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「もう若くはないし、老後の資産運用は何から手をつければいいのか分からない」——そう感じている方は少なくありません。

結論から言えば、老後の資産運用で意識したいのは、資産を大きく「増やす」ことよりも、限られた資産を計画的に「取り崩しながら維持する」という視点です。長い時間をかけて積み立てる段階から、築いた資産を使いながら守っていく段階へと発想を切り替える必要があります。

この記事では、老後の資産運用が重要とされる背景、年代による考え方の違い、活用できる制度、避けたい失敗、取り崩し方の基本まで順番に整理していきます。

1.老後の資産運用がなぜ重要か

「老後の生活は年金でなんとかなるはず」と考えている方もいますが、老後の資金計画において資産運用が重視されるようになった背景には、いくつかの構造的な変化があります。

1-1.公的年金だけでは生活費をまかないにくくなっている

公的年金は老後の生活を支える重要な柱ですが、給付水準は現役世代の人口構成や経済状況の影響を受けて変動します。年金収入だけで、それまでの生活水準をすべてまかなえるとは限らないという前提を持つことが、資金計画の出発点になります。まずはねんきん定期便などで、自分自身の年金見込み額を確認しておきましょう。

1-2.平均余命が延び、老後の期間そのものが長期化している

医療の進歩などを背景に、日本人の平均余命は長期的に延びる傾向にあります。老後の期間が長くなるほど、資産を維持すべき期間も長くなるということです。「退職後は20〜30年前後の生活が続く可能性がある」という前提で考えておくと、必要な備えのイメージがつかみやすくなります。

1-3.物価上昇による資産の実質的な目減りリスク

現金や預貯金は額面上の金額こそ減りませんが、物価が上昇する局面では、同じ金額で買えるものが少しずつ減っていきます。老後資金をすべて現金・預貯金で持ち続けることは、実質的な購買力を目減りさせるリスクを伴う点も理解しておく必要があります。資産の一部を運用に回し、物価上昇への備えを持っておく発想が出てくるのはこのためです。

2.老後資産運用の基本方針――取り崩しを見据えた「守り」と「増やす」のバランス

老後の資産運用は、現役時代の「増やす」運用とは前提が異なります。まずは基本方針を整理しておきましょう。

2-1.「資産形成期」から「資産活用期」への発想の転換

現役時代は給与収入があるため、多少の値下がりがあっても長い時間をかけて回復を待てます。一方、退職後は労働収入に頼らず、それまでに築いた資産で生活していく「資産活用期」に入ります。この段階では大きなリターンを追い求めるより、資産を計画的に減らしながら維持する視点が中心になります。

2-2.「守りの資産」と「増やす資産」を分けて考える

老後の資産は、値動きの小さい「守りの資産」(預貯金、個人向け国債など)と、物価上昇や長寿化に備えて値上がりを狙う「増やす資産」(株式投資信託など)に分けて考えるのが基本です。守りの比率を高めに保ちつつ一部を増やす資産として残すことで、長い老後の目減りに備えます。

2-3.生活防衛資金を厚めに確保しておく

老後は収入が年金中心になり、急な出費を給与収入で補うことが難しくなります。医療・介護など急な出費に備える生活防衛資金は、現役時代よりも厚めに確保しておくことが望ましいとされています。生活防衛資金があれば、相場下落時にも無理に運用資産を取り崩さずに済みます。

3.年代別の考え方――60代・70代以降で変わるリスク許容度

老後と一口に言っても、60代と80代では体力や収入の状況、資産運用に対する向き合い方は大きく異なります。年代ごとの目安を整理してみましょう。

3-1.60代――現役引退前後、取り崩しの助走期間

60代はまだ就労収入がある方も多く、公的年金の受給開始時期を選べる年代です。資産運用の面では、それまで積み立てた資産を、これから始まる取り崩しに向けて整理する助走期間と位置づけられます。守りの比率を徐々に高めつつ、増やす資産も残しておくバランスが目安になります。

3-2.70代――守りを厚くし、取り崩しを本格化させる時期

70代になると多くの方が年金中心の生活に移行し、資産の取り崩しも本格化してきます。大きな値下がりからの回復を待てる時間の余裕が60代より限られるため、守りの比率をさらに高めておくことが一般的な目安とされています。

3-3.80代以降――管理のシンプル化と判断力低下への備え

80代以降は、体力や判断力の変化も踏まえ、資産管理そのものをできるだけシンプルにしておくことが重要になります。保有商品の数を絞る、家族と情報を共有する、必要に応じて成年後見制度や家族信託を検討するなど、判断力低下に備えた準備も視野に入れておきたいところです。

