ローソク足を見て、始値=高値=その日最高値の銘柄を「寄り天(よりてん)」、始値=安値=その日最安値の銘柄を「寄り底(よりぞこ)」と呼びます。寄り天は寄り付き以降一度も高値を更新できず下げ続けた日、寄り底は寄り付き以降一度も安値を割らず上げ続けた日――いずれも方向性が一日中続いた、決定的な「強い」シグナルです。
では、こうした寄り天/寄り底の翌日はどう動くのでしょうか?モメンタムが続くのか、それとも逆戻りするのか?――本記事では、東証全銘柄・約165万件のサンプル(2020〜2025年)で、当日変動率帯別に翌日デイトレ(始値→終値)と翌日オーバーナイト(終値→翌日始値)のリターンを集計しました。
結論を先にお伝えします。寄り天は全帯で翌日デイトレがマイナス(モメンタム継続)、ただし10%以上の大幅下落寄り天だけは翌日デイトレ+0.314%と反発に転じる。そして寄り底10%以上上昇銘柄は、翌日デイトレが-0.813%と急落するのに、オーバーナイトが+3.656%と窓開けで大幅上昇――ストップ高張り付き翌日のヒートアップとその後の失速、という日本株特有のパターンが鮮明に浮かび上がります。
1.検証ルール
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検証対象:東証全銘柄(プライム・スタンダード・グロース)約3,800社
検証期間:2020年1月〜2025年12月(約5〜6年間)
サンプル数:寄り天約90万件、寄り底約75万件
【寄り天の定義】
- 当日始値 = 当日高値 (その日寄り付き以降に高値更新なし)
- かつ当日終値 < 前日終値(下落日のみ集計)
- 当日下落率の帯別に「0〜1%/1〜2%/2〜5%/5〜10%/10%以上」の5段階で集計
【寄り底の定義】
- 当日始値 = 当日安値 (その日寄り付き以降に安値更新なし)
- かつ当日終値 > 前日終値(上昇日のみ集計)
- 当日上昇率の帯別に「0〜1%/1〜2%/2〜5%/5〜10%/10%以上」の5段階で集計
【翌日リターンの定義】
- 翌日デイトレリターン=(翌日終値 − 翌日始値)÷翌日始値×100
- 翌日オーバーナイトリターン=(翌日始値 − 当日終値)÷当日終値×100
- 合計(翌日終値 − 当日終値)÷当日終値×100 が「翌日終値ホールド」リターンに相当
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寄り天/寄り底は、相場の方向性が一日中変わらなかった「強いシグナル」です。モメンタムが続くのか、リバーサルが起きるのか――変動率帯ごとに異なる結果が出ることが、本検証の最大のポイントです。
2.検証結果
(1) 翌日デイトレ(始値→終値)成績
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赤いバー(寄り天)と青いバー(寄り底)の翌日デイトレ成績は全帯でマイナスが原則。ただし寄り天の「10%以上下落」だけが+0.314%とプラスに転じるのが目を引きます。これは「投げ売り尽くした翌日の反発」を示唆する重要なシグナルです。
(2) 翌日オーバーナイト(終値→翌日始値)成績
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こちらはほぼ全帯でプラス。特に寄り底「10%以上上昇」の翌日オーバーナイトは+3.656%という驚異的な数値。これは前日ストップ高張り付きの銘柄が翌日も買い気配のまま窓開けで寄り付くパターンが大量にカウントされているためです。
(3) 寄り天 完全データ表
| 当日下落率帯 | 件数 | 翌日デイトレ平均 | 勝率 | 翌日オーバーナイト平均 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0〜1%下落 | 408,352 | -0.074% | 40.6% | +0.115% | 44.1% |
| 1〜2%下落 | 248,294 | -0.074% | 42.6% | +0.155% | 45.2% |
| 2〜5%下落 | 209,618 | -0.106% | 44.0% | +0.173% | 46.0% |
| 5〜10%下落 | 31,365 | -0.287% | 44.9% | +0.288% | 47.1% |
| 10%以上下落 | 5,027 | +0.314% | 46.4% | +1.027% | 47.6% |
(4) 寄り底 完全データ表
| 当日上昇率帯 | 件数 | 翌日デイトレ平均 | 勝率 | 翌日オーバーナイト平均 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0〜1%上昇 | 326,958 | +0.017% | 42.2% | +0.076% | 42.9% |
| 1〜2%上昇 | 204,065 | -0.016% | 42.4% | +0.032% | 42.7% |
| 2〜5%上昇 | 170,546 | -0.093% | 41.1% | +0.044% | 42.9% |
