「出来高が急増した銘柄に注目せよ」。株式投資の入門書でよく見かける教えです。人が集まっているところに値動きがある、という理屈は分かります。しかし出来高には1つ弱点があります。株数しか見ていないことです。
株価100円の銘柄が10万株動いても1,000万円。株価5,000円の銘柄が同じ10万株なら5億円です。同じ「出来高10万株」でも、そこに入った資金の量はまったく違います。そこで今回は株数ではなく金額――売買代金で切り分けてみました。
2022年10月3日から2026年8月29日までの東証全銘柄、4,070,211件(4,807銘柄・956営業日)が対象です。
結論を先に述べます。売買代金が急増した銘柄に翌日飛びつくのは、平均的に不利でした。過去20日平均の5倍以上に急増した70,441件の5営業日後は+0.070%。全体平均+0.333%を大きく下回ります。しかも動いた金額が大きいほど成績は悪く、10〜50億円の帯では-1.052%でした。
1.検証ルール
集計条件をすべて開示します。
- データ:東証全銘柄の日足(調整後株価)。出来高がゼロの日は除外
- 期間:2022/10/03〜2026/08/29(956営業日・4,807銘柄・4,070,211件)
- 売買代金:その日の終値 × 出来高
- 急増倍率:当日の売買代金 ÷ 過去20営業日の平均売買代金(当日は含めない)
- 2つの軸:金額の大きさ(1億円未満/1〜5億円/5〜10億円/10〜50億円/50億円以上)と、急増倍率(1倍未満/1〜2倍/2〜3倍/3〜5倍/5倍以上)
- リターン:翌日寄付き(当日終値→翌日始値)、翌日終値、5営業日後
- 頑健性の確認:発生が多かった上位3営業日を除いた再集計
金額の目安も示しておきます。全4,070,211件の売買代金の中央値は4,391万円でした。上位10%が15.0億円、上位1%になると337.0億円です。東証全体で見れば、1日に1億円も売買されない銘柄のほうが多数派だということです。
2.急増倍率別に見た結果
まず、金額の大きさを問わず倍率だけで分けた結果です。
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| 売買代金の急増倍率 | 件数 | 翌日寄付き | 翌日終値 | 勝率 | 5営業日後 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1倍未満 | 2,638,978 | +0.100% | +0.081% | 48.0% | +0.336% | 51.5% |
| 1〜2倍 | 1,067,627 | +0.091% | +0.065% | 48.6% | +0.345% | 51.4% |
| 2〜3倍 | 193,496 | +0.073% | +0.022% | 47.6% | +0.341% | 49.6% |
| 3〜5倍 | 99,669 | +0.087% | -0.008% | 46.7% | +0.313% | 48.6% |
| 5倍以上 | 70,441 | +0.325% | -0.017% | 44.5% | +0.070% | 45.4% |
| 全体平均 | 4,070,211 | +0.100% | +0.070% | 48.0% | +0.333% | 51.2% |
翌日終値の列を上から下へ見てください。1倍未満の+0.081%から、倍率が上がるにつれて+0.065%、+0.022%、-0.008%と下がり、5倍以上では-0.017%とマイナスに転じます。
5営業日後はもっとはっきりしています。1倍未満から3〜5倍までは+0.313%〜+0.345%と全体平均並みですが、5倍以上だけが+0.070%と落ち込みます。勝率も45.4%と、全帯で最も低い数字です。
ここで目を引くのが翌日寄付きの列です。5倍以上は+0.325%と、全帯で最も高くなっています。翌朝は高く始まるのに、その日の終値までに沈む。この形は後ほど改めて取り上げます。
3.金額の大きさで分けると景色が変わる
ここからが本題です。同じ「5倍に急増」でも、動いた金額が1,000万円なのか50億円なのかで意味は違うはずです。2つの軸を掛け合わせました。
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| 当日の売買代金\倍率 | 1倍未満 | 1〜2倍 | 2〜3倍 | 3〜5倍 | 5倍以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1億円未満 | +0.355% 1,800,797件 | +0.353% 534,037件 | +0.345% 108,497件 | +0.464% 54,565件 | +0.625% 31,114件 |
| 1〜5億円 | +0.261% 451,362件 | +0.290% 259,645件 | +0.288% 44,036件 | +0.220% 22,991件 | -0.043% 18,952件 |
| 5〜10億円 | +0.319% 121,649件 | +0.339% 78,117件 | +0.276% 13,084件 | -0.009% 7,075件 | -0.349% 6,728件 |
