「高ベータ株は相場が上がるときに大きく取れる。だから強気のときは高ベータを買う」。よく聞く考え方です。一方で、下がるときには逆に大きく痛みます。結局のところ、ベータの高い株は得なのでしょうか、損なのでしょうか。
それを数字で確かめました。2014年から2026年までの6,094,587件(4,672銘柄・3,100営業日)を対象に、毎日、銘柄を直近250営業日のベータの大きさで5つに分け、その後の値動きを市場の上昇局面・下落局面ごとに集計しています。
結論を先に述べます。高ベータ株は、上げ局面で約1.41倍、下げ局面でも約1.41倍に拡大しただけでした。上昇局面の20営業日後は高ベータ+7.604%・低ベータ+3.131%と高ベータの勝ち。しかし下落局面は高ベータ-10.319%・低ベータ-4.145%と、同じ倍率で負けています。
さらに、局面を問わずに集計すると、高ベータ株の20営業日後は平均+0.888%と高いのに、中央値は-0.604%・勝率47.5%でした。「平均では勝つが、典型的な1銘柄は負ける」という形です。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証の全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。2014年〜2026年・4,672銘柄・6,094,587件
- 市場:日経平均ではなく、全銘柄の日次リターンの単純平均(等ウェイト)で代用。データベースに指数が無いためです
- ベータ:直近250営業日の「個別銘柄の日次リターンと市場の日次リターンの共分散」÷「市場の分散」。その日の終値までのデータだけで計算しており、先読みはありません
- 分類:毎営業日、全銘柄をベータの大きさで5等分(Q1=最も低い、Q5=最も高い)
- 流動性:直近20日の平均売買代金が5,000万円以上の銘柄に限定
- リターン:その日の終値で買ったとして、翌日終値・5営業日後・20営業日後
- 局面:その日以降20営業日の市場リターンが3.0%を超えれば「上昇局面」、-3.0%を下回れば「下落局面」、その間が「横ばい」
平均ベータは区分ごとに、Q1が0.52、Q2が0.94、Q3が1.16、Q4が1.40、Q5が1.85でした。Q5はQ1の約3.56倍のベータを持つ計算です。
局面は後から振り返って分けたもので、買う時点では知ることができません。ベータの性質を確かめるための分け方とお考えください。
2.まず全期間で見ると:平均は高ベータの勝ち、中央値は負け
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| ベータの区分 | 平均ベータ | 件数 | 翌日終値 | 5日後 | 20日後(平均) | 20日後(中央値) | 20日後の勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Q1(最も低い) | 0.52 | 1,217,676 | +0.024% | +0.118% | +0.470% | +0.126% | 50.7% |
| Q2 | 0.94 | 1,218,917 | +0.038% | +0.190% | +0.732% | +0.413% | 52.3% |
| Q3 | 1.16 | 1,218,917 | +0.043% | +0.214% | +0.829% | +0.496% | 52.4% |
| Q4 | 1.40 | 1,218,917 | +0.043% | +0.218% | +0.855% | +0.187% | 50.6% |
| Q5(最も高い) | 1.85 | 1,220,160 | +0.045% | +0.222% | +0.888% | -0.604% | 47.5% |
| 全体平均(比較用) | – | 6,094,587 | +0.039% | +0.192% | +0.755% | +0.169% | 50.7% |
局面を区別せず、全期間を通して集計した結果です。20営業日後の平均を上から見ると、Q1が+0.470%、Q2が+0.732%、Q3が+0.829%、Q4が+0.855%、Q5が+0.888%。ベータが高いほど平均は高くなっています。
これだけ見ると「高ベータ株は報われる」と読めます。ところが中央値を並べると、様子が変わります。Q1は+0.126%、Q3は+0.496%、Q5は-0.604%。Q5だけがマイナスです。勝率も、Q1の50.7%に対してQ5は47.5%と低くなっています。
平均と中央値が逆を向く典型的な形です。平均を押し上げているのは少数の大きく上がる銘柄で、無作為に選んだ1銘柄で見れば、高ベータは低ベータより報われていません。中央値の差は-0.730%で、平均の差(+0.418%)とは向きが反対です。
3.市場の局面で分けると:上げも下げも同じ倍率で拡大
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| ベータの区分 | 上昇局面 | 勝率 | 横ばい | 勝率 | 下落局面 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Q1(最も低い) | +3.131% | 65.3% | +0.177% | 48.4% | -4.145% | 27.8% |
| Q2 | +4.532% | 73.2% | +0.385% | 49.1% | -6.122% | 19.5% |
| Q3 | +5.404% | 75.4% | +0.433% | 48.8% | -7.510% | 16.5% |
| Q4 | +6.262% | 73.7% | +0.280% | 46.8% | -8.597% | 15.6% |
| Q5(最も高い) | +7.604% | 69.8% | +0.034% | 43.3% | -10.319% | 15.3% |
| 全体平均(比較用) | +5.388% | 71.5% | +0.262% | 47.3% | -7.340% | 18.9% |
ここからが本題です。市場の20営業日後の動きで局面を分けました。上昇局面は全体の31.0%、横ばいが54.5%、下落局面が14.4%を占めます。
