「半期末はドレッシング買い(お化粧買い)で株価が上がりやすい」――3月末・9月末が近づくと必ず聞こえてくる相場の通説です。機関投資家が期末の評価額を良く見せるために買い支える、という説ですが、本当に株価データに痕跡はあるのでしょうか。データで決着をつけます。
検証対象は東証全銘柄6,849銘柄・2000年1月〜2026年7月の約26年間。毎月の月末最終営業日を基準に前後5営業日(末日-5〜末日+5の11ポジション)を切り出し、3月末27回・9月末26回・通常月末(3・9月以外)266回、延べ12,529,124件の日次リターンを集計しました。
結論を先にお伝えします。通常月末は末日が平均+0.192%と「月末の上昇」がはっきり出るのに対し、3月末の末日は-0.060%、9月末の末日は-0.214%と、半期末に限って月末の上昇が消えます。しかも3月末の末日は日中(始値→終値)だけ見ると-0.215%・勝率37.1%。引けにかけて買い上がるどころか、日中は下げる銘柄が多数派です。
一方、3月末の買いエネルギーは消えたのではなく「末日4営業日前」に前倒しされていました(+0.545%で全33ポジション中最大)。そして新年度入り後5営業日は累積-0.394%の反動安。配当権利落ちの影響を分離する追加検証と合わせて、順に見ていきます。
1.検証ルール
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検証対象:東証全銘柄 6,849銘柄(上場廃止銘柄を含む・指数データは除外)
検証期間:2000年1月4日〜2026年7月31日(6,512営業日)
サンプル数:延べ12,529,124件の日次リターン
【集計の定義】
- 各月の最終営業日を「末日」とし、前後5営業日(末日-5〜末日+5)の11ポジションを設定
- 日次リターン=当日終値÷前営業日終値-1(%)。勝率=日次リターンがプラスだった銘柄の割合
- 3系列で比較:3月末(本決算期末)27回/9月末(中間期末)26回/通常月末266回
- 終値・出来高がプラスで営業日が連続する2日間のみ採用、±100%超の異常値は除外(55件)
- 別掲:末日の日中リターン(終値÷始値-1)と翌営業日(新半期初日)の日次リターン
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2.検証結果
(1) 前後5営業日の平均リターン――半期末だけ「月末の上昇」が消える
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灰色の通常月末は末日-2の+0.169%から末日の+0.192%へ、月末に向けて強くなる「月末効果」が見えます。ところが赤の3月末は、末日-4が+0.545%と全33ポジション中最大、末日-5も+0.377%と序盤に強烈な買いが入る一方、末日-1は-0.381%へ急失速し、肝心の末日も-0.060%とマイナス。青の9月末は11ポジション中7つがマイナスで、前後11営業日の累積は-1.054%。半期末の需給は通説と逆に「重い」のです。
(2) 勝率も同じ構図――半期末の末日前後は上昇銘柄が4割弱に沈む
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3月末の末日-4は勝率52.2%と全33ポジション中トップで、27回中19回(70%)の年で全銘柄平均がプラスという安定ぶり。対照的に3月末の末日-1は38.0%、9月末の末日は38.3%と全33ポジションの最低水準です。通常月末が末日前後でも47%台を保つのに対し、半期末の末日周辺だけが地盤沈下しています。
(3) 別掲:末日の日中と翌営業日――「引けにかけての買い上がり」は観測されず
| 系列 | 末日の日中 (終値÷始値-1) | 日中勝率 | 件数 | 翌営業日 (新半期初日) | 翌日勝率 | 件数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 3月末 | -0.215% | 37.1% | 98,874 | -0.193% | 42.4% | 95,785 |
| 9月末 | -0.062% | 38.2% | 94,691 | -0.170% | 41.7% | 91,466 |
| 通常月末 | +0.097% | 43.2% | 978,563 | +0.147% | 47.1% | 944,194 |
