投資信託を保有していた家族が亡くなったとき、多くの人が最初に迷うのが「この投資信託はどうなるのか」という点です。預金のように残高が一目で分かるものと違い、日々値動きする投資信託は、評価のタイミングや金額の考え方が分かりにくいと感じる人が少なくありません。
結論から言うと、投資信託も預金や不動産と同じく相続財産に含まれ、相続開始日を基準にした評価と、証券会社での名義変更手続きが必要になります。手続きを終えるまでは口座が凍結されたままとなり、相続人が自由に売却したり引き出したりすることはできません。
この記事では、投資信託が相続財産に含まれる基本的な考え方から、相続税評価額の計算方法、証券会社での名義変更の流れ、相続後に売却した場合の税金、相続税申告が必要になる目安、トラブルになりやすいケースと事前の対策までを整理して解説します。
1.投資信託は相続財産に含まれるという基本
投資信託は、現金や預金、不動産、株式などと同様に、亡くなった人(被相続人)が保有していた財産として相続財産に含まれます。証券会社や投資信託を取り扱う銀行の口座で保有している投資信託は、名義人が亡くなった時点の残高がそのまま遺産の一部になります。
1-1.相続開始と同時に口座は凍結される
金融機関は、名義人の死亡を確認すると、その証券口座を凍結します。凍結後は、相続人であっても遺産分割協議が整い、所定の手続きを終えるまでは、投資信託を売却したり分配金を引き出したりすることが原則としてできなくなります。「値下がりしそうだからすぐ売りたい」と思っても、手続きが完了するまでは動かせない点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
1-2.遺産分割協議の対象になる
投資信託は、預金のように単純に金額で分けられる財産ではなく、口数という単位で保有されています。相続人が複数いる場合は、誰がどの投資信託をどれだけ引き継ぐのか、あるいは売却して現金化してから分けるのかを、遺産分割協議で決める必要があります。投資信託の基準価額は日々変動するため、協議が長引くほど、最終的に受け取る金額が当初の想定と変わってしまう可能性がある点にも注意してください。
2.相続税評価額の考え方
投資信託の相続税評価額は、原則として相続開始日(被相続人が亡くなった日)の基準価額を基準に計算します。株価のように取引時間中に価格が変わり続けるものではなく、投資信託の基準価額は1日1回算出されるため、評価の基準となる日を特定しやすいという特徴があります。
2-1.一般的な公募投資信託の評価方法
上場していない一般的な証券投資信託(多くの株式投資信託や公社債投資信託)は、相続開始日の基準価額に保有口数を乗じた金額から、その日に解約請求をしたと仮定した場合の源泉徴収税額に相当する金額、および信託財産留保額や解約手数料に相当する金額を差し引いて評価するのが一般的な考え方です。相続開始日が土日祝日などで基準価額が算出されない日にあたる場合は、直前の営業日の基準価額を用いるのが基本的な扱いです。
2-2.上場投資信託(ETF)の評価方法
取引所に上場しているETF(上場投資信託)は、非上場の投資信託とは異なり、上場株式に準じた評価方法が使われます。具体的には、相続開始日の終値と、相続開始日が属する月・前月・前々月それぞれの終値の月平均額のうち、最も低い価額を評価額とする考え方が一般的です。同じ「投資信託」でも、上場・非上場で評価の仕組みが異なる点は見落としやすいポイントです。
| 評価区分 | 評価の基準となる考え方 |
|---|---|
| 一般的な公募投資信託(非上場) | 相続開始日の基準価額×口数から、源泉徴収税額相当額や信託財産留保額等を控除 |
| 上場投資信託(ETF) | 相続開始日の終値と、開始日が属する月・前月・前々月の月平均終値のうち最も低い価額 |
2-3.評価額の計算は自分で抱え込まない
基準価額そのものは証券会社の取引報告書や残高証明書で確認できますが、源泉徴収税額相当額の控除やETFの月平均終値の比較など、実際の計算は専門的な知識が必要になる場面が多くあります。証券会社に「相続税評価用の残高証明書」の発行を依頼すると、評価に必要な情報がまとまって取得できることもあります。
3.相続の際の名義変更手続きの流れ
投資信託の名義変更(移管)手続きは、預金の相続手続きと似た部分もありますが、相続人自身がその証券会社に口座を持っていない場合は、新規に口座を開設する必要がある点が特徴的です。
3-1.証券会社への死亡の連絡
まず、被相続人が投資信託を保有していた証券会社(または投資信託を扱う銀行等)に死亡の事実を連絡します。この時点で口座が凍結され、以降の取引ができなくなります。取引残高報告書や口座開設時の書類などから、被相続人がどの金融機関に口座を持っていたかを確認しておきましょう。
3-2.必要書類の準備
名義変更に必要な書類は金融機関によって多少異なりますが、一般的には次のような書類が求められます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本を含む)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(または遺言書、法定相続情報一覧図)
