一目均衡表は、日本で生まれた数少ないテクニカル指標です。なかでも「雲」は目を引きます。株価が雲を上に抜けたら買い、雲の中は方向感がなく、雲の下は弱い――そんな説明を読んだことのある方も多いはずです。
その説明どおりに株価が動いていたのかを、東証全銘柄で確かめました。2022年10月3日から2026年8月8日までの3,977,377件(4,766銘柄・942営業日)から、雲を上に抜けた日110,485件、下に抜けた日110,478件を取り出して集計しています。
結論を先に述べます。雲抜けは買いシグナルとして機能していませんでした。上抜けた日の20営業日後は+1.121%で、市場全体の+1.295%を下回ります。翌日終値までだと-0.002%・勝率44.2%と、半分を割り込みました。
一方、売りシグナルとされる雲の下抜けは+1.561%・勝率55.3%。買いシグナルより売りシグナルのほうが成績が良いという、通説とは逆の形になっています。
1.検証ルール
計算の手順をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
- 期間:2022/10/03〜2026/08/08(942営業日・4,766銘柄)
- 転換線:過去9日の高値と安値の平均
- 基準線:過去26日の高値と安値の平均
- 先行スパン1:(転換線+基準線)÷2 を26日先行させたもの
- 先行スパン2:過去52日の高値と安値の平均を26日先行させたもの
- 雲:先行スパン1と2に挟まれた帯。上限は2本の高いほう、下限は低いほう
- 雲抜け(上):前日終値が雲の上限以下で、当日終値が雲の上限を上回った日
- 雲割れ(下):前日終値が雲の下限以上で、当日終値が雲の下限を下回った日
- 比較対象:同じ期間の全銘柄全日の平均(市場全体)
2.雲抜けと雲割れの成績
まず本題から見ます。
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 雲を上抜けた日(買いシグナル) | 110,485 | +0.104% | -0.002% | 44.2% | +0.167% | 47.3% | +1.121% | 51.4% |
| 雲を下抜けた日(売りシグナル) | 110,478 | +0.146% | +0.040% | 50.5% | +0.387% | 52.9% | +1.561% | 55.3% |
| 市場全体(比較用) | 3,977,377 | +0.100% | +0.067% | 48.0% | +0.331% | 51.1% | +1.295% | 53.4% |
20営業日後を比べると、雲抜け+1.121%、雲割れ+1.561%、市場全体+1.295%。買いシグナルが最も低いという並びになりました。
翌日の数字はさらに極端です。雲抜けの翌日終値は-0.002%で、わずかながらマイナス。勝率も44.2%と、全体の48.0%を4ポイント近く下回ります。
興味深いのは翌日寄付きです。雲抜けは+0.104%と市場全体と同程度で寄り付きますが、そこから終値までに-0.106ポイント下げています。高く寄って、その日のうちに押し戻されるという形です。
3.雲の上にいる銘柄と、下にいる銘柄
雲抜けという「瞬間」ではなく、いま雲のどこにいるかという「状態」でも分けてみました。
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 雲の上(全体の45.0%) | 1,788,214 | +0.084% | +0.049% | 48.1% | +0.278% | 51.0% | +1.270% | 53.5% |
| 雲の中(全体の13.7%) | 545,099 | +0.089% | +0.048% | 47.5% | +0.263% | 50.9% | +1.200% | 53.1% |
| 雲の下(全体の41.3%) | 1,644,064 | +0.121% | +0.094% | 48.0% | +0.410% | 51.4% | +1.355% | 53.4% |
| 市場全体(比較用) | 3,977,377 | +0.100% | +0.067% | 48.0% | +0.331% | 51.1% | +1.295% | 53.4% |
検証期間中、株価が雲の上にいた日は全体の45.0%、雲の中が13.7%、雲の下が41.3%でした。
リターンを見ると、雲の下にいる銘柄が最も高いという結果です。5営業日後は雲の下+0.410%に対し雲の上+0.278%。20営業日後でも+1.355%対+1.270%です。
雲の上は安全で雲の下は危険、という理解でチャートを見ていると、この数字は意外に映るかもしれません。ただ勝率で見ると雲の上51.0%、雲の下51.4%とほとんど差がありません。当たる確率は同じで、当たったときの値幅が雲の下のほうが大きい、という構造です。
4.「厚い雲は抜けにくい」を確かめる
一目均衡表には、雲の厚さに関する言い伝えもあります。厚い雲は抵抗が強く、そこを抜けたときは本物だ、というものです。
雲を上抜けた日を、そのとき雲がどれくらい厚かったかで分けました。
| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 | 20営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 薄い雲(3%未満) | 69,983 | +0.037% | -0.032% | 44.0% | +0.162% | 47.7% | +1.111% | 52.3% |
| 中くらい(3〜7%) | 30,619 | +0.165% | +0.024% | 44.8% | +0.182% | 47.4% | +1.080% | 50.4% |
| 厚い雲(7%以上) | 9,883 | +0.392% | +0.128% | 44.1% | +0.153% | 44.5% | +1.329% | 47.8% |