ドレッシング買いが実在するなら、半期末の末日は日中リターンがプラスになるはずです。実測は3月末-0.215%(勝率37.1%)、9月末-0.062%(勝率38.2%)で、通常月末の+0.097%を大きく下回りました。翌営業日=新半期初日も3月末-0.193%・9月末-0.170%と売り優勢。「新年度入りの資金流入で月初は高い」という通説も、最初の5営業日(累積-0.394%)については支持されません。
(4) 権利落ちの影響を分離する――末日-1のマイナスの正体
3月末の末日-1の-0.381%には、配当・株主優待の権利落ち日の機械的な下落が混ざっています。2019年7月に受渡日程がT+3からT+2へ短縮され、権利落ち日は「末日-2」から「末日-1」へ移動しました。そこで受渡制度の時代別に分けて集計しました。
| ポジション | 3月末 T+3時代(20回) | 3月末 T+2時代(7回) | 9月末 T+3時代(19回) | 9月末 T+2時代(7回) |
|---|---|---|---|---|
| 末日-2 | +0.112% | +0.775% | +0.012% | +0.350% |
| 末日-1 | -0.014% | -1.249% | +0.166% | -0.308% |
| 末日 | -0.000% | -0.300% | +0.116% | -0.855% |
T+2時代の3月末は、権利付き最終日となった末日-2に+0.775%の駆け込み買い、権利落ち日の末日-1に-1.249%の急落という「山と谷」が鮮明です。T+3時代の末日-1は-0.014%とほぼゼロですから、末日-1の大幅マイナスの主因は権利落ちと判断できます。ただし、権利落ちの影響がない3月末の末日もT+3時代-0.000%と、通常月末の末日+0.192%には遠く及びません。権利落ちを除いて検証しても「半期末の末日はドレッシング買いで上がる」は確認できませんでした。
(5) 完全データ表
| ポジション | 3月末 平均 | 勝率 | 9月末 平均 | 勝率 | 通常月末 平均 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 末日-5 | +0.377% | 49.1% | -0.147% | 40.9% | +0.129% | 46.6% |
| 末日-4 | +0.545% | 52.2% | -0.140% | 44.1% | +0.078% | 46.0% |
| 末日-3 | +0.029% | 47.8% | +0.020% | 46.5% | +0.091% | 45.4% |
| 末日-2 | +0.274% | 48.7% | +0.140% | 48.4% | +0.169% | 47.4% |
| 末日-1 | -0.381% | 38.0% | +0.014% | 44.6% | +0.179% | 47.6% |
| 末日 | -0.060% | 43.7% | -0.214% | 38.3% | +0.192% | 47.4% |
| 末日+1 | -0.193% | 42.4% | -0.170% | 41.7% | +0.147% | 47.1% |
| 末日+2 | +0.026% | 43.2% | -0.172% | 41.4% | +0.079% | 45.5% |
| 末日+3 | -0.104% | 43.4% | -0.292% | 39.5% | -0.094% | 43.1% |
| 末日+4 | -0.104% | 40.8% | +0.122% | 51.2% | +0.096% | 45.7% |
| 末日+5 | -0.019% | 46.8% | -0.217% | 41.9% | -0.015% | 43.5% |
| 前半累積(-5〜末日) | +0.784% | — | -0.326% | — | +0.837% | — |
| 後半累積(+1〜+5) | -0.394% | — | -0.728% | — | +0.213% | — |
3.なぜ半期末に「月末の上昇」が消えるのか――5つの需給要因
検証結果と整合的な仮説を整理します。
- 機関投資家の期末売買は末日より前に終わる:3月末の買いのピークは末日-4(+0.545%)・末日-5(+0.377%)。年金・投信の期末リバランスや益出しは、最終日の価格インパクトを避けて前倒しで執行されるのが実務です。買い需要は「末日の引け」ではなく「約1週間前」に現れると考えると数値と整合します。