- 投資信託を引き継ぐ相続人名義の証券口座(未開設の場合は新規開設)
法務局で「法定相続情報一覧図」を取得しておくと、複数の金融機関に戸籍謄本一式を何度も提出する手間を省ける場合があります。
3-3.移管完了までの流れ
必要書類を提出すると、証券会社側で内容を確認したうえで、相続人名義の口座へ投資信託が移管されます。移管が完了すれば、相続人は保有を続けるか、売却して現金化するかを自由に選べるようになります。
| ステップ | 内容 | 必要書類の例 |
|---|---|---|
| 1.死亡の連絡 | 証券会社・取扱銀行へ連絡し口座を凍結 | 死亡の事実が分かる書類 |
| 2.残高の確認 | 相続税評価用の残高証明書を取得 | 残高証明書発行依頼書 |
| 3.遺産分割協議 | 相続人間で投資信託の引継ぎ方法を協議 | 戸籍謄本一式・印鑑証明書 |
| 4.必要書類の提出 | 遺産分割協議書等を証券会社に提出 | 遺産分割協議書・法定相続情報一覧図 |
| 5.名義変更(移管) | 相続人名義の口座へ投資信託を移管 | 相続人名義の証券口座 |
4.相続後に売却した場合の税金
相続した投資信託を将来売却した場合、譲渡所得として税金がかかることがあります。ここで重要なのが取得費の考え方です。
4-1.取得費は被相続人の取得費をそのまま引き継ぐ
日本の税制では、相続によって取得した投資信託を売却する際の取得費は、相続税評価額ではなく、被相続人が当初購入したときの取得費・取得時期をそのまま引き継ぐのが原則です。つまり、亡くなった方が以前に低い基準価額で購入していた投資信託を相続し、その後値上がりしてから売却した場合、含み益部分には譲渡所得税がかかる可能性があります。相続時に評価額に応じた相続税を支払ったとしても、取得費がその評価額まで引き上がるわけではない点に注意してください。
4-2.譲渡所得の基本的な計算式
投資信託を売却したときの譲渡所得は、次の式で計算するのが基本です。
譲渡所得 = 売却代金 -(引き継いだ取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得に対しては、通常の投資信託の売却と同様、所得税・住民税・復興特別所得税をあわせておおむね20.315%の税率が適用されます。被相続人がいつ・いくらで購入したかを示す取引報告書や取得価額の記録が見当たらない場合、取得費の特定が難しくなることがあるため、証券会社に過去の取引履歴を照会しておくとよいでしょう。
4-3.取得費加算の特例という考え方もある
相続税を実際に納めた人が、一定の期間内に相続した投資信託等を売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例が設けられています。この特例を使うと譲渡所得が圧縮され、結果的に税負担が軽くなることがあります。ただし、適用には申告期限に応じた期間内の売却であることなどの要件があり、誰でも自動的に適用されるわけではありません。対象になるかどうかは、税理士等の専門家に確認することをおすすめします。
5.相続税の申告が必要になる目安
投資信託を相続したからといって、必ず相続税の申告・納税が必要になるわけではありません。相続税には基礎控除という非課税の枠があり、遺産総額がこの範囲に収まっていれば、原則として申告は不要です。
5-1.基礎控除額の計算式
相続税の基礎控除額は、次の式で計算するのが一般的な仕組みです。
基礎控除額 = 3000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は3000万円+600万円×3人=4800万円になります。投資信託の評価額に加え、預金・不動産・生命保険(非課税枠を超えた部分)などすべての財産を合計した遺産総額が、この基礎控除額を超えるかどうかが、申告要否のおおまかな判断基準です。
5-2.申告と納税の期限
相続税の申告・納税期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。投資信託を含む財産の評価や、相続人間の遺産分割協議に時間がかかると、期限が意外と早く迫ってくることがあります。期限を過ぎると延滞税がかかるほか、配偶者の税額軽減など一部の特例が使えなくなる場合もあるため、早めに動き出すことが大切です。
5-3.基礎控除以下でも確認しておきたいこと
遺産総額が基礎控除以下であれば申告は不要なケースが多いものの、生命保険金や死亡退職金には別枠の非課税限度額があるなど、財産の種類によって計算方法が異なります。投資信託の評価額だけを見て申告要否を判断するのではなく、財産全体を整理したうえで、具体的な評価額の計算や申告要否の判断は税理士等の専門家に相談することをおすすめします。相続税評価額や申告要否は個別の家族構成・財産状況によって大きく変わるためです。
