「夏枯れ相場」。7〜8月は出来高が減って、株価も動かなくなる――相場に長く関わっている方なら、一度は耳にした感覚ではないでしょうか。
この「夏は静か」という経験則が正しいのかを、実際のデータで確かめました。2014年1月〜2025年12月の12年分、2,932営業日・のべ11,693,156銘柄日の日足から、8月の出来高・値動き・お盆週の特徴を他の月と比べています。
結論を先に述べます。出来高は確かに少なめですが、値動きは少なくありませんでした。出来高の比(その年の1日平均=1.0)は、8月が0.961で12か月のうち下から3番目。他の11か月の平均より4.36%低い水準です。ところが相場全体の日々の振れは8月が1.316%と12か月で最も大きく、他の11か月の平均0.950%を38.58%上回りました。
ただしこの振れの大きさは、2024年8月5日などごく少数の日に集中しています。8月の全営業日のうち3日(1.2%)が、振れの二乗和の53.9%を占めるためです。夏枯れの実態は、「お盆明けの8月後半が薄い」と整理するのが最も近い、というのが今回の答えです。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:日足(株式分割の影響を除いた調整後の終値と、調整前の終値・出来高)。期間は2014年1月〜2025年12月の12年間で、2,932営業日、1日あたり平均3,988銘柄。2026年は年の途中なので除きました
- 出来高:全銘柄の「調整前終値×出来高」を合計した値(売買代金に近い値)。月の1日平均を、同じ年の1日平均で割った比で表し、1.0が年平均です
- 値動き(2種類):①平均的な銘柄の1日の動き=全銘柄の前日比の絶対値の平均(±50%で打ち切り)、②相場全体の日々の振れ=全銘柄の平均騰落率(その日の平均)の標準偏差
- お盆週:8月15日を含む週(月〜金)。8月のうち、それより前の営業日を「お盆前」、後を「お盆明け」と呼びます。15日が土日の年は、その前の平日の週です
- 騰落率:月末(週末)の終値どうしの比較。銘柄ごとに最終営業日の終値を使い、期間の終わり近くまで値が付いていなかった銘柄(上場廃止など)は観測から外しました。全銘柄を同じ重みで平均しています
日経平均やTOPIXではなく、全銘柄を平等に並べた平均です。小型株の影響が大きく出る点にご注意ください。
2.出来高:8月は少ない月の3番目
まず出来高です。月ごとの出来高の比を、12年分でならしました。
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
8月は0.961で、12か月のうち下から3番目です。最も低いのは4月の0.946、次いで7月の0.950で、8月はそれに続きます。反対に高いのは11月の1.122、2月の1.074です。
8月は他の11か月の平均(1.005)より4.36%低いにとどまり、「ぱったり商いが消える」というほどの差ではありません。
3.値動き:出来高が細っても、値動きは細らない
次に値動きです。出来高が減る月は、値動きも小さいとは限りません。ここでは2種類の物差しを使います。
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
| 月 | 平均的な銘柄の1日の動き | 相場全体の日々の振れ | 月間の平均騰落率 | 出来高の比(年平均=1.0) |
|---|---|---|---|---|
| 1月 | 1.548% | 0.981% | +0.948% | 1.000 |
| 2月 | 1.724% | 1.284% | -0.428% | 1.074 |
| 3月 | 1.698% | 1.283% | +0.756% | 1.047 |
| 4月 | 1.590% | 1.170% | +0.358% | 0.946 |
| 5月 | 1.520% | 0.712% | +1.886% | 1.024 |
| 6月 | 1.416% | 0.877% | +1.793% | 0.972 |
| 7月 | 1.388% | 0.761% | +1.162% | 0.950 |
| 8月 | 1.604% | 1.316% | +0.615% | 0.961 |
| 9月 | 1.435% | 0.826% | +1.093% | 0.974 |
| 10月 | 1.453% | 0.913% | +0.199% | 0.964 |
| 11月 | 1.481% | 0.713% | +2.456% | 1.122 |
| 12月 | 1.429% | 0.926% | -0.186% | 0.980 |
平均的な銘柄の1日の動き(前日比の絶対値の平均)は、8月が1.604%でした。他の11か月の平均1.517%を5.77%上回り、12か月のうち大きいほうから数えて3番目です。最も低いのは7月の1.388%で、7月と8月で水準が大きく違う点が目を引きます。