- ドレッシング買いは全銘柄平均を動かす規模ではない:末日の日中リターンは3月末-0.215%・勝率37.1%。仮に一部銘柄で引け際の買い支えがあっても、市場全体では期末の持ち高圧縮・益出しの売りが上回っています。
- 配当・優待の権利需給が「山と谷」を作る:T+2時代の3月末は権利付き最終日(末日-2)+0.775%→権利落ち日(末日-1)-1.249%。9月末も+0.350%→-0.308%と、中間配当が少額なぶん小ぶりながら同じ形です。
- 損出し・益出しの売りが半期末に集中する:9月末は11営業日合計-1.054%と3系列中最弱。中間決算をまたぐ機関のポジション整理と、下期入り前の個人の損出し売りが重なりやすい時期です。
- 新半期の資金流入は「初日に一気」ではない:期末後5営業日は3月末-0.394%・9月末-0.728%(通常月末は+0.213%)。新規資金は分散執行されるため月初を押し上げる力は弱く、先に期末前の買いの反動安が出ます。3月末後半の1日平均は2000年代+0.419%→2010年代-0.177%→2020年代-0.494%と時代とともに悪化しており、アノマリーが知られて買いが前倒しされるほど反動が強まっている可能性があります。
4.データが示す正解戦略
- 3月末に向けた買いは「末日4〜5営業日前まで」に済ませる:末日-5〜末日-2は4日間累積+1.225%の追い風。末日-1以降に新規買いを持ち込む理由はデータ上ありません。
- 権利落ち日(末日-1)と末日の新規買いは見送る:T+2時代の3月末の末日-1は平均-1.249%。権利を取る場合は落ち分と配当・優待価値を天秤にかけて判断します。
- 新半期入りは「買い急がず押し目を待つ」:期末後5日間は3月末-0.394%・9月末-0.728%。特に9月末後は+1〜+3の3日間だけで-0.634%と下押しが続きます。
- 9月末をまたぐ短期ロングは基本見送り:前後11営業日の累積-1.054%と時期そのものが逆風です。
- 「月末効果」を使うなら3・9月以外:通常月末は末日-2〜末日+1の4日間累積+0.687%。月末またぎの短期買いが機能しやすいのは半期末以外の月です。
5.実践活用――半期末カレンダーの使い方
(1) 半期末カレンダーを作る
- 3月末・9月末の最終営業日を確認し、逆算して末日-5〜末日+5に印を付ける
- 現行T+2制度では権利付き最終日=末日の2営業日前、権利落ち日=末日の1営業日前。この2日が需給の山と谷になる
- 祝日の並びで営業日は毎年変わるため、カレンダーは年初に更新する
(2) 3月末の実践フロー
- 買いは末日の1〜2週間前までに仕込み、末日-5〜末日-2の追い風(累積+1.225%)に乗せる
- 短期資金は権利付き最終日(末日-2、T+2時代平均+0.775%)までに手仕舞いを検討
- 権利を取って持ち越すなら、権利落ち日の平均-1.249%の下落をあらかじめ織り込む(配当・優待価値との交換であり慌てて投げない)
(3) 9月末・新半期入りの実践フロー
- 9月末前後の新規買いは焦らない。末日-0.214%、末日+1〜+3累積-0.634%と下押しが続きやすい
- 新半期の買い出動は月初の反動安を確認してからでも遅くない
- 全体傾向は「タイミングの目安」にとどめ、銘柄選定は業績・チャートで別途行う
6.注意点とリスク
- 全銘柄の等ウェイト平均のため小型株の影響が大きく、ドレッシング買いが一部の主力大型株に限定して入っている場合は検出できません
- ポジション間の差は平均±0.1〜0.5%程度と小さく、手数料・スリッページを差し引くと実リターンはさらに目減りします。差だけを狙う超短期売買はコスト次第で優位性が消えます
- 権利落ち日のマイナスは配当・優待の価値と引き換えです。配当込みの総合リターンでは中立に近く、「権利落ち=損」ではありません
- 年ごとのばらつきが大きく、2020年3月の感染症ショックや2024年9月末の政局要因など地合いがアノマリーを上書きする年があります
- イベント数は3月末27回・9月末26回、うちT+2時代は各7回のみで統計的頑健性には限界があります
- 3月末後半の悪化傾向(2000年代+0.419%→2020年代-0.494%)が示す通り、知られたアノマリーは形を変えます
- 受渡日程や配当慣行の制度変更で、山と谷の位置自体が将来移動する可能性があります
- 本検証は過去データの傾向であり、将来も同じパターンが繰り返されることを保証するものではありません
7.よくある質問(FAQ)
