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ローソク足の安値が、日を追うごとに切り上がっていく。上昇トレンドの条件として、チャートの教科書に必ず出てくる形です。押したところで買いが入っている証拠として、強い銘柄の目印にしている方は多いはずです。

この「安値の切り上げ」を数字で確かめました。東証全銘柄の日足から、安値が前日より高い日が何日連続しているかを銘柄ごとに数え、その後のリターンを集計しています。対象は2014年1月6日から2026年9月16日までの1,244万件(12,435,838件・5,435銘柄・3,105営業日)です。

結論を先に述べます。安値の切り上げは、続くほど成績が細っていきました。20営業日後の平均は、1日だけなら+1.025%と全体平均の+0.938%を上回りますが、5日連続で+0.747%、8日以上では+0.428%まで下がります。

鏡写しの「安値の切り下げ」は逆の形でした。8日以上切り下がり続けた銘柄の20営業日後は+1.437%・勝率53.4%と、全区分で最も高い水準です。

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

システムトレード

1.検証ルール

集計条件をすべて開示します。

  • データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
  • 期間:2014/01/06〜2026/09/16(3,105営業日・5,435銘柄・12,435,838件)。20営業日後の株価が確定できる日までを対象にしています
  • 安値の切り上げ:その日の安値 > 前日の安値。これが何日続いているかを銘柄ごとに数える。同じ水準や切り下げが入れば1日目に戻る
  • 安値の切り下げ:その日の安値 < 前日の安値。こちらも連続日数で数える(比較用)
  • リターン:その日の終値で買ったとして、翌日寄付き・翌日終値・5営業日後・20営業日後
  • 比較対象:同じ期間・同じ条件の全銘柄全日の平均(12,435,838件)

安値が切り上がる日は全体の49.2%、切り下がる日は43.2%でした。

2.安値の切り上げは、続くほど成績が落ちた

安値が切り上がり続けた銘柄のその後

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

区分件数翌日寄付き翌日終値5営業日後勝率20営業日後勝率
1日(切り上げ全体の48.3%)2,954,732+0.092%+0.069%+0.290%50.1%+1.025%51.6%
2日(切り上げ全体の24.7%)1,510,656+0.125%+0.110%+0.268%49.9%+0.940%51.2%
3日(切り上げ全体の12.9%)787,152+0.125%+0.075%+0.219%49.2%+0.844%50.6%
4日(切り上げ全体の6.7%)409,785+0.140%+0.071%+0.202%49.1%+0.780%50.0%
5日(切り上げ全体の3.5%)215,934+0.142%+0.076%+0.173%49.0%+0.747%49.7%
6〜7日(切り上げ全体の2.9%)174,994+0.149%+0.051%+0.081%48.3%+0.515%48.7%
8日以上(切り上げ全体の1.1%)69,170+0.111%-0.007%+0.013%47.8%+0.428%48.2%
切り上げすべて6,122,423+0.111%+0.079%+0.257%49.7%+0.933%51.1%
全体平均(比較用)12,435,838+0.082%+0.050%+0.245%49.9%+0.938%51.2%

まず、安値が切り上がった日をすべてまとめると、20営業日後は+0.933%・勝率51.1%。全体平均の+0.938%・勝率51.2%と、ほとんど違いがありません。安値が切り上がったという事実だけでは、その後の優位性は見えないということです。

差が出るのは、連続日数で分けたときです。20営業日後は、1日+1.025%、3日+0.844%、5日+0.747%、8日以上+0.428%。一度も逆転せず、1日ずつ着実に下がっていきます。

全体平均との差は、3日で0.094ポイント、8日以上では0.510ポイントの下回りです。勝率も1日の51.6%から8日以上の48.2%へ低下し、全体平均の51.2%を割り込みます。

1つだけ例外があります。翌日の寄付きまでは、むしろ有利でした。4日の翌日寄付きは+0.140%・勝率48.0%で、全体平均の+0.082%・勝率44.8%を上回ります。

ところが、その有利さは寄り付きで終わります。翌日終値は4日で+0.071%、8日以上では-0.007%と、全体平均の+0.050%に並ぶか下回ります。寄り付きで高く始まっても、その後の上乗せは続かない。切り上げが長く続いた銘柄ほど、翌朝の期待を引き受けたあとで息切れしている、と読める結果です。

3.高値も切り上がる「階段型」は、むしろ弱かった

安値の切り上げには、高値も毎日切り上がる「階段型」と、高値が頭打ちになる日がある形(持ち合いに近い形)があります。安値が4日以上切り上がった銘柄(869,883件)を、この2つに分けました。