相場全体の日々の振れはさらに目立ちます。8月は1.316%で、12か月のうち最も大きい月でした。他の11か月の平均0.950%を38.58%上回っています。2月(1.284%)や3月(1.283%)より大きい点は意外です。
つまり、出来高が少なめの8月に、相場全体は大きく振れていたことになります。この振れの大きさがどこから来ているのかは、第6章で確かめます。
4.お盆週の実態:薄いのはお盆明け
夏枯れといえばお盆です。8月15日を含む週を「お盆週」として、その前後と比べました。
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
| 年 | お盆週 | お盆週の出来高比 | お盆前 | お盆明け | 年間で少ない順 | お盆週の騰落率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2014年 | 8/11〜8/15 | 0.755 | 0.985 | 0.820 | 2番目/50週 | +2.892% |
| 2015年 | 8/10〜8/14 | 1.085 | 1.136 | 1.213 | 39番目/49週 | -0.889% |
| 2016年 | 8/15〜8/19 | 0.752 | 0.920 | 0.716 | 3番目/50週 | -1.643% |
| 2017年 | 8/14〜8/18 | 0.897 | 0.979 | 0.799 | 6番目/50週 | -0.025% |
| 2018年 | 8/13〜8/17 | 0.892 | 1.005 | 0.779 | 10番目/50週 | -2.088% |
| 2019年 | 8/13〜8/16 | 0.883 | 1.093 | 0.787 | 8番目/50週 | -1.502% |
| 2020年 | 8/11〜8/14 | 1.071 | 0.930 | 0.797 | 36番目/48週 | +3.345% |
| 2021年 | 8/10〜8/13 | 0.867 | 0.812 | 0.804 | 13番目/49週 | +1.269% |
| 2022年 | 8/15〜8/19 | 0.885 | 1.012 | 0.857 | 11番目/50週 | +1.220% |
| 2023年 | 8/14〜8/18 | 1.010 | 1.246 | 0.896 | 23番目/50週 | -2.447% |
| 2024年 | 8/13〜8/16 | 1.015 | 1.516 | 0.827 | 29番目/50週 | +5.629% |
| 2025年 | 8/12〜8/15 | 1.456 | 1.355 | 1.192 | 49番目/50週 | +1.014% |
お盆週の出来高の比は、12年平均で0.964でした。全週の平均(1.003)を3.89%下回るにとどまります。年間の週のうち少ないほうから数えた順位は、平均19.08番目で、10番目以内に入ったのは12年中5年、最も少ない週になった年はありませんでした。
お盆週の値動きも小さくなく、平均的な銘柄の1日の動き1.607%は、全週の平均(1.524%)を5.45%上回ります。
薄いのは、お盆週ではなくお盆明け(8月後半)でした。お盆前の出来高の比が1.082、お盆週が0.964、お盆明けが0.874と、後ろに行くほど細っていきます。お盆明けの出来高は全週の平均より12.86%低く、1.0を下回った年は12年中10年。お盆週のほうがお盆明けより多かった年は、12年中10年でした。
値動きの面でも同じです。お盆明けの1日の動きは1.431%で、全週の平均を6.10%下回りました。その年の年間平均を下回った年は12年中10年です。一方、お盆前は1.826%と全週の平均を19.82%上回り、お盆前のほうがお盆明けより大きく動いた年は12年中10年でした。
なお、お盆前の値動きの大きさには2024年の寄与が大きく、その年を除いても1.539%と、お盆明けの1.431%を上回ります。
お盆週そのものの騰落率は、12年平均で+0.565%(全週の平均は+0.206%)でした。上昇した年は12年中6年、全銘柄のうち上昇した銘柄の割合は平均49.7%です。ただしこの平均は特定の年に偏っているため、第6章で改めて確認します。
5.8月の騰落率:年ごとに大きく入れ替わる
株価の水準も見ておきます。各年の8月について、全銘柄の月間リターンを平均しました。
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