Q. ドレッシング買い(お化粧買い)とは何ですか?
A. 機関投資家が決算期末に運用成績の評価額を良く見せる目的で保有銘柄を買い支えるとされる行為です。今回の検証では、半期末の末日の日中リターンは3月末-0.215%・勝率37.1%と売り優勢で、全銘柄平均を押し上げる痕跡は確認できませんでした。
Q. 3月末の4営業日前が最も上がるのはなぜですか?
A. 末日-4は平均+0.545%・勝率52.2%で、27回の3月末のうち19回で全銘柄平均がプラスでした。機関の期末リバランスが価格インパクトを避けて前倒し執行されることや、権利取りの先回り買いが要因と考えられます。
Q. 権利落ち日の下落は避けるべきですか?
A. T+2時代の3月末は権利落ち日(末日-1)に平均-1.249%下落しますが、これは配当・優待の価値が株価から剥落する機械的な動きで、配当込みではほぼ中立です。長期保有なら無理に避ける必要はありませんが、短期売買では落ち分を織り込んだ計画が必要です。
Q. 9月末はなぜこんなに弱いのですか?
A. 9月末は前後11営業日の累積が-1.054%と3系列中最弱でした。中間決算をまたぐ機関のポジション整理、中間配当の権利落ち、下期入り前の損出し売りが重なりやすいためと考えられます。末日の勝率は38.3%と上昇銘柄が4割を下回ります。
Q. 「新年度は資金流入で4月相場は強い」と聞きますが?
A. 少なくとも新年度入り直後の5営業日は累積-0.394%と、データは逆を示しています。新規資金の執行は分散されるため月初を押し上げる力は弱く、期末前に買われた分の反動安が先行しやすいのです。4月全体の強弱と「月初5日間」は分けて考えてください。
Q. 通常の月末効果はトレードに使えますか?
A. 通常月末は末日が平均+0.192%、末日-2〜末日+1の4日間累積+0.687%と安定した追い風でした。ただし1日あたりの差は小さいため、売買コストを引いても優位性が残るか必ず確認してください。
Q. この傾向は個別銘柄にもそのまま当てはまりますか?
A. 当てはまりません。本検証は全銘柄平均という「市場全体の地合い」を測ったものです。個別銘柄は決算月・配当の有無・需給で大きく異なります。全体傾向はタイミング調整の目安とし、銘柄選定は別途行ってください。
8.まとめ
東証全銘柄・約26年・12,529,124件の検証で見えた半期末アノマリーの実像は次の5点です。
- 「月末の上昇」は通常月末だけの現象:通常月末の末日+0.192%に対し、3月末の末日-0.060%・9月末の末日-0.214%。半期末に限って月末の上昇が消えます。
- 引けにかけて買い上がるドレッシング買いは確認できず:3月末の末日の日中リターンは-0.215%・勝率37.1%と売り優勢でした。
- 3月末の買いのピークは末日-4の+0.545%:期末の買い需要は実在するものの、最終日ではなく約1週間前に現れます。
- 末日-1の急落(-0.381%)の主因は配当権利落ち:T+2時代は末日-2に+0.775%の駆け込み買い、末日-1に-1.249%の落ちという「山と谷」が鮮明です。
- 新半期入りは反動安から始まる:期末後5営業日は3月末-0.394%・9月末-0.728%。買い出動は押し目を待つのが定石です。
通説を鵜呑みにして半期末の末日に買い向かうと、データ上はむしろ分の悪い勝負です。買いは半期末の1週間前まで、権利落ちは織り込んで構え、新半期は押し目を待つ――半期末カレンダーを手帳に落とし込み、需給の歪みを味方につけてください。本検証は過去の傾向であり将来を保証するものではありませんが、通説をデータで確かめる姿勢こそが相場で長く生き残る第一歩です。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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