年代ごとのリスク資産配分の考え方を、あくまで一例として整理すると次のようになります。

年代増やす資産の目安守りの資産の目安考え方のポイント
60代30〜40%程度60〜70%程度取り崩しに向けて配分を整理し始める時期
70代20〜30%程度70〜80%程度取り崩しが本格化し、守りを優先
80代以降10〜20%程度80〜90%程度管理のシンプル化と安全性を重視

この配分はあくまで考え方を単純化した一例であり、誰にでも当てはまる正解ではありません。保有資産の総額や年金見込み額、健康状態、家族構成によって適切な比率は異なります。

4.老後資産運用で使える制度――NISA、個人向け国債、iDeCoの受取方法

老後の資産運用では、税制優遇のある制度や、値動きの穏やかな商品をうまく組み合わせることが検討されます。代表的な制度を確認しておきましょう。

4-1.NISA――老後も使い続けられる非課税の器

NISAは投資で得た運用益が非課税になる制度で、年齢の上限がなく老後も利用を続けられます。いつでも売却・引き出しができる柔軟性があり、取り崩しながら一部を運用に残したい老後の資産運用にも取り入れやすい制度です。ただしNISAは税制上の優遇制度にすぎず、組み入れる商品によっては元本割れが起こり得る点には注意が必要です。

4-2.個人向け国債――守りの資産の代表格

個人向け国債は国が発行する債券で、下限金利が設けられているなど、比較的値動きによる元本割れが起きにくい設計になっている商品です。大きく増やす力はありませんが、生活防衛資金の次に置く「守りの資産」の代表的な選択肢として位置づけられます。

4-3.iDeCoの受取方法――一時金・年金・併用の選択

iDeCo(個人型確定拠出年金)は老後資金づくりを目的とした制度で、受け取り方法として一時金として一括で受け取る方法、年金形式で分割して受け取る方法、両者を組み合わせる方法を選べます。一時金は退職所得控除、年金形式は公的年金等控除の対象になりますが、会社の退職金と時期が重なると控除枠に影響することもあります。どの受け取り方が有利かは個人の状況によって異なるため、受給が近づいたら最新のルールを確認し、必要に応じて税理士やファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめします。

ここまで紹介した制度・商品の特徴を簡単に整理すると、次のようになります。

制度・商品主な特徴老後における位置づけ
NISA(新NISA)運用益が非課税、年齢上限なし、いつでも引き出し可能取り崩しながら一部を非課税で運用し続ける器
個人向け国債国が発行、下限金利があり値動きが穏やか生活防衛資金の次に置く守りの資産
iDeCo掛金は原則65歳まで拠出可、受取方法を選択できる受取タイミング・方法の選び方が重要

5.老後の資産運用で避けたい失敗――退職金の集中投資と詐欺的な高利回り商品への注意

老後の資産運用では、一度の失敗がその後の生活設計全体に影響しやすいという特徴があります。代表的な失敗パターンを押さえておきましょう。

5-1.退職金を一つの商品にまとめて集中投資してしまう

退職金を受け取った直後、まとまった金額を一つの商品に一括で投じるのは典型的な失敗パターンです。特定の時期・商品に資金を集中させると、その後の値動き次第で資産全体が大きな影響を受けます。時期や商品を分けて投資する工夫により、値動きの影響を和らげることができます。

5-2.「元本保証で高利回り」をうたう詐欺的な商品への注意

老後資金というまとまった金額を狙って、「絶対に儲かる」「元本保証で年〇%の利回り」といった言葉で勧誘してくる、詐欺的な金融商品や未公開株の話が後を絶ちません。リスクがほとんどないのに高い利回りだけが約束される話は、基本的に存在しないと考えておくべきです。少しでも怪しいと感じたら即決せず、金融庁や消費生活センターなど公的な窓口に相談しましょう。

5-3.必要以上にリスクの高い運用に手を出してしまう

「老後資金が足りないかもしれない」という焦りから、値動きの大きい商品やレバレッジ取引など、それまで経験してこなかった高リスクの運用に手を広げてしまうのもよくある失敗です。老後は損失を労働収入で取り返しにくいため、リスクを取る場合も生活に影響が出ない金額にとどめておくことが大切です。

5-4.身近な人の成功談や勧誘に流されて判断してしまう

知人や親族の「あの商品で増えた」という話をきっかけに、内容をよく理解しないまま同じ商品に手を出してしまうケースもあります。他人の成功体験は、自分の資産状況やリスク許容度に当てはまるとは限りません。勧められた商品ほど、仕組みや手数料、リスクを自分自身でも確認する姿勢を持ちましょう。