6.相続でトラブルになりやすいケースと事前にできる対策
投資信託の相続では、預金や不動産とは異なる特有のトラブルが起きることがあります。事前に典型的なパターンを知っておくと、対策も立てやすくなります。
6-1.投資信託の存在に相続人が気づかないケース
近年は取引報告書や運用報告書を電子交付(オンライン通知)にしている証券口座が増えており、被相続人と同居していなかった相続人は、投資信託の存在自体に気づきにくくなっています。存在に気づかないまま遺産分割協議を終えてしまうと、後から資産が見つかり、協議のやり直しが必要になることもあります。
6-2.基準価額の変動で評価をめぐって意見が割れるケース
投資信託は日々基準価額が変動するため、遺産分割協議が長引く間に評価額が変わり、相続人間で「いつの時点の金額を基準に分けるのか」をめぐって意見が食い違うことがあります。相続税の申告に使う評価額はあくまで相続開始日の基準価額で計算しますが、遺産分割協議自体でどの時点の金額を目安に分けるかは、相続人同士の話し合いで決める事項です。
6-3.複数の証券会社に口座が分散しているケース
投資信託の口座がいくつもの証券会社・銀行に分散していると、金融機関ごとに死亡の連絡や書類提出を繰り返す必要があり、手続きの負担が大きくなります。保有している金融機関の一覧を生前にまとめておくことが、相続人の負担を減らす有効な対策です。
6-4.事前にできる対策
こうしたトラブルを防ぐためには、次のような準備が有効です。
- 保有している証券口座・投資信託の一覧をエンディングノート等にまとめておく
- 証券会社名・支店・口座番号を家族の少なくとも1人に共有しておく
- 遺言書を作成し、投資信託を含む財産の分け方を明確にしておく
- 相続人が複数いる場合は、生前に大まかな分割方針を話し合っておく
特に投資信託や株式などの金融資産は、不動産と違って登記簿のような公的な記録から存在をたどることが難しい財産です。家族に情報を残しておくことが、最も基本的で効果的な対策といえます。
7.よくある質問(FAQ)
Q. 投資信託を相続したら、必ず相続税がかかりますか。
A. 必ずかかるわけではありません。遺産総額が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、原則として相続税の申告・納税は不要です。ただし投資信託だけでなく預金・不動産等すべての財産を合算して判断するため、具体的な評価額の計算や申告要否の判断は税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
Q. 相続した投資信託はそのまま保有できますか。
A. 遺産分割協議の内容に従って相続人名義の口座に移管すれば、そのまま保有を続けることも、移管後に売却することも可能です。相続の手続き自体によって自動的に解約されるわけではありません。
Q. 相続した投資信託を売却したときの取得費はどうなりますか。
A. 原則として、被相続人が当初購入したときの取得費と取得時期をそのまま引き継ぎます。相続税評価額ではなく、亡くなった方が投資信託を購入した際の価格が基準になる点に注意が必要です。
Q. 相続税の申告期限に間に合わない場合はどうなりますか。
A. 相続税の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。期限を過ぎると延滞税がかかるなど不利になる可能性があるため、投資信託を含む財産の評価に時間がかかりそうな場合は、早めに税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
8.まとめ――相続した投資信託と向き合うために
- 投資信託は預金や不動産と同じく相続財産に含まれ、相続開始日の基準価額を基準に評価される
- 相続が発生すると証券口座は凍結され、遺産分割協議と必要書類の提出を経て名義変更(移管)する必要がある
- 相続後に売却した場合の取得費は、被相続人の取得費・取得時期をそのまま引き継ぐのが原則
- 相続税の申告要否は、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を一つの目安に判断する
- 資産の存在を家族と共有しておくことが、相続トラブルを防ぐ最も基本的な対策になる
投資信託の相続は、預金のように残高が一目で分かるものではなく、評価のタイミングや取得費の引継ぎなど、独特のルールがいくつも関わってきます。基本的な仕組みを知っておくだけでも、相続が発生したときに慌てず手続きを進めやすくなります。
ただし、実際の評価額の計算や相続税の申告要否は、家族構成や財産全体の状況によって大きく変わります。投資信託を相続した、あるいは将来相続する可能性がある場合は、早めに証券会社へ問い合わせるとともに、具体的な評価額の計算や申告要否の判断は税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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