| 5〜10%上昇 | 34,084 | -0.161% | 40.7% | +0.015% | 41.7% |
| 10%以上上昇 | 11,455 | -0.813% | 36.4% | +3.656% | 54.0% |
(5) サンプル件数分布
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件数は0〜1%帯が最多で、極端な10%以上帯は寄り天・寄り底ともに約5,000〜11,000件と希少。希少サンプルほど数値のブレも大きいですが、結論の方向性は安定しています。
3.寄り天が「翌日もデイトレマイナス」になる理由
寄り天は当日「寄り付きで天井をつけて、そのまま一日下げ続けた」という、非常に弱い値動きです。この弱さは翌日にも引き継がれます。データを見ると:
- 0〜2%程度の軽い下落寄り天:翌日デイトレ-0.074〜-0.074%、勝率40.6〜42.6%。翌日もズルズル下げる弱さの継続です。
- 2〜10%の中規模下落寄り天:デイトレ-0.106〜-0.287%、勝率は44%台に上昇。やや反発も入りますが、まだ売り優勢。
- 10%以上の大幅下落寄り天:デイトレ+0.314%、勝率46.4%。反発に転じる転換点。投げ売りが極限まで進み、翌日は買い直しが入ります。
つまり寄り天の翌日は「モメンタム継続」が原則だが、10%以上の極端な下落になると反転シグナルに変わります。これは「行き過ぎは戻る」という相場の普遍的原理の表れです。
4.寄り底が「翌日デイトレマイナス+オーバーナイト超プラス」になる理由
寄り底は当日「寄り付きが底で、そのまま一日上げ続けた」という強い値動き。しかし翌日の振る舞いは寄り天とは違う独特のパターンを示します:
- 0〜2%程度の軽い上昇寄り底:翌日デイトレ+0.017〜-0.016%とほぼフラット。オーバーナイトは+0.032〜+0.076%とわずかプラス。穏やかな上昇継続。
- 2〜10%の中規模上昇寄り底:デイトレ-0.093〜-0.161%でわずかにマイナス転換。利確売り優勢。オーバーナイトはほぼゼロ。
- 10%以上の大幅上昇寄り底:デイトレ-0.813%(勝率36.4%)に対しオーバーナイト+3.656%(勝率54.0%)と極端な乖離。
この最後のパターンは、「前日ストップ高張り付き → 翌日朝も買い気配で窓開け寄り付き → 寄り付き高値からの利確売りで急落」という日本株特有の現象を統計的に捉えたものです。10%以上の上昇かつ寄り底(始値=安値)は事実上「ストップ高張り付き」の代理指標になっており、翌日のオーバーナイトリターンが+3.656%という極端な数値はこれを裏付けます。
5.実践活用――2つの優位性戦略
(1) 「大幅下落寄り天」リバーサル買い戦略
当日10%以上下落した寄り天銘柄を、当日大引け(or 翌日寄り付き)で買う戦略です。データ上:
- 翌日デイトレ平均+0.314%/勝率46.4%
- 翌日オーバーナイト平均+1.027%/勝率47.6%
- 合計「翌日終値ホールド」で平均+1.341%相当
5,000件のサンプルでこの平均値は統計的に有意です。ただし、下げが続く銘柄に逆張りするため、個別銘柄では負けるトレードも多い。10〜20銘柄に分散して期待値プラスを取りに行く投資が現実的です。
(2) 「ストップ高翌日」オーバーナイト売り回避&順張り戦略
10%以上上昇の寄り底銘柄(≒ストップ高張り付き)は、翌日オーバーナイトで平均+3.656%という驚異的な窓開けリターンが期待できますが、寄り付き後は-0.813%急落します。実践的な活用法は:
- 保有者の場合:翌日寄り付きで売却=最高値で利確(オーバーナイト+3.656%取り)。寄り付き後の急落を回避できます。
- 新規買いの場合:翌日寄り付き買いは平均-0.813%で逆効果。絶対に飛びつかないのが鉄則。
- 空売り視点:翌日寄り付きで空売り→大引けで買い戻し=平均+0.813%取り、勝率約63%。ただし規制で空売り不可な銘柄も多いため要注意。
(3) 寄り天の通常帯はノーポジ推奨
寄り天の0〜10%下落帯は、翌日デイトレもオーバーナイトもプラスマイナスゼロ近辺。サンプル件数は最多ですが、わざわざポジションを取る優位性はありません。「弱い銘柄は触らない」のが最も効率的です。
6.注意点とリスク
- 10%以上のサンプルは件数が少ない:寄り天10%以上=5,027件、寄り底10%以上=11,455件。年間あたり1,000〜2,000件と希少なので、待ちのスタイルが必要です。
- 個別銘柄の値動きは大きくブレる:平均値が示すのは「期待値」であり、個別銘柄では-20%もあれば+30%もある世界。必ず分散投資で挑むこと。
- 大幅下落寄り天には倒産リスクが混ざる:10%以上下落は決算ショックや業績悪化材料が多く、その中には倒産や上場廃止に至る銘柄も。財務指標で事前に弾く必要があります。
- ストップ高翌日の急落=信用買い決済リスク:寄り底10%以上の翌日急落は、信用買い参加者の利確決済が主因。地合いが悪い時はさらに悪化することも。
- 市場全体の地合いを必ずチェック:日経平均が大幅安の日は、これらのパターンも崩れます。日経の方向と組み合わせて使うのが現実的です。
7.よくある質問(FAQ)