| 年 | 平均騰落率 | 中央値 | 上昇した銘柄の割合 | 8月の出来高比 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年8月 | +2.107% | +0.000% | 49.4% | 0.852 |
| 2015年8月 | -6.996% | -7.176% | 15.2% | 1.164 |
| 2016年8月 | -0.554% | -1.261% | 39.5% | 0.808 |
| 2017年8月 | +1.761% | +0.034% | 50.0% | 0.887 |
| 2018年8月 | -0.733% | -1.754% | 36.3% | 0.882 |
| 2019年8月 | -4.842% | -4.723% | 22.2% | 0.907 |
| 2020年8月 | +8.988% | +6.615% | 81.4% | 0.885 |
| 2021年8月 | +1.594% | +0.463% | 53.6% | 0.818 |
| 2022年8月 | +2.292% | +0.611% | 55.1% | 0.927 |
| 2023年8月 | +1.058% | +0.044% | 50.1% | 1.049 |
| 2024年8月 | -2.644% | -3.450% | 28.0% | 1.093 |
| 2025年8月 | +5.345% | +3.058% | 70.7% | 1.294 |
12年平均の8月は+0.615%で、他の11か月の平均(+0.912%)より0.297ポイント低くなりました。12か月のうち低いほうから数えて5番目で、最も弱いのは2月の-0.428%です。
年別に見ると、プラスの年は7年、マイナスの年は5年。最も高かったのは2020年の+8.988%、最も低かったのは2015年の-6.996%で、年による振れの大きさが目立ちます。
6.頑健性チェックと検証の限界
ここまでの結果が、一部の日や年に集中していないかを確かめます。
まず日単位です。8月の全256営業日のうち、全銘柄の平均騰落率の絶対値が大きかった上位3日は、2024年8月5日(-11.991%)、2024年8月6日(+6.928%)、2015年8月24日(-6.820%)です。この3日は全営業日の1.2%にすぎませんが、8月の振れの二乗和の53.9%を占めていました。発生が極端に集中しているということです。
そこで、各月ごとに上位3日を除いて再集計しました(どの月も同じ条件です)。
| 指標 | 8月(そのまま) | 8月(上位3日を除く) | 他の11か月の平均(そのまま) | 他の11か月の平均(上位3日を除く) |
|---|---|---|---|---|
| 出来高の比 | 0.961 | 0.952 | 1.005 | 1.000 |
| 平均的な銘柄の1日の動き | 1.604% | 1.517% | 1.517% | 1.479% |
| 相場全体の日々の振れ | 1.316% | 0.895% | 0.950% | 0.821% |
8月の相場全体の振れは、上位3日を除くと0.895%に下がり、順位は最大から4番目になります。他の11か月の平均(0.821%)との差は8.95%と、38.58%から大きく縮みました。平均的な銘柄の1日の動きも、差は5.77%から2.58%に縮み、順位は大きいほうから4番目です。一方、出来高の少なさはほとんど変わらず、他の11か月の平均を4.83%下回り、順位も下から3番目のままでした。
つまり、「8月は出来高が少なめ」は頑健ですが、「8月は値動きが大きい」は少数の急落日に支えられた結果です。それでも、除いた後も他の月の平均を上回っている点は変わりません。
次に年単位です。8月の騰落率は、絶対値が大きかった上位3年(2020年・2015年・2025年)が12年分の絶対値の合計の54.8%を占めていました。この3年を除いた9年の平均は+0.004%で、12年全体の+0.615%からほぼゼロに下がります。
お盆週の騰落率でも同じことが起きます。上位3年(2024年・2020年・2014年)を除くと、12年平均の+0.565%は-0.566%に変わり、プラスの年は3年(9年中)になります。
この結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 独立した観測は12年分です。銘柄は同じ日に同じ相場環境で動くため、11,693,156銘柄日という件数ほどの証拠にはなりません
- 出来高は近似値です。調整前終値×出来高の合計で、実際の売買代金とは一致しない場合があります
- 上場廃止の扱い。期間の終わり近くまで値が付かなかった銘柄は騰落率の観測から外しており、成績が実際より良く出る可能性があります
- 売買コスト・税金を含みません。理由の断定もできません
7.よくある質問(FAQ)
