「出来高を伴って新高値を更新した銘柄は強い」。順張りの世界でくり返し語られてきた考え方です。商いが膨らみながら高値を抜けるということは、それだけ多くの資金がその価格を認めたということだから――という理屈にも納得感があります。
この通説を、東証全銘柄で確かめました。2022年10月3日から2026年8月8日までに発生した52週高値の更新は157,635件(4,337銘柄・942営業日、1日あたり平均167.3件)。これを出来高の膨らみ方で切り分けて集計しています。
結論を先に述べます。出来高はほとんど関係ありませんでした。出来高が3倍以上に膨らんだ新高値の5営業日後は+0.274%、平常の1倍未満でも+0.345%。差は0.1ポイントもありません。
代わりに、はっきりと差が出た軸がありました。その新高値が「何日目」かです。久々に高値を抜いた1日目は5営業日後+0.472%だったのに対し、3日目以上まで続いた後の更新は-0.043%。しかも、そこに出来高急増が重なると-0.972%まで落ち込みました。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
- 期間:2022/10/03〜2026/08/08(942営業日)
- 52週高値の更新:当日終値が、直前250営業日(当日を含まない)の終値の最高値を上回った日
- 出来高倍率:当日出来高 ÷ 直前20営業日の平均出来高(当日を含まない)
- 連続更新日数:52週高値の更新が何営業日続いているか。間が空けば1日目に戻る
- リターン:翌日寄付き(当日終値→翌日始値)、翌日終値、5営業日後、20営業日後
- 比較対象:同じ期間・同じ条件の全銘柄全日(4,010,554件)の平均。これを「市場全体」と呼びます
比較対象を必ず置いているのには理由があります。検証期間は日本株が上昇した年を多く含むため、どんな条件で切り出してもプラスになりがちだからです。「プラスだった」ではなく「市場平均より良かったか」で判断する必要があります。
2.52週高値の更新に、それだけで優位性はあったか
まず全体像です。新高値157,635件と市場全体を並べます。
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1日目 | 81,986 | +0.235% | +0.169% | 48.1% | +0.472% | 50.1% | +1.455% | 53.3% |
| 2日目 | 39,383 | +0.247% | +0.107% | 47.9% | +0.327% | 49.9% | +1.262% | 53.2% |
| 3日目以上 | 36,266 | +0.215% | +0.034% | 48.1% | -0.043% | 48.6% | +0.748% | 51.1% |
| 新高値すべて | 157,635 | +0.233% | +0.122% | 48.0% | +0.317% | 49.7% | +1.244% | 52.8% |
| 市場全体(比較用) | 4,010,554 | +0.101% | +0.067% | 48.0% | +0.331% | 51.1% | +1.299% | 53.4% |
表の下から2行目と最下行を見比べてください。新高値すべての5営業日後は+0.317%、市場全体は+0.331%。20営業日後は+1.244%対+1.299%。いずれも市場全体をわずかに下回っています。
意外に思われるかもしれません。ただ、翌日の勝率を見ると48.0%と、市場全体の48.0%とほぼ同じです。新高値を更新したからといって、翌日以降に勝ちやすくなるわけではなかった、というのが素直な読み方になります。
ひとつだけ市場全体と明確に違ったのが翌日寄付きです。新高値は+0.233%で、市場全体の+0.101%の2倍以上。高値更新の翌朝は高く始まる傾向が確かにあります。ただし終値までに+0.122%まで縮んでしまいます。
3.効いていたのは「何日目か」だった
同じ表の上3行が本題です。連続更新の日数で分けると、はっきりした差が現れます。
- 更新1日目(81,986件):5営業日後+0.472%・20営業日後+1.455%
- 2日目(39,383件):+0.327%・+1.262%
- 3日目以上(36,266件):-0.043%・+0.748%
1日目だけが市場全体(5営業日後+0.331%)を上回り、3日目以上はマイナスに沈みます。20営業日後で見ても、1日目+1.455%に対し3日目以上は+0.748%で、その差は0.707ポイントあります。
言い換えれば、買うなら「久々に高値を抜いた最初の日」であって、高値更新が続いている最中ではないということです。連日の高値更新は勢いの証明に見えますが、数字の上では上値が重くなっていく過程でした。
4.連続日数と出来高を掛け合わせる
では、通説どおり「出来高を伴った新高値」はどうだったのか。2つの軸を掛け合わせます。
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| 連続更新\出来高倍率 | 1倍未満 | 1〜1.5倍 | 1.5〜2倍 | 2〜3倍 | 3倍以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1日目 | +0.467% 30,396件 | +0.399% 21,735件 | +0.467% 10,484件 | +0.470% 8,592件 | +0.639% 10,779件 |
| 2日目 | +0.319% 14,279件 | +0.324% 11,046件 | +0.418% 5,391件 | +0.264% 4,184件 | +0.311% 4,483件 |
| 3日目以上 | +0.086% 12,863件 | +0.081% 11,153件 | +0.009% 5,225件 | -0.117% 3,739件 | -0.972% 3,286件 |
※各セルは5営業日後の平均リターン。市場全体は+0.331%
更新1日目の行(いちばん上)を横に見ると、出来高倍率が上がっても+0.467%から+0.639%へとわずかに改善する程度です。出来高を伴えば多少良いけれど、決定的ではありません。