Q. 寄り天と寄り底とは何ですか?
A. 寄り天は当日始値が高値と一致(寄り付き以降、高値を更新できなかった日)、寄り底は当日始値が安値と一致(寄り付き以降、安値を割らなかった日)です。一日中相場の方向性が変わらなかった、決定的な「強い」シグナルとされます。
Q. 寄り天の翌日は買いですか?売りですか?
A. 原則は売り(モメンタム継続でデイトレマイナス)です。ただし10%以上の大幅下落寄り天だけは翌日デイトレが+0.314%、オーバーナイト+1.027%と反発に転じます。投げ売り尽くしの転換点です。
Q. 寄り底10%以上上昇の翌日オーバーナイトが+3.656%なのはなぜ?
A. 前日ストップ高張り付きの銘柄が翌日も買い気配のまま窓開けで寄り付くケースが大量にカウントされているためです。日本株のストップ高制度ならではの特殊現象。ただし寄り付き後は-0.813%急落するので、翌日寄り付き買いは避けるべき。
Q. 勝率が40%台でも本当に儲かるのですか?
A. 勝率より「平均リターンと損益比率」が重要です。例えば寄り天10%以上下落は勝率46.4%ですが、勝ち時に大きく勝ち、負け時に小さく負ける構造。これを20〜30銘柄分散することで期待値プラスを実現できます。
Q. ストップ高翌日の利確タイミングは寄り付き売りで合っていますか?
A. データ上はその通りです。寄り底10%以上上昇の翌日は「寄り付き=その日の天井」になりやすく、寄り付き売りで+3.656%のオーバーナイトリターンを確定できます。寄り付き後は平均-0.813%下落するため、寄り付きで利確が最適。
Q. 寄り天/寄り底のシグナルはどこで見られますか?
A. 証券会社のチャートで日足を表示し、ローソク足の始値=高値(または始値=安値)になっているか目視で確認できます。ザラ場中のスクリーニングは難しいので、大引け後のスクリーニング→翌日寄り付き取引が現実的です。
Q. デイトレとオーバーナイトはどちらが期待値が高いですか?
A. 寄り天/寄り底パターンでは、ほぼ全帯でオーバーナイト>デイトレです。終値→翌日始値の窓開けで稼ぐオーバーナイト戦略が、寄り付き→大引けで稼ぐデイトレより優位性があります。日本株全体に共通する傾向です。
8.まとめ
寄り天と寄り底という、一日中相場方向が変わらなかった「決定的シグナル」の翌日リターンを1,649,764件のサンプルで検証しました。最重要ポイントは3つ:
- 寄り天は翌日デイトレもマイナス(モメンタム継続)が原則。ただし10%以上下落寄り天は反転シグナル(デイトレ+0.314%、オーバーナイト+1.027%)。投げ売り尽くしの転換点として活用可能。
- 寄り底10%以上上昇銘柄(≒ストップ高張り付き)は翌日オーバーナイト+3.656%の驚異的窓開け。一方で寄り付き後は-0.813%急落するため、保有者は翌日寄り付き売りが最適、新規買いは絶対回避。
- 通常帯(0〜10%)の寄り天/寄り底はノーポジ推奨。サンプルは最多だが、優位性は薄い。「弱い銘柄は触らない、強い銘柄も寄り付き買いはしない」が鉄則。
本検証で見えたのは、教科書的なモメンタム理論を「変動率帯」で細分化すると、極端値だけ性質が真逆になるという興味深い構造です。寄り天/寄り底というシンプルなシグナルでも、変動率の大小で扱いを変えれば、再現性の高いセットアップになります。
個別銘柄の値動きをローソク足で観察するとき、始値=高値、または始値=安値という「特殊なローソク足」が現れたら、本記事のデータを思い出してください。一日中続いた相場の強さ/弱さは、翌日にどう引き継がれるのか――その答えは、変動率の大きさが教えてくれます。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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