ある銘柄がストップ高になると、同じ業種の別の銘柄にも買いが入る――いわゆる「連れ高」です。値上がり率ランキングの上位に同業種が並ぶ光景を見たことのある方も多いと思います。関連銘柄を先回りして拾う、という手法もよく語られます。
この連れ高が数字として存在するのかを確かめました。2022年10月3日から2026年8月29日までの東証全銘柄、3,643,454件(4,141銘柄・956営業日)が対象です。
検証にあたって、1つ工夫をしています。そのまま集計してはいけないからです。相場全体が強い日にはストップ高が増え、同時にほとんどの銘柄が上がります。素直に数えると、連れ高を測っているつもりで市場全体の上昇を測ってしまいます。そこで「同じ日の全銘柄平均との差」を主指標にしました。
結論を先に述べます。業種単位の連れ高は、地合いを差し引くとほぼ消えました。同業種にストップ高が出た日の翌日超過リターンは-0.0052%。出なかった日の+0.0030%との差は0.01ポイント程度で、年ごとに符号すら入れ替わります。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足。ストップ高の判定は実際の売買価格(分割調整前)、リターンの計算は調整後株価
- 期間:2022/10/03〜2026/08/29(956営業日・4,141銘柄)
- ストップ高の判定:JPXの値幅制限表に照らし、終値の上昇幅が制限値幅の99.5%以上に達した日
- 業種:東証33業種。分類が不明な銘柄は集計から除外
- 対象銘柄:その日自分はストップ高していない銘柄のみ。ストップ高した銘柄自身の値動きを混ぜないため
- 区分:同じ業種でその日ストップ高になった銘柄数(0/1/2/3〜4/5銘柄以上)
- 超過リターン:その銘柄のリターン −(同じ日の全対象銘柄の平均リターン)
最後の超過リターンが、今回の検証の肝になります。
2.そのまま集計すると「連れ高はある」ように見える
まず、工夫をせずそのまま集計した結果を見てください。
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| 同業種のストップ高銘柄数 | 件数 | 翌日 | 勝率 | 翌日の超過 | 5営業日後 | 5日後の超過 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0銘柄 | 2,337,214 | +0.063% | 48.1% | +0.0030% | +0.337% | +0.0285% |
| 1銘柄 | 718,657 | +0.041% | 47.1% | -0.0052% | +0.288% | -0.0333% |
| 2銘柄 | 309,560 | +0.074% | 46.9% | -0.0116% | +0.247% | -0.0988% |
| 3〜4銘柄 | 213,026 | +0.128% | 48.1% | +0.0024% | +0.428% | -0.1050% |
| 5銘柄以上 | 64,997 | +0.083% | 45.9% | -0.0023% | +0.821% | +0.1567% |
※「超過」は同じ日の全銘柄平均を引いた値。
その日の地合いを打ち消した比較になります
左から3列目、翌日リターンの列だけを見ると、同業種に3〜4銘柄のストップ高が出た日は+0.128%、5銘柄以上なら5営業日後+0.821%。ストップ高が出なかった日の+0.337%と比べて明らかに高く見えます。
この数字だけを見れば「業種にストップ高が複数出た日は、その業種の他の銘柄も買われる」と結論づけたくなります。実際、そう説明されることも少なくありません。
3.同じ日の全銘柄平均を引くと消える
ところが、同じ日の全銘柄平均を引いた「超過」の列を見ると、景色が一変します。
- 0銘柄:翌日+0.0030%
- 1銘柄:-0.0052%
- 2銘柄:-0.0116%
- 3〜4銘柄:+0.0024%
- 5銘柄以上:-0.0023%
すべて小数第2位以下、つまり0.01ポイント前後の世界に収まってしまいました。しかも並び方に規則性がありません。ストップ高が多い業種ほど連れ高が強い、という関係は見えません。
5営業日後で見ると、5銘柄以上の区分だけ+0.1567%とわずかにプラスですが、2銘柄は-0.0988%、3〜4銘柄は-0.1050%とマイナスです。一貫した傾向とは呼べません。
先ほど「高く見えた」生の数字の正体は単純です。業種に複数のストップ高が出るような日は、そもそも相場全体が強い日だった。それだけのことでした。
4.年別に見ても符号が定まらない
念のため、年ごとにも確かめました。
※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます
| 年 | 件数 | 同業にストップ高あり | なし |
|---|---|---|---|
| 2022年 | 57,601 | +0.0257% | -0.0085% |
| 2023年 | 305,565 | -0.0160% | +0.0078% |
| 2024年 | 347,239 | -0.0003% | +0.0002% |
| 2025年 | 357,552 | -0.0115% | +0.0072% |
| 2026年 | 238,283 | +0.0029% | -0.0019% |
※いずれも翌日の超過リターン
同業種にストップ高が出た日の翌日超過リターンは、2022年+0.0257%、2023年-0.0160%、2024年-0.0003%、2025年-0.0115%、2026年+0.0029%。プラスの年とマイナスの年が入り混じり、符号すら安定していません。
本当に効果があるなら、多少の強弱はあっても符号は揃うはずです。年ごとに向きが変わるというのは、実質的にゼロの周りで揺れているだけだと考えるのが自然でしょう。
