%51.7%
線の上 × 傾き0〜1%763,322+0.068%+0.038%47.3%+0.242%50.9%+1.142%54.3%
線の上 × 傾き1〜3%663,859+0.089%+0.052%48.0%+0.292%50.6%+1.311%53.1%
線の上 × 傾き3%以上236,544+0.139%+0.032%45.8%+0.217%47.3%+0.828%47.1%

同じ「傾き-3%未満」でも、株価が線の上にあると20営業日後は+0.534%・勝率43.3%。線の下にある場合の+2.247%と比べて4倍以上の差がつきました。5営業日後にいたっては+0.031%と、ほぼゼロです。

この組み合わせが何を意味するか、チャートを思い浮かべてみてください。線は急降下しているのに、株価はその線より上にいる。つまり、下げ続けてきた銘柄が一時的に戻し、線を上から触りに来ている状態です。

戻り局面としては見栄えのいい形ですが、数字の上では最も分の悪い場面のひとつでした。勝率43.3%は、全区分の中でも最低水準です。

4.急上昇している線はどうか

逆に、線が急上昇(3%以上)している場合はどうでしょうか。

株価が線の上にいれば20営業日後+0.828%・勝率47.1%。線の下にいれば+0.992%です。どちらも全体平均+1.297%を下回りました。

いわゆる「強い形」――線が上を向き、株価がその上にある――は、この期間では報われていません。件数は236,544件と十分にあり、偶然では説明しづらい規模です。

なぜこうなるのか。線が5営業日で3%以上動くというのは、直近の株価がかなり大きく動いたことを意味します。そこまで上げた銘柄をさらに買う行為が、平均的には不利だった、というのが素直な読み方でしょう。

5.この結果はどれくらい信頼できるか

逆張り側に有利な結果が出たときは、暴落した数日に引きずられていないかを必ず確かめます。

傾き-3%未満の182,439件は942営業日に分散しており、最も多かった上位3日を合わせても全体の2.7%でした。その3日を除いても、20営業日後は+2.130%から+2.025%とほとんど変わりません。

年別でも確認しました。傾き-3%未満の20営業日後は2022年+3.692%、2023年+1.998%、2024年+1.399%、2025年+3.722%、2026年+1.246%。すべての年でプラス、しかも全体平均を上回っています。特定の相場に依存した結果ではありません。

傾き3%以上の不振も同様で、上位3日を除いても+0.839%から+0.763%と、むしろわずかに悪化しました。

6.この検証の限界

結果を使う前に、次の点をご承知おきください。

  • 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、実際に約定できるかは考慮していません
  • 平均は分布の中心にすぎません。-3%未満の勝率は52.1%。つまり47.9%は20営業日後に下げています
  • 期間と日数は一例です。25日線を5営業日前と比べる形で計算しました。別の設定なら結果も変わります
  • 観測が重なっています。同じ銘柄の連日のデータが含まれるため、4,005,191件が独立した試行というわけではありません

7.よくある質問(FAQ)

Q. 移動平均線の「傾き」はどう計算していますか?

A. 当日の25日移動平均線を、5営業日前の25日移動平均線と比べた変化率です。線が何%動いたかで向きと勢いを同時に測っています。チャート上で線が上向きに見えるか下向きに見えるかを、数字にしたものだと考えてください。

Q. 線が上向きの銘柄を買うべきではないのですか?

A. この期間のデータでは逆でした。傾きが3%以上の急上昇の20営業日後は+0.839%・勝率47.0%で、全体平均の+1.297%を下回ります。逆に-3%未満の急降下は+2.130%と、全区分で最も高くなりました。

Q. 急降下している線を買うのは危なくないですか?

A. 勝率で見ると、-3%未満の20営業日後は52.1%と、3%以上の47.0%とほとんど変わりません。当たる確率は同じで、当たったときの値幅が大きいという構造です。平均が高い一方で、外れたときの下げ幅も相応に大きい点は理解しておく必要があります。

Q. 株価が線の上か下かで違いはありますか?

A. 大きく違いました。同じ「傾き-3%未満」でも、株価が線の下にあれば20営業日後+2.247%、線の上にあれば+0.534%・勝率43.3%。4倍以上の差がつきます。

Q. 下向きの線を株価が上から触りに来た場面が悪いのはなぜですか?

A. データから理由を断定することはできません。ただ、下向きの線の上に株価があるということは、下げ続けたあとの一時的な戻り局面にあたるケースが多くなります。戻りきったところで再び売られる形が平均的な姿だった、という説明は可能です。

Q. 傾きが極端になるのはどれくらいの頻度ですか?

A. 検証期間中、傾きが3%以上だったのは全体の6.3%、-3%未満は4.6%でした。分布の中央値は+0.097%、下位5%が-2.868%、上位5%が+3.390%です。大半の日は0%付近にあります。

Q. この結果は特定の時期に偏っていませんか?

A. 確認しました。傾き-3%未満の182,439件は942営業日に分散しており、上位3日を合わせても2.7%です。その3日を除いても20営業日後は+2.130%から+2.025%とほとんど変わりませんでした。

8.まとめ

4,005,191件を数え直してわかったことを整理します。

  • 線が急降下している銘柄のほうが、その後のリターンは高くなりました。20営業日後で-3%未満が+2.130%、3%以上が+0.839%。全体平均は+1.297%です
  • ただし勝率はほぼ同じです。52.1%対47.0%。当たりやすいのではなく、当たったときの値幅が大きいという構造でした
  • 最も良かったのは「急降下する線の下」(20営業日後+2.247%)、最も悪かったのは「急降下する線の上」(+0.534%・勝率43.3%)です
  • 「線が上向きで株価がその上」は報われませんでした(+0.828%)。全体平均を下回っています
  • この結果は全ての年でプラスでした。発生上位3日を除いても数字はほとんど変わりません

移動平均線は、株価が線の上か下かだけを見る使い方が広まっています。ただ今回の数字が示したのは、同じ「線の上」でも、線がどちらを向いているかで意味がまるで違うということでした。

下を向いた線を株価が上から触りに来ている形は、チャート上では反発のように見えます。それが最も分の悪い場面のひとつだったという事実は、形の印象と実際の期待値が一致しないことを改めて示しています。線を見るときは、位置だけでなく向きも合わせて確かめてみてください。

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「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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