6.取り崩し方の基本的な考え方――定率取り崩し等の一般的な手法

老後の資産運用でもう一つ重要なのが、「どう取り崩すか」という出口の考え方です。代表的な手法を紹介します。

6-1.定額取り崩し――毎年決まった金額を取り崩す方法

定額取り崩しは、毎年決めた一定の金額を資産から取り崩していく方法です。生活費の計画が立てやすい一方、相場下落局面でも同じ金額を取り崩すため資産の減り方が速くなりやすいという注意点もあります。

6-2.定率取り崩し――資産残高に対して一定の割合を取り崩す方法

定率取り崩しは、その時点の資産残高に対して一定の割合を取り崩していく方法です。相場が下落して資産が減れば取り崩す金額も自動的に少なくなるため、定額取り崩しに比べて資産が想定より早く尽きるリスクを抑えやすいとされています。一方で相場が悪い年は受け取れる金額が減るため、生活費の変動をある程度許容できる設計にしておく必要があります。

6-3.取り崩す資産の順序を考えておく

複数の資産を保有している場合は、どの資産から取り崩すかという順序も重要です。一般的には、値上がりしている資産を優先的に取り崩し、値下がりしている資産は回復を待つという考え方が紹介されることが多くあります。NISA口座と課税口座のどちらから取り崩すかで税負担も変わるため、あらかじめ大まかな順序を決めておくと判断に迷いにくくなります。

6-4.取り崩し率の考え方――目安はあくまで参考値として

資産運用の世界では、「年間の取り崩し率を資産残高の一定割合以内に抑えれば、資産が長期間持続しやすい」という考え方が、一般的な目安として紹介されることがあります。ただしこの目安は運用期間や運用成績、物価上昇率などの前提条件で結果が変わるものであり、誰にでも当てはまる保証された数字ではありません。自分の資産額や年金見込み額、生活費をもとに、無理のない取り崩しペースを個別に検討することが重要です。

7.よくある質問(FAQ)

Q. 老後の資産運用は何歳ごろから意識すればいいですか?

A. 明確な年齢の決まりはありませんが、一般的には50代から60代にかけて、資産を増やす段階から取り崩しを見据えた段階へ考え方を切り替え始める方が多いです。早めに資産全体と年金見込み額を把握しておくと、余裕を持って準備を進められます。

Q. 年金だけでは老後の生活は難しいのでしょうか?

A. 年金でどの程度の生活費をまかなえるかは、収入や資産の状況によって人それぞれ異なります。ねんきん定期便で見込み額を確認したうえで、不足分をどう補うか資産運用も含めて検討することが大切です。

Q. 退職金はすぐに運用に回した方がいいですか?

A. 退職金を受け取ってすぐに一括で運用に回す必要はありません。まずは生活防衛資金を確保し、資産全体の配分を整理したうえで、時期や商品を分けながら運用に回す金額を検討することをおすすめします。

Q. 取り崩しをしながら運用を続けても大丈夫ですか?

A. 老後の資産運用では、資産の一部を守りの資産に置きながら、残りを運用に回しつつ取り崩していく考え方が一般的です。すべてを現金化せず一定割合を運用に残すことで、長期化する老後の目減り対策になります。

8.まとめ――老後の資産運用は「守りながら使う」視点で

  • 老後の資産運用は、大きく増やすことより計画的に取り崩しながら資産を維持する視点が重要
  • 年金だけに頼らず、平均余命の伸びや物価上昇も踏まえた備えが求められる
  • 資産は「守りの資産」と「増やす資産」に分け、年代が上がるほど守りの比率を高めていく
  • NISA・個人向け国債・iDeCoなど、目的や受取方法に応じて制度を使い分ける
  • 退職金の集中投資や詐欺的な高利回り商品を避け、定率取り崩しなど無理のない出口戦略を持つ

老後の資産運用は、若い頃のように「時間を味方につけて大きく増やす」段階から、これまで築いてきた資産をどう守り、どう使いながら長い老後を支えるかという段階へと移っていきます。年代とともに変化するリスク許容度を意識し、守りと増やすのバランスを見直していくことが欠かせません。

まずはご自身の資産全体と年金の見込み額を棚卸しし、取り崩しを見据えた配分に整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。不安な点は一人で抱え込まず、信頼できる専門家に相談しながら進めることも一つの方法です。

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

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「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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