「何年も抜けなかった高値を、ついに抜いた」。チャートでこの形を見つけると、長い停滞を終えた大きな上昇の始まりに見えてしまいます。長く抜けなかった壁を越えたのだから、抜けた後は強いはずだ、という感覚です。
この感覚を数字で確かめました。2014年1月6日から2026年9月30日までの東証全銘柄(5,447銘柄・3,112営業日)で、終値が過去の高値を上抜けた初日を417,284件拾い、抜いた高値がどれだけ前のものかで分けて集計しています。
結論を先に述べます。効いていたのは、抜けた翌日から数日までの短い期間でした。1年以上更新されなかった高値を抜けた銘柄の翌日終値は+0.204%で、市場平均の+0.049%の4.2倍です。ところが20営業日後は+1.107%と、市場平均の+0.928%との差は+0.179ポイントにとどまり、勝率は51.2%と市場平均(51.1%)とほぼ同じでした。
もう一つの発見は、「長い」の基準が思っていたより短いことです。分かれ目は1年や3年ではなく、半年前後にありました。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(株式分割の影響を除いた調整後株価)。5,447銘柄・3,112営業日
- 期間:2014年1月6日〜2026年9月30日。20営業日後の株価が取れる範囲までです
- 高値の更新:その日の終値が、過去N営業日の終値の最高値を上回った日。Nは60・120・250・500・750営業日(約3か月・6か月・1年・2年・3年)
- 上抜けた初日だけを数える:前日が60営業日の高値更新だった場合は数えません。上昇が続く間、連日同じ銘柄を数えるのを避けるためです
- 区分:更新できた最も長い期間で分けます。例えば250営業日の高値は抜いたが500営業日の高値は抜いていない場合は「1〜2年」です。「3年以上」は上限なしで、750営業日より前の高値まで含みます
- リターン:高値を抜いた日の終値で買ったとして、翌日の寄付き・翌日の終値・5営業日後・20営業日後
- 比較対象:同じ期間・同じ銘柄群の全営業日の平均(市場平均)。12,467,557件です
上抜けの初日は全体で417,284件、全営業日のうち3.35%にあたります。3年以上の履歴が必要な「3年以上」の区分は、上場から日が浅い銘柄が入らない点にご注意ください。
2.抜いた高値の古さ別に見た結果
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 3〜6か月(全体の33.1%) | 138,115 | +0.128% | +0.040% | 44.2% | +0.107% | 46.6% | +0.512% | 47.6% |
| 6か月〜1年(全体の20.7%) | 86,355 | +0.200% | +0.163% | 46.2% | +0.418% | 49.0% | +1.217% | 51.2% |
| 1〜2年(全体の13.5%) | 56,493 | +0.245% | +0.187% | 46.5% | +0.449% | 49.0% | +1.150% | 50.7% |
| 2〜3年(全体の5.4%) | 22,437 | +0.236% | +0.172% | 46.8% | +0.390% | 48.6% | +0.871% | 49.1% |
| 3年以上(全体の27.3%) | 113,884 | +0.215% | +0.219% | 48.7% | +0.490% | 50.3% | +1.133% | 51.9% |
| 1年以上(合計) | 192,814 | +0.226% | +0.204% | 47.8% | +0.466% | 49.7% | +1.107% | 51.2% |
| 1年未満(合計) | 224,470 | +0.156% | +0.088% | 45.0% | +0.226% | 47.5% | +0.783% | 49.0% |
| 市場平均(比較用) | 12,467,557 | +0.082% | +0.049% | 47.0% | +0.243% | 49.8% | +0.928% | 51.1% |
まず20営業日後の列を見てください。3〜6か月が+0.512%、6か月〜1年が+1.217%、1〜2年が+1.150%、2〜3年が+0.871%、3年以上が+1.133%です。市場平均は+0.928%でした。
「長く抜けなかった高値ほど強い」であれば、上から下へ数字が大きくなるはずです。実際には6か月〜1年が最も高く、その先は伸び続けていないという形でした。2〜3年は+0.871%で、市場平均を0.057ポイント下回っています。
一方、翌日の終値では5区分すべてがプラスで、+0.040%から+0.219%まで、期間が長いほど高めになる傾向は見えます。
3.3〜6か月の高値抜けは、市場平均に届かない
最も弱かったのは、3〜6か月前の高値を抜けた銘柄です。全体の33.1%を占める最大のグループでもあります。
翌日終値は+0.040%で、市場平均+0.049%とほとんど差がありません。5日後が+0.107%、20日後が+0.512%で、市場平均(+0.243%、+0.928%)をどちらも下回りました。
中央値で見ると、20日後は-0.281%とマイナスです。勝率は47.6%で、半分に届きません。平均が+0.512%とプラスなのは、一部の大きく上がった銘柄が引き上げているためです。
これを半年以上のグループと比べると、20日後の平均は+1.217%と+0.705ポイント高く、同じ高値更新でも質が違います。1年未満をまとめると20日後は+0.783%、1年以上をまとめると+1.107%で、その差は+0.324ポイントでした。
理由までは、データから断定できません。確かなのは、3〜6か月の高値更新は、市場平均より強いとは言えなかったという点です。
4.1年以上の高値抜けは、翌日までが強い
次に、1年以上更新されなかった高値を抜けた192,814件(上抜けた初日全体の46.2%)を詳しく見ます。