区分件数翌日寄付き翌日終値5営業日後勝率20営業日後勝率
階段型(高値も毎日切り上がる)(26.9%)233,951+0.153%+0.061%+0.110%48.6%+0.463%49.1%
それ以外(高値が途切れる日がある)(73.1%)635,932+0.135%+0.063%+0.172%48.9%+0.774%49.7%
4日以上の切り上げすべて869,883+0.140%+0.062%+0.155%48.8%+0.691%49.5%
全体平均(比較用)12,435,838+0.082%+0.050%+0.245%49.9%+0.938%51.2%

階段型は233,951件で、4日以上の切り上げの26.9%を占めます。20営業日後は+0.463%。そうでない場合の+0.774%を下回り、5営業日後でも+0.110%対+0.172%と同じ向きでした。

一方、翌日寄付きだけは階段型が+0.153%・勝率49.4%と、+0.135%・勝率47.8%を上回っています。

つまり、高値も安値も切り上がるきれいな上昇ほど、翌朝は買われるが、1か月後は伸びていない。理由はデータから断定できません。

4.鏡の関係にある「安値の切り下げ」は逆だった

安値が切り下がり続けた銘柄のその後

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

区分件数翌日寄付き翌日終値5営業日後勝率20営業日後勝率
1日(切り下げ全体の54.2%)2,913,565+0.050%+0.010%+0.194%50.0%+0.895%51.3%
2日(切り下げ全体の24.6%)1,322,023+0.034%-0.011%+0.177%50.3%+0.918%51.5%
3日(切り下げ全体の11.4%)611,186+0.043%+0.011%+0.238%50.9%+1.001%51.8%
4日(切り下げ全体の5.3%)282,586+0.047%+0.060%+0.500%52.5%+1.207%53.0%
5日(切り下げ全体の2.5%)132,022+0.063%+0.087%+0.510%53.1%+1.161%53.4%
6〜7日(切り下げ全体の1.7%)89,955+0.068%+0.114%+0.772%55.1%+1.443%54.5%
8日以上(切り下げ全体の0.4%)23,390+0.261%+0.399%+0.847%55.4%+1.437%53.4%
切り下げすべて5,374,727+0.046%+0.013%+0.231%50.5%+0.947%51.6%
全体平均(比較用)12,435,838+0.082%+0.050%+0.245%49.9%+0.938%51.2%

同じ集計を、安値が切り下がり続けた銘柄に対して行いました。切り下げ全体では20営業日後が+0.947%で、全体平均の+0.938%と差はありません。切り上げ側と同じく、連続日数で分けたときに差が出ます。

20営業日後は3日までは最大でも+1.001と全体平均の近くにとどまり、4日で+1.207%・勝率53.0%と跳ね上がります。5営業日後の+0.500%も、3日の+0.238%から倍増しました。

さらに続いた6〜7日は20営業日後+1.443%、8日以上は+1.437%・勝率53.4%と、さらに上がります。

切り上げ側の8日以上と切り下げ側の8日以上を比べると、5営業日後で0.834ポイント、20営業日後で1.009ポイントの開きがあります。「強そうな形」より「弱そうな形」のほうが、その後の戻りは大きかったのです。

ただし、切り下げが8日以上も続く銘柄は全体の0.4%、23,390件しかなく、相場全体が崩れた局面で一斉に発生しやすい形です。次章でその偏りを確かめます。

5.この結果は特定の日に偏っていないか

件数が多くても、相場全体が急変した数日に発生が偏っていれば安心できません。発生日の集中度を確かめました。

発生が多かった上位3日を除いた20営業日後

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

安値が4日以上切り上がった869,883件は、3,104営業日に広く分散しています。発生が多かった上位3日は2024年8月16日(1,767件)、2015年7月15日(1,722件)、2015年8月31日(1,566件)ですが、合わせても全体の0.6%です。集中は見られません。

その3日を除いて集計し直すと、20営業日後は+0.691%から+0.706%。5日以上でも+0.611%が+0.614%と、ほぼ動きません。切り上げ側の「続くと細る」という結果は、特定の日に左右されたものではありません。

切り下げ側はやや事情が違います。5日以上切り下がった銘柄の上位3日は2018年12月25日(2,078件)、2015年8月25日(1,854件)、2018年12月21日(1,548件)で、全体の2.2%。相場全体が崩れた日が並んでいます。その3日を除くと、20営業日後は+1.291%から+1.100%、5営業日後は+0.638%から+0.513%へ下がりました。全体平均の+0.938%は上回りますが、急落局面の戻りに押し上げられた分があることは割り引く必要があります。