上昇局面では、ベータが高いほど大きく上がりました。Q1が+3.131%、Q3が+5.404%、Q5が+7.604%。全体平均(+5.388%)に対して、Q5は約1.41倍、Q1は約0.58倍です。
下落局面では、同じ関係が裏返しになります。Q1が-4.145%、Q3が-7.510%、Q5が-10.319%。全体平均(-7.340%)に対する倍率は、Q5が約1.41倍、Q1が約0.56倍でした。
注目していただきたいのは、上昇局面と下落局面で倍率がほぼ同じことです。高ベータは上げで約1.41倍、下げで約1.41倍。低ベータは上げで約0.58倍、下げで約0.56倍。「上げは大きく、下げは小さく」という都合のよい非対称性は見られませんでした。
なお、Q5÷Q1の比は上昇局面で約2.43倍、下落局面で約2.49倍。平均ベータの比(約3.56倍)ほどには開いていません。
勝率にも目を向けます。上昇局面の勝率はQ1が65.3%、Q3が75.4%、Q5が69.8%。上昇局面でさえ、勝率が最も高いのは真ん中のQ3で、Q5は下がっています。上昇局面のQ5は平均こそ大きいものの、銘柄ごとのばらつきが大きいことを示します。
4.横ばいの局面では、高ベータが最も報われない
市場が動かない局面(54.5%を占めます)も見ておきます。この局面の20営業日後は、Q1が+0.177%・勝率48.4%、Q3が+0.433%・勝率48.8%、Q5が+0.034%・勝率43.3%でした。
高ベータは、市場が上にも下にも行かないときに最も成績が悪くなっています。
ここまでの結果を、局面の出現割合で重みづけして足し合わせてみます。高ベータ(Q5)と低ベータ(Q1)の20営業日後の差を局面別に見ると、上昇局面が+4.473%、横ばいが-0.143%、下落局面が-6.174%です。下落局面の差の絶対値は、上昇局面の約1.38倍になっています。
これに出現割合を掛けた寄与は、上昇局面が+1.387%、横ばいが-0.078%、下落局面が-0.889%。合計+0.420%は全期間の差(+0.418%)と一致します。高ベータが上昇局面で低ベータより余分に稼いだ分の6割以上を、下落局面で余分に失っている計算です。
5.日次で見ても同じ:市場が大きく動いた日の翌日
1日単位でも確かめます。市場が1日に1.5%以上上げた日、1.5%以上下げた日を取り出し、その日の翌日のリターンを比べました。
| ベータの区分 | 市場上昇日の翌日 | 勝率 | それ以外の日の翌日 | 勝率 | 市場下落日の翌日 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Q1(最も低い) | +1.507% | 78.8% | +0.056% | 48.7% | -1.591% | 17.6% |
| Q2 | +2.422% | 88.4% | +0.084% | 49.5% | -2.463% | 8.7% |
| Q3 | +2.825% | 90.0% | +0.098% | 49.4% | -2.898% | 6.8% |
| Q4 | +3.290% | 90.4% | +0.107% | 48.8% | -3.387% | 6.4% |
| Q5(最も高い) | +4.017% | 89.1% | +0.121% | 47.5% | -4.126% | 6.7% |
| 全体平均(比較用) | +2.813% | 87.3% | +0.093% | 48.8% | -2.893% | 9.2% |
市場が1.5%以上上げた日(111日)は、Q1が+1.507%、Q5が+4.017%。市場が1.5%以上下げた日(157日)は、Q1が-1.591%、Q5が-4.126%です。
ここでも、Q5÷Q1は上げた日が約2.67倍、下げた日が約2.59倍とほぼ等しくなりました。
市場が動いていない日の翌日は、Q1が+0.056%、Q5が+0.121%とほとんど差がありません。ベータの違いは市場が大きく動いたときにだけ表に出るようです。
6.頑健性チェック:特定の日や年に偏っていないか
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極端な結果が特定の日に偏っていないかを確かめます。高ベータ(Q5)が下落局面に置かれたケースは176,297件・454営業日分あります。このうち発生が多かった上位3日(2026/03/02(500件)・2026/02/26(499件)・2026/02/27(498件))が占める割合は0.8%にすぎません。
上位3日を除いて再集計しても、20営業日後は-10.319%から-10.317%へとほとんど動きません。低ベータの下落局面も-4.145%が-4.145%、高ベータの上昇局面は+7.604%が+7.580%、低ベータの上昇局面は+3.131%が+3.144%です。
ただしこの点検は甘くなります。ベータ別の集計は毎日ほぼ同数の銘柄が入るため、件数の集中が構造的に起きないからです。本当に偏りやすいのは、日ではなく相場の大きな局面です。
そこで、2020年のコロナ・ショック(2020/02/20〜2020/04/30)、2024年夏の急落(2024/07/15〜2024/09/30)、2025年春の急落(2025/03/15〜2025/05/31)の3つの期間を除いて集計し直しました。結果は次のとおりです。
- 高ベータの下落局面:-10.319% → 危機局面を除くと-10.076%
- 低ベータの下落局面:-4.145% → 危機局面を除くと-4.022%
- 高ベータの上昇局面:+7.604% → 危機局面を除くと+6.909%
- 低ベータの上昇局面:+3.131% → 危機局面を除くと+3.070%
危機局面を除いても、高ベータが低ベータの約2.51倍(下落局面)、約2.25倍(上昇局面)という関係は崩れませんでした。
下落局面の高ベータを年別に見ると、2020年が-18.380%と突出し、他の年は-11.835%〜-7.298%でした。全局面での高ベータと低ベータの差を年別に見ると、高ベータが上回った年は9年、下回った年は4年(2014年・2015年・2018年・2023年)。毎年同じ結果になるわけではありません。
7.よくある質問(FAQ)