- 翌日寄付き:+0.226%(市場平均+0.082%の2.8倍)
- 翌日終値:+0.204%(市場平均+0.049%の4.2倍)
- 5営業日後:+0.466%(市場平均+0.243%の1.9倍)
- 20営業日後:+1.107%(市場平均+0.928%との差は+0.179ポイント)
倍率は日を追うごとに縮み、20日後にはほぼ市場並みになります。差の大部分は、抜けた当日の夜から数日のうちに出ているということです。
勝率も同じです。翌日終値の勝率は47.8%で、市場平均の47.0%より0.8ポイント高い程度です。20日後は51.2%で、市場平均との差は0.1ポイントしかありません。中央値の差も+0.031ポイントです。
「大きな壁を越えた銘柄は、そのまま大きく上がり続ける」という期待に対しては、少なくとも1か月先の平均で見る限り、市場を大きく上回る根拠は見つかりませんでした。
ここで注意したいのは、翌日寄付きの差です。市場平均の+0.082%に対して+0.226%と、翌日の差の多くは前日の終値から翌日の寄付きまでの間(窓の開き)で生まれています。高値を抜けた日の終値で買えた場合の数字です。終値を確認してから翌日の寄付きで買うと、この部分は取れません。寄付きから終値までの変化は-0.022ポイントで、優位はほぼ残りません。
5.大きく上げて抜けた日は、平均が跳ね上がる
1年以上の高値抜けを、抜けた当日の上昇率で3つに分けました。
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| 区分 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5日後 | 勝率 | 20日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 当日+2%未満(47.2%) | 90,970 | +0.053% | +0.108% | 49.3% | +0.348% | 51.8% | +0.993% | 53.3% |
| 当日+2〜5%(34.3%) | 66,214 | +0.119% | +0.101% | 46.8% | +0.324% | 48.8% | +0.979% | 50.5% |
| 当日+5%以上(18.5%) | 35,630 | +0.865% | +0.640% | 46.0% | +1.033% | 46.0% | +1.638% | 47.3% |
| 市場平均(比較用) | 12,467,557 | +0.082% | +0.049% | 47.0% | +0.243% | 49.8% | +0.928% | 51.1% |
当日の上昇率が2%未満のごく静かな高値抜けは、翌日寄付きが+0.053%、翌日終値が+0.108%と、市場平均に近い水準でした。20日後は+0.993%・勝率53.3%で、勝率は3区分で最も高くなっています。
これに対し、当日に5%以上上げて抜けた区分は別物です。翌日寄付きが+0.865%、翌日終値が+0.640%、5日後が+1.033%、20日後が+1.638%と、いずれも最も高い平均です。
ただし勝率に目を向けると、5日後が46.0%、20日後が47.3%で、市場平均の49.8%、51.1%を下回っています。勝つ回数は少ないのに平均が高いのは、少数の大きく上がる銘柄が平均を押し上げているからです。
6.発生日の集中と年別の確認
極端な結果は、相場が急変した数日に集中して生まれることがあります。今回の高値抜けが、特定の数日に偏っていないかを確認しました。
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1年以上の高値抜け192,814件は、3,109営業日に分散していました。最も多かった2026年2月27日でも522件、上位3日(2026年2月27日・522件、2018年1月4日・476件、2026年1月13日・451件)を合わせて全体の0.8%にすぎません。
その3日を除いて再集計しても、翌日終値は+0.204%から+0.203%、5日後は+0.466%から+0.475%、20日後は+1.107%から+1.114%と、ほとんど変わりません。発生日の集中によって結果が作られているわけではありません。
ただし、年ごとの差は大きくなっています。
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1年以上の高値抜けの20営業日後は、2014年+1.113%、2015年+1.228%、2016年+1.892%、2017年+2.883%、2018年-2.210%、2019年+1.388%、2020年-0.509%、2021年-0.708%、2022年-0.259%、2023年+1.221%、2024年+0.304%、2025年+2.685%、2026年+1.165%です。最も良かった2017年は+2.883%、最も悪かった2018年は-2.210%で、その差は5.093ポイントもあります。13年のうち4年は20営業日後の平均がマイナスでした。
一方、翌日の終値は13年すべてでプラスです。短期の優位は毎年見られたものの、1か月先まで見ると相場環境しだいで大きく振れるというのが、年別の結果から言えることです。
この検証の限界
- 売買コストを含みません。手数料・スプレッド・約定のしやすさは考慮していません。差が+0.155ポイント程度の短期の優位は、コストで消えることがあります
- 終値で高値を判定しています。日中の高値を一瞬だけ超えた場合は更新に含めていません
- 調整後株価を使っています。分割は調整済みですが、配当落ちの調整はしていません
- 上場廃止の扱い。データが途切れた銘柄の、その後の値動きは追えていません
- 市場全体の上昇・下落の影響を取り除いてはいません。各区分の上抜けは、市場全体が強い時期に多く発生しやすい点にご留意ください
7.よくある質問(FAQ)