年別に、4日以上の切り上げを同じ年の全体平均と比べます。

年切り上げ4日以上の20営業日後同年の全体平均比較
2014年+0.965%+1.240%下回る
2015年+0.731%+0.486%上回る
2016年+1.379%+1.555%下回る
2017年+2.919%+2.777%上回る
2018年-2.914%-1.619%下回る
2019年+0.970%+1.372%下回る
2020年+1.330%+0.710%上回る
2021年-0.114%+0.135%下回る
2022年-0.444%+0.433%下回る
2023年+1.051%+1.537%下回る
2024年+0.043%+0.487%下回る
2025年+1.842%+2.226%下回る
2026年+0.716%+0.821%下回る

20営業日後が同年の全体平均を下回ったのは、13年のうち10年です。切り下げ5日以上のほうは、13年のうち9年で全体平均を上回りました。

2017年のように上回った年もあり、2018年のように全体より大きく崩れた年もあります。差の大きさは年によってまちまちです。なお2026年は9月中旬までのデータです。

6.この検証の限界

結果を使う前に、次の点をご承知おきください。

  • 差はそれほど大きくありません。最も差が開いた8日以上でも、全体平均との差は0.510ポイント(20営業日後)です。売買コストを含まず、観測も重なっているため、実際の売買で優位になるとは限りません
  • 全体平均は日付をそろえていません。相場全体が強い日に発生が偏れば、その分は成績に混ざります。上位3日を除いた確認はそのための補助です
  • 上場廃止の扱い。データが途切れた銘柄のその後は追えていません。下げ続けて上場廃止に至った銘柄が抜けている分、切り下げ側は実際より良い数字になっている可能性があります

7.よくある質問(FAQ)

Q. 安値の切り上げとは何ですか?

A. その日の安値が前日の安値より高いことです。本記事では、これが何日連続しているかを銘柄ごとに数えました。

Q. 安値が切り上がっている銘柄は買いですか?

A. 切り上がった日すべてをまとめると、20営業日後は+0.933%で、全体平均の+0.938%とほぼ同じでした。差が出るのは連続日数で分けたときで、続くほど成績は細っていきます。

Q. 何日続くと成績が落ちますか?

A. 20営業日後で見ると、3日連続で+0.844%と全体平均+0.938%を下回り始め、8日以上では+0.428%まで下がります。1日ずつ着実に低下していく形でした。

Q. 翌日の寄り付きまでなら有利ですか?

A. はい、その傾向はありました。4日連続の翌日寄付きは+0.140%で、全体平均の+0.082%を上回っています。ただし翌日終値では+0.071%と全体平均の+0.050%とほぼ並び、寄り付き後に上乗せが続いたわけではありません。

Q. 安値が切り下がり続けた銘柄は買い場ですか?

A. 買い場と断定はできませんが、成績は良好でした。8日以上連続の5営業日後は+0.847%、20営業日後は+1.437%・勝率53.4%と、全体平均を大きく上回りました。ただし相場全体が崩れた局面に偏りやすい点にご注意ください。

Q. 高値も切り上がる「階段型」のほうが強いのですか?

A. 逆でした。4日以上の安値切り上げのうち、高値も毎日切り上がっていた階段型の20営業日後は+0.463%で、そうでない場合の+0.774%を下回りました。

Q. 結果は特定の時期に偏っていませんか?

A. 確認しました。発生が最も多かった上位3日を合わせても全体の0.6%です。その3日を除くと20営業日後は+0.691%から+0.706%と、ほとんど変わりませんでした。

8.まとめ

12,435,838件を数え直してわかったことを整理します。

  • 安値が切り上がっただけでは優位性はありません。20営業日後は+0.933%で、全体平均+0.938%と同水準です
  • 続くほど成績は細りました。20営業日後は1日+1.025%から8日以上+0.428%へ一貫して低下します
  • 有利なのは翌日の寄り付きまで。4日の翌日寄付きは+0.140%でしたが、翌日終値は平均並みです
  • 高値も切り上がる階段型は、むしろ弱くなりました。20営業日後は+0.463%で、そうでない場合の+0.774%を下回ります
  • 安値の切り下げは逆の形。8日以上の20営業日後は+1.437%。ただし急落局面に偏るため、上位3日を除くと数字は下がります
  • 切り上げ側の結果は、特定の日には偏っていません。上位3日を除いても+0.706%と変わらず、13年のうち10年で全体平均を下回りました

「安値が切り上がっているから強い」という見方は、チャートを眺めているぶんには説得力があります。ただ今回の数字が示したのは、その形が何日も続いた時点では、買い手の勢いがすでに株価に出ているということでした。形が整って見えるほど、その形は多くの人にも見えています。チャートのきれいさに気づいたときは、一度立ち止まってみてください。

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<追伸>
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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