Q. 夏枯れ相場とは、どういう相場のことですか?
A. 夏場(主に7〜8月)に出来高が細り、株価の動きも乏しくなる相場を指す言葉です。今回の検証では、出来高は8月が12か月のうち下から3番目で言葉のとおりでしたが、値動きは逆の結果でした。
Q. 8月は本当に出来高が少ないのですか?
A. 少ない傾向はありますが、差は小さめです。出来高の比(その年の1日平均=1.0)は8月が0.961で、他の11か月の平均1.005より4.36%低い水準でした。最も低いのは4月の0.946で、8月より低くなっています。
Q. 8月は値動きが小さいのですか?
A. 今回のデータでは、小さくありませんでした。相場全体の日々の振れは8月が1.316%で12か月のうち最も大きく、他の11か月の平均0.950%を上回ります。ただし53.9%はわずか3日が占めており、その3日を除くと0.895%まで下がり、大きいほうから数えて4番目になります。
Q. お盆の週は、1年で一番薄い週なのですか?
A. そうとは言えません。お盆週の出来高の比は12年平均で0.964と全週の平均1.003をやや下回る程度で、最も少ない週になった年はありませんでした。薄いのは8月後半(お盆明け)で、出来高の比は0.874です。
Q. 8月は株価が下がりやすい月ですか?
A. 12年の平均では+0.615%と、他の11か月の平均+0.912%より低いものの、プラスの年が7年、マイナスの年が5年で、下がりやすいと言い切れる結果ではありません。騰落率の絶対値が大きい上位3年(2020年・2015年・2025年)を除くと+0.004%とほぼゼロになります。
Q. 夏枯れ相場なら、取引を控えたほうがよいのですか?
A. データだけで取引を控えるべきかは決められません。出来高が少ない時期は、少ない注文でも株価が動きやすく、今回も2024年8月5日のように相場全体が-11.991%動いた日がありました。夏だから静かだと決めつけず、損失を限定する準備を優先してください。
Q. この検証には、どんな限界がありますか?
A. 独立した観測は12年分しかなく、銘柄日が11,693,156件と多くても、同じ日の銘柄は同じ相場環境で動きます。売買コストや税金は含まず、出来高は売買代金の近似値です。原因までは断定できません。
8.まとめ
11,693,156銘柄日・12年分を使って、夏枯れ相場を数え直した結果を整理します。
- 出来高は少なめだが、差は小さい:8月の出来高の比は0.961で12か月のうち下から3番目。他の11か月の平均より4.36%低い程度で、4月のほうが低い
- 値動きは少なくない:相場全体の日々の振れは8月が1.316%で12か月のうち最大。ただし上位3日が振れの二乗和の53.9%を占め、除くと大きいほうから4番目に下がる
- 薄いのはお盆明け:出来高の比はお盆前1.082、お盆週0.964、お盆明け0.874。お盆週そのものは最も薄い週ではない
- 騰落率は年ごとに入れ替わる:8月の平均+0.615%(プラス7年・マイナス5年)。上位3年を除くと+0.004%
- お盆週の上昇も年に偏る:上位3年を除くと平均は-0.566%に変わる
「夏は出来高が細る」という経験則は、方向としては当たっていました。しかし「夏は値動きも小さい」とは言えず、8月には2024年8月5日のように相場全体が一気に動く日が含まれます。静かな時期だと思い込んで、損失を限定する準備を怠らないことが大切です。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
↓↓↓↓↓
毎朝届く投資情報メルマガ「西村剛の勝ち株の流儀」(無料)はこちらから登録できます。
すでに22,000名が登録中。今なら10大特典を無料プレゼント中!