Q. ベータとは何ですか?
A. 市場全体が1%動いたときに、その銘柄が平均して何%動くかを表す数字です。ベータが1なら市場と同じ程度、1より大きければ市場より大きく、1より小さければ小さく動く傾向があります。今回は直近250営業日の日次リターンから、銘柄ごとに毎日計算し直しています。
Q. 日経平均ではなく、なぜ全銘柄の平均を使ったのですか?
A. 手元の株価データベースには個別銘柄の日足しかなく、日経平均そのものが含まれていないためです。そこで全銘柄の日次リターンを単純平均した値を「市場」として使いました。日経平均とは動きが違う日もあります。
Q. 高ベータ株は上昇局面で買えば有利ですか?
A. 局面がわかっていれば、その通りです。上昇局面の20営業日後は高ベータ(Q5)が+7.604%、低ベータ(Q1)が+3.131%でした。ただし局面は後から分類したもので、買う時点ではどちらに向かうのかわかりません。局面を事前に知る方法がない以上、この差をそのまま売買ルールには使えません。
Q. 低ベータ株は下落に強いのですか?
A. 下げ幅は小さくなりました。下落局面の20営業日後は低ベータが-4.145%、高ベータが-10.319%です。ただし低ベータでもマイナスであることに変わりはなく、勝率は27.8%にとどまりました。
Q. 高ベータ株の平均がプラスなのに、中央値がマイナスなのはなぜですか?
A. 一部の大きく上昇した銘柄が平均を押し上げているためです。高ベータ株の20営業日後は平均+0.888%に対し、中央値は-0.604%、勝率は47.5%でした。典型的な1銘柄で見ると、高ベータは報われていません。
Q. この結果は毎年同じですか?
A. 同じではありません。高ベータが低ベータを上回った年は9年、下回った年は4年(2014年・2015年・2018年・2023年)でした。差が最も大きかったのは2026年の+2.917%、最も小さかったのは2015年の-2.355%です。
Q. この結果を使ってどう売買すればよいですか?
A. この記事は売買ルールの提案ではなく、ベータの性質を確かめたものです。ベータは方向を当てる指標ではないので、ポジションの大きさを決める材料として使うのが自然でしょう。
8.まとめ
6,094,587件を数え直してわかったことを整理します。
- ベータは、上げも下げも同じ倍率で拡大する目盛りでした。高ベータ(Q5)は全体平均の約1.41倍(上昇局面)・約1.41倍(下落局面)、低ベータ(Q1)は約0.58倍・約0.56倍
- 上昇局面の20営業日後は高ベータ+7.604%・低ベータ+3.131%、下落局面は高ベータ-10.319%・低ベータ-4.145%。得をする局面と損をする局面が、ほぼ対称に現れました
- 全期間の20営業日後は、高ベータが平均+0.888%と最も高い一方、中央値-0.604%・勝率47.5%。平均を支えているのは少数の大きく上がる銘柄です
- 横ばいの局面では高ベータの勝率が43.3%と最も低く、方向感のない相場は高ベータには不利でした
- 頑健性:上位3日を除いても結果はほぼ不変(-10.319%→-10.317%)。危機局面を除いても倍率の関係は保たれます。ただし年別では、高ベータが低ベータを下回る年もありました
「相場が強いときは高ベータ」は、局面がわかっていれば成り立ちます。知らないまま持てば、高ベータが上昇局面で余分に得た分の6割以上は、下落局面で余分に失う、というのが今回の数字でした。
ベータは方向を当てる指標ではなく、値動きの大きさを決める指標です。ポジションの大きさを調整する目盛りとして使うのが、いちばん自然な使い方でしょう。
補足.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 市場は全銘柄の単純平均です。日経平均やTOPIXとは動きが異なる日があります
- 局面は後から分けたものです。売買の時点で使える情報ではありません
- 観測は互いに重なっています。20営業日後のリターンは隣り合う日と大部分が重なるため、独立した観測はおよそ155回分にすぎません。6,094,587件という件数ほどの確からしさはありません
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッドは考慮していません
- 上場廃止の銘柄は追えていません。実際より良い数字になっている可能性があります
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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