Q. 「高値を更新した」はどう判定していますか?
A. その日の終値が、過去の一定期間(60・120・250・500・750営業日)の終値の最高値を上回った日を、その期間の高値更新としています。日中の高値(ザラ場)ではなく終値で見ています。連日の更新は重複して数えないよう、前日は60営業日の高値更新ではなかった「上抜けた初日」だけを対象にしました。
Q. 長く抜けなかった高値ほど、その後は強いのですか?
A. 単純にはそうなっていません。20営業日後で見ると、3〜6か月が+0.512%、6か月〜1年が+1.217%、1〜2年が+1.150%、2〜3年が+0.871%、3年以上が+1.133%でした。3〜6か月から半年以上に変わる所で大きく上がりますが、その先は期間が長くなっても伸び続けてはいません。
Q. 市場平均と比べて、何が良かったのですか?
A. 1年以上の高値を抜けた翌日の終値は+0.204%で、市場平均の+0.049%の4.2倍でした。5日後も+0.466%と市場平均の+0.243%を上回ります。一方で20営業日後は+1.107%と、市場平均の+0.928%との差が+0.179ポイントまで縮みました。
Q. 3〜6か月の高値を抜けた銘柄は、避けたほうがよいのですか?
A. この集計では20営業日後が+0.512%で、市場平均の+0.928%を下回り、中央値も-0.281%とマイナスでした。ただし平均や中央値は過去の集計値です。個別の銘柄の先行きを示すものではありません。
Q. 大きく上げて高値を抜けた日は、さらに強いのですか?
A. 1年以上の高値を当日5%以上の上昇で抜けた場合、翌日寄付きまでが+0.865%、20営業日後が+1.638%と最も高い平均でした。ただし20営業日後の勝率は47.3%と、市場平均の51.1%を下回ります。一部の大きく上がった銘柄が平均を押し上げている形です。
Q. 特定の日に結果が偏っていませんか?
A. 偏っていません。1年以上の高値抜けは3,109営業日に分散し、発生が多かった上位3日を合わせても全体の0.8%です。その3日を除いても20営業日後は+1.107%から+1.114%と、ほとんど変わりませんでした。
Q. この結果は毎年同じですか?
A. 同じではありません。1年以上の高値抜けの20営業日後は、最も良かった2017年が+2.883%、最も悪かった2018年が-2.210%と、13年のうち4年でマイナスでした。一方、翌日終値は13年すべてでプラスでした。
8.まとめ
417,284件の高値の上抜けを数え直してわかったことを整理します。
- 短期は効いていました。1年以上の高値を抜けた翌日の終値は+0.204%で、市場平均の4.2倍でした
- 20営業日後の差は小さくなります。+1.107%と市場平均の+0.928%との差は+0.179ポイントで、勝率はほぼ同じでした
- 分かれ目は半年前後です。3〜6か月の高値抜けは20日後が+0.512%と市場平均を下回りました。6か月〜1年は+1.217%で最も高く、2年以上に長くなっても伸びてはいません
- 大きく上げて抜けた日は振れ幅が大きく、20日後の平均は+1.638%と高い一方、勝率は47.3%と市場平均を下回りました
- 発生日の集中はなく、上位3日を除いても結果はほぼ同じでした。年による差は大きく、13年のうち4年は20日後がマイナスでした
長い停滞のあとの高値更新には、「ここから大相場が始まる」という物語がつきまといます。今回の数字は、その物語のうち、ごく短い期間については裏づけました。一方で、1か月先まで同じ勢いが続くという部分は、市場平均を大きく上回るほどではありませんでした。
チャートで長い停滞を抜けた形を見つけたときは、「どれだけ長く抜けなかったか」だけでなく、何を狙った売買なのか(翌日までの勢いか、1か月先の上昇か)を先に決めておくと、数字との付き合い方が変わってきます。まずは自分の売買の保有期間に近い列を、もう一度見直してみてください。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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