発生日の偏りも確認しました。ストップ高が出た業種・日の組み合わせのうち、最も多かった上位3日を除いても、翌日超過は-0.0053%から-0.0056%とほとんど変わりません。特定の日に引きずられた結果ではなく、最初から差がなかったということです。
5.業種別に見るとどうか
33業種それぞれでも集計しました。翌日の超過リターンが高かったのは銀行業(+0.5806%)、鉄鋼(+0.1580%)、電気・ガス業(+0.1052%)。低かったのは非鉄金属(-0.0918%)、小売業(-0.0286%)でした。
数字の差だけを見れば、業種によって連れ高の起きやすさが違うようにも読めます。しかし上位に並んだ業種の件数は1,030件、1,616件と少なく、母数が小さいぶん数字が振れやすくなっています。
一方、件数の多いサービス業(364,643件)や小売業(105,727件)といった業種は、いずれも-0.0257%、-0.0286%とマイナス圏です。件数が十分にある業種ほど、効果はゼロに近づいています。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 業種という分類は粗すぎます。東証33業種の「電気機器」には半導体もスマートフォン部品も白物家電も入ります。実際の連れ高は、もっと狭いテーマ単位で起きている可能性があります
- 材料の中身は見ていません。業界全体に及ぶ材料なのか、その会社固有の材料なのかを区別していません
- ストップ高だけを起点にしています。ストップ高までは行かない急騰を起点にすれば、違う結果になる可能性があります
- 日足のデータです。連れ高が当日の場中に完結しているなら、翌日を見ても捉えられません
- 売買コストを含みません。今回の差はコスト以前の大きさですが、念のため申し添えます
7.よくある質問(FAQ)
Q. 「連れ高」とは何ですか?
A. ある銘柄が材料で急騰したとき、同じ業種や関連の深い銘柄もつられて買われる現象を指します。半導体の1社が好決算を出すと他の半導体関連も上がる、といった動きのことです。本記事では「同じ業種でストップ高が出た日、その業種の他の銘柄はどうだったか」という形で検証しました。
Q. なぜ「超過リターン」で見る必要があるのですか?
A. 相場全体が強い日は、ストップ高の数も増え、同時にほとんどの銘柄が上がります。そのまま集計すると、連れ高を測っているつもりで市場全体の上昇を測ってしまいます。同じ日の全銘柄平均を引けば、その日の地合いを打ち消したうえで比較できます。
Q. 結局、連れ高はあったのですか?
A. ほぼありませんでした。同業種にストップ高が1銘柄出た日の翌日超過リターンは-0.0052%、出なかった日は+0.0030%。差は0.01ポイント程度で、売買コストを考える以前の大きさです。
Q. 同業種に5銘柄以上のストップ高が出た日は違いましたか?
A. そのまま集計すると5営業日後+0.821%と、他の区分より高く見えます。しかし同じ日の全銘柄平均を引くと+0.1567%まで縮みます。「業種にテーマが点火した日は上がる」のではなく「相場全体が強い日だった」というのが実態に近い読み方です。
Q. 年によって結果は違いましたか?
A. 符号すら定まりませんでした。翌日の超過リターンは2022年+0.0257%、2023年-0.0160%、2024年-0.0003%、2025年-0.0115%、2026年+0.0029%で、プラスの年とマイナスの年が入り混じっています。安定した傾向とは言えません。
Q. 業種によって違いはありましたか?
A. 数字の上では差がありました。翌日の超過リターンが最も高かったのは銀行業の+0.5806%、最も低かったのは非鉄金属の-0.0918%です。ただし上位の業種は該当件数が1,030件程度と少なく、偶然の範囲を超えているとは言い切れません。
Q. この結果は、関連銘柄を見る必要がないという意味ですか?
A. そうではありません。検証したのは「東証33業種という分類が同じ」という粗いくくりでの平均です。実際の関連性は、同じ業種コードでも銘柄ごとに大きく異なります。業種という分類だけを頼りに連れ高を狙うのは難しい、という結果だとお考えください。
8.まとめ
3,643,454件を数え直してわかったことを整理します。
- 業種単位の連れ高は、確認できませんでした。同業種にストップ高が出た日の翌日超過リターンは-0.0052%、出なかった日は+0.0030%。差は0.01ポイント程度です
- そのまま集計すると効果があるように見えます。5銘柄以上の区分は5営業日後+0.821%と高く出ますが、同じ日の全銘柄平均を引くと+0.1567%まで縮みます
- 年ごとに符号が入れ替わります。2022年+0.0257%、2023年-0.0160%、2024年-0.0003%、2025年-0.0115%、2026年+0.0029%と、プラスとマイナスが混在しています
- 件数の多い業種ほど効果はゼロに近づきます。上位に並んだ業種はいずれも該当件数が少なく、偶然の範囲と考えるのが妥当です
この検証で本当にお伝えしたいのは、連れ高の有無そのものよりも比べ方のほうです。生の数字だけを見れば「連れ高はある」と結論づけられるデータでした。それが誤りだと分かったのは、同じ日の市場全体と比べたからです。
ある条件で切り出した銘柄群の成績が良かったとき、それは条件が効いているのか、それとも単に相場が良い日を選んでいるだけなのか。この2つを分けて考える習慣が、データを読み違えないための第一歩になります。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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