| 市場全体(比較用) | 3,977,377 | +0.100% | +0.067% | 48.0% | +0.331% | 51.1% | +1.295% | 53.4% |
翌日寄付きだけを見れば、通説は当たっています。薄い雲を抜けた場合の+0.037%に対し、厚い雲を抜けた場合は+0.392%。10倍以上の差がつきました。厚い雲を抜けた翌朝は、確かに勢いよく買われています。
ところが5営業日後になると逆転します。薄い雲+0.162%、中くらい+0.182%、厚い雲+0.153%。しかも厚い雲の勝率は44.5%と、3つの中で最も低くなりました。
抜けた瞬間の派手さと、その後の成績は一致していません。「厚い雲を抜けたら本物」という理解でその翌日に買うと、いちばん高いところで買うことになりやすい、という結果です。
5.この結果はどれくらい信頼できるか
極端な結果が出たときは、それが特定の日に偏っていないかを確かめます。
雲抜け110,485件は942営業日に分散しており、最も多い上位3日を合わせても全体の1.5%でした。その3日を除いても20営業日後は+1.121%から+1.103%とほぼ変わりません。
雲割れのほうも+1.561%から+1.417%への低下にとどまり、市場全体を上回ったままです。どちらの結論も、特定の相場に引きずられたものではありません。
年別では、雲抜けの20営業日後が2022年+0.077%、2023年+1.510%、2024年+0.291%、2025年+2.072%、2026年+0.712%。全ての年でプラスですが、2022年の+0.077%から2025年の+2.072%まで、相場環境による差は大きくなっています。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 雲だけを見ています。一目均衡表には転換線と基準線の関係、遅行スパンなど他の要素もあります。それらを組み合わせた使い方は検証していません
- パラメータは標準設定です。9日・26日・52日という一般的な組み合わせを使いました
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、実際に約定できるかは考慮していません
- 終値ベースの判定です。日中に雲を抜けて引けで戻したケースは、抜けたと数えていません
7.よくある質問(FAQ)
Q. 一目均衡表の「雲」とは何ですか?
A. 先行スパン1と先行スパン2という2本の線に挟まれた帯のことです。先行スパン1は転換線(9日の中値)と基準線(26日の中値)の平均、先行スパン2は52日の中値。どちらも26日先に描くため、チャートの右側に帯として現れます。
Q. 雲を上抜けたら買いではないのですか?
A. この期間のデータでは確認できませんでした。雲を上抜けた110,485件の20営業日後は+1.121%で、市場全体の+1.295%を下回ります。翌日終値までだと-0.002%・勝率44.2%と、勝率は半分を切りました。
Q. 雲を下抜けたときのほうが成績が良いのですか?
A. はい。雲を下抜けた110,478件の20営業日後は+1.561%・勝率55.3%で、市場全体を上回りました。売りシグナルのほうが買いシグナルより良い成績になっています。
Q. 株価が雲の上にあると安心、というのは本当ですか?
A. リターンで見るとむしろ逆でした。雲の上にいる日の5営業日後は+0.278%、雲の下にいる日は+0.410%。20営業日後でも+1.270%対+1.355%で、雲の下にいる銘柄のほうが高くなっています。
Q. 「厚い雲は抜けにくい」という説明をどう考えればよいですか?
A. 抜けた後の値動きで見ると、厚い雲を抜けた場合の翌日寄付きは+0.392%と最も高く、勢いよく買われています。ところが5営業日後は+0.153%・勝率44.5%と最も低くなりました。抜けた瞬間は派手だが続かない、という形です。
Q. 株価が雲の中にいるときはどう考えればよいですか?
A. 検証期間中、雲の中にいた日は全体の13.7%でした。5営業日後は+0.263%、20営業日後+1.200%で、雲の上と下の中間というより、雲の上に近い水準です。方向感がないと言われる状態ですが、リターンの面で特別に不利ということはありませんでした。
Q. 一目均衡表は使えない指標ということですか?
A. 本記事が検証したのは「雲を抜けた翌日に買う」という単純なルールだけです。一目均衡表には転換線と基準線の関係、遅行スパンなど他の要素もあり、それらを組み合わせた使い方までは検証していません。雲を抜けたという事実そのものに平均的な優位性がなかった、という点をご理解ください。
8.まとめ
3,977,377件を数え直してわかったことを整理します。
- 雲抜けは買いシグナルとして機能していませんでした。20営業日後+1.121%は市場全体の+1.295%を下回り、翌日の勝率は44.2%と半分を切ります
- 売りシグナルとされる雲割れのほうが上でした。20営業日後+1.561%・勝率55.3%で、市場全体を上回っています
- 雲の下にいる銘柄のほうがリターンは高くなりました。5営業日後で雲の下+0.410%、雲の上+0.278%です
- 厚い雲を抜けた翌朝は最も高く寄ります(+0.392%)。しかし5営業日後は+0.153%・勝率44.5%と最も低くなりました
- これらは特定の日に依存していません。発生上位3日を除いても数字はほとんど変わりませんでした
雲は視覚的にわかりやすく、チャートを見たときの印象を強く左右します。だからこそ「雲を抜けた」という事実に意味を感じやすいのだと思います。
ただ今回の数字が示していたのは、抜けた瞬間にはすでに多くの買いが入っており、そこから先に残っている値幅は大きくないという姿でした。目立つ形が現れたときほど、その形が何人の目に同時に映っているかを考えてみてください。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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