対照的なのが3日目以上の行です。1倍未満の+0.086%から、出来高が膨らむにつれて下がっていき、3倍以上では-0.972%。全セル中で最も悪い数字です。
つまり同じ「出来高急増を伴う新高値」でも、1日目なら+0.639%、3日目以上なら-0.972%と、正反対の結果になります。出来高という材料は、それ単体では意味を持たなかったということです。
数日続いた上昇の最終局面で出来高が急に膨らむ、という形は、買いたい人が出尽くす場面と重なりやすいのかもしれません。もっとも、これはデータから直接読み取れる話ではなく、あくまで解釈のひとつです。
5.年によるばらつきと頑健性
この結果がどの程度安定しているかも確認しました。まず発生日の偏りです。157,635件は942営業日に分散しており、最も多かった上位3日を合わせても全体の1.7%にすぎません。その3日を除いても5営業日後+0.317%が+0.307%になるだけで、ほぼ変わりません。
一方、年によるばらつきは大きいものでした。5営業日後の平均は2022年-0.470%、2023年+0.225%、2024年+0.113%、2025年+0.474%、2026年+0.587%。20営業日後では2022年-0.782%、2023年+0.927%、2024年+0.038%、2025年+2.589%、2026年+1.435%です。
新高値の更新は上昇相場で大量に発生し、下落相場ではほとんど出ません。そのため成績はその年の相場環境に強く左右されます。どんな年でも安定して効く手法ではないという点は、押さえておく必要があります。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 銘柄を選別していません。業績・成長性・規模などで絞り込まず、52週高値を更新した全銘柄を機械的に集計しています。実際の新高値ブレイク投資は、その前段階に銘柄選別を置くのが普通です
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、実際に約定できるかは考慮していません
- 終値ベースの高値です。ザラバの高値ではなく終値の最高値と比較しているため、日中に高値を付けて引けで押し戻された日は更新と数えていません
- 期間が約4年です。2022年10月以降という比較的短い期間であり、上で見たとおり年ごとの差も大きくなっています
7.よくある質問(FAQ)
Q. 52週高値とはどういう意味ですか?
A. 過去1年(本記事では250営業日)の終値の最高値を上回ることです。「年初来高値」は1月からの高値を指すのに対し、52週高値は常に直近1年を振り返るため、年のどの時期に見ても意味が変わりません。新高値ブレイクという言葉が指すのは通常こちらです。
Q. 新高値を更新した銘柄は買いですか?
A. 更新したという事実だけでは優位性は確認できませんでした。新高値157,635件の5営業日後は+0.317%、20営業日後は+1.244%。市場全体の+0.331%、+1.299%とほぼ同じか、わずかに下回ります。
Q. 出来高を伴った新高値は強いと聞きますが?
A. 今回の範囲では、出来高倍率による差はほとんどありませんでした。5営業日後で見ると1倍未満+0.345%、3倍以上+0.274%。差は0.1ポイント未満です。出来高よりも、次の質問にある「何日目か」のほうがはるかに効いていました。
Q. 「何日目か」とはどういう意味ですか?
A. 52週高値を何日連続で更新しているか、ということです。久々に高値を更新した1日目は5営業日後+0.472%・20営業日後+1.455%ですが、3日目以上になると-0.043%・+0.748%まで落ちます。
Q. 最も成績が悪かった組み合わせは何ですか?
A. 連続更新3日目以上で、なおかつ出来高が3倍以上に膨らんだケースです。5営業日後は-0.972%。逆に最もよかったのは更新1日目×出来高3倍以上の+0.639%でした。同じ「出来高を伴った新高値」でも、何日目に出たかで正反対の結果になります。
Q. この結果は年によって違いますか?
A. 違います。5営業日後で見ると、2022年-0.470%、2023年+0.225%、2024年+0.113%、2025年+0.474%、2026年+0.587%でした。相場環境によって振れ幅が大きいため、どの年でも同じように効く手法ではありません。
Q. 新高値ブレイク投資は有効ではないということですか?
A. 本記事が検証したのは「52週高値を更新した翌日に買う」という単純なルールだけです。業績や成長性で銘柄を絞り込んだうえで新高値を待つ、といった実際の運用とは前提が異なります。更新という事実そのものには平均的な優位性がなかった、という点だけをご理解ください。
8.まとめ
157,635件の52週高値更新を数え直してわかったことを整理します。
- 「新高値を更新した」という事実だけでは優位性がありませんでした。5営業日後+0.317%・20営業日後+1.244%で、市場全体の+0.331%・+1.299%をわずかに下回ります
- 出来高倍率による差はほとんどありませんでした。5営業日後で1倍未満+0.345%、3倍以上+0.274%。「出来高を伴えば強い」は確認できません
- 効いていたのは連続更新日数でした。1日目+0.472%に対し3日目以上は-0.043%。20営業日後では0.707ポイントの差がつきます
- 最悪の組み合わせは「3日目以上×出来高3倍以上」でした(5営業日後-0.972%)。同じ条件でも1日目なら+0.639%と、正反対になります
- 翌朝は高く寄ります。翌日寄付き+0.233%に対し終値まで持つと+0.122%。寄り付きでの飛びつきは不利です
新高値ブレイクという考え方を否定するものではありません。ただ「出来高を伴っているか」を判断材料の中心に置くことには、今回の範囲では根拠が見つかりませんでした。
数字が示していたのは、同じ材料でも、それが上昇過程のどこで出たかによって意味が変わるという、ごく当たり前のことです。チャートに出来高の棒グラフが立っているのを見たら、その前に何日高値を更新し続けているかを一度数えてみてください。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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