| 10〜50億円 | +0.339% 178,263件 | +0.360% 122,799件 | +0.415% 17,737件 | +0.082% 9,750件 | -1.052% 9,730件 |
| 50億円以上 | +0.355% 86,907件 | +0.464% 73,029件 | +0.474% 10,142件 | +0.026% 5,288件 | -0.282% 3,917件 |
※各セルは5営業日後の平均リターン。全体平均は+0.333%
表の右端の列――5倍以上――を上から下へたどってください。
- 1億円未満:+0.625%(全体平均を上回る)
- 1〜5億円:-0.043%
- 5〜10億円:-0.349%
- 10〜50億円:-1.052%(最も悪い)
- 50億円以上:-0.282%
金額が大きくなるほど成績が落ちていき、10〜50億円で底を打ちます。1億円未満の小型株だけがプラスで、それ以外はすべてマイナスです。
一方、倍率が1倍未満〜2倍程度の「普通の日」を見ると、どの金額帯でも+0.355%〜+0.464%と、金額による差はほとんどありません。差が出るのは急増した日だけです。
この結果が数日のイベントに引きずられていないかも確認しました。10〜50億円×5倍以上は、発生が多かった上位3日を除いても-1.052%から-1.084%とほぼ変わりません。5倍以上の発生は956営業日に分散しており、上位3日のシェアは1.4%にすぎません。
4.「高く寄って、その後下げる」という形
もう一度、翌日寄付きと翌日終値の差に注目します。5倍以上の帯では寄付き+0.325%に対し終値-0.017%。その差は約0.34ポイントです。
これは、翌日の値動きが平均して「高く始まって下げる」形だったことを意味します。前日に大きな金額が動いた銘柄は翌朝に注目が集まり、成行の買い注文が寄り付きに集中します。その結果として始値は高くなりますが、そこから先を支える買いは続かなかった、という読み方ができます。
実務的な意味は明快です。「昨日いちばん売買代金が増えた銘柄」を翌朝の寄り付きで買う方法は、この期間のデータでは最も不利な入り方でした。ランキング上位を眺めて翌朝に飛び乗る、という行動がいかに不利かを示しています。
5.金額の大きさそのものには優位性がない
念のため、倍率を問わず金額の大きさだけで分けた結果も見ておきます。5営業日後は1億円未満+0.360%、1〜5億円+0.263%、5〜10億円+0.293%、10〜50億円+0.303%、50億円以上+0.382%。
いずれも全体平均+0.333%の周辺に収まっており、差はほとんどありません。「大きく売買される銘柄が有利/不利」という単純な話ではないということです。
効いていたのは金額そのものではなく、「普段と比べてどれだけ増えたか」と「その金額の大きさ」の組み合わせでした。普段1億円動く銘柄が5億円動いた日と、普段10億円動く銘柄が50億円動いた日とでは、後者のほうがはるかに不利だった、というのが今回の発見です。
6.この検証の限界
結果を使う前に、次の点をご承知おきください。
- 売買コストを含みません。手数料やスプレッド、実際に約定できるかは考慮していません。とくに1億円未満の帯は、希望する値段で売買できない可能性があります
- 材料の中身は見ていません。決算なのか、業務提携なのか、需給要因なのかを区別していません。同じ「代金5倍」でも背景はさまざまです
- 観測が重なっています。同じ銘柄の連日のデータが含まれるため、4,070,211件が独立した試行というわけではありません
- 期間が約4年です。この間の相場環境に固有の傾向が含まれている可能性は排除できません
7.よくある質問(FAQ)
Q. 売買代金と出来高は何が違うのですか?
A. 出来高は「何株売買されたか」、売買代金は「いくら分売買されたか」です。株価100円の銘柄が10万株動いても1,000万円ですが、株価5,000円の銘柄なら5億円になります。同じ出来高倍率でも、実際に動いた資金量はまったく違う、ということです。
Q. 売買代金が急増した銘柄は買いですか?
A. この検証では逆の結果でした。売買代金が過去20日平均の5倍以上に急増した70,441件は、翌日終値まで持つと-0.017%、5営業日後は+0.070%。全体平均の+0.333%を大きく下回っています。
Q. 代金が大きいほど不利になるのはなぜですか?
A. はっきりした理由まではデータから言えません。ただ、15.0億円を超えるような大きな金額が動いた日は、材料が出たあとの売買が集中した日である可能性が高く、その材料はすでに株価に反映されていると考えられます。実際、10〜50億円の帯で5倍以上に急増した場合、5営業日後は-1.052%でした。
Q. 小型株なら急増に乗ってもよいということですか?
A. 1億円未満の帯だけは5倍以上でも5営業日後+0.625%とプラスでした。ただし売買代金が1億円に満たない銘柄は、そもそも希望する値段で売買できるとは限りません。数字がプラスでも、実際に同じ成績を得られるかは別の問題です。
Q. 翌日の寄付きだけリターンが高いのはなぜですか?
A. 5倍以上の帯は翌日寄付きが+0.325%と全帯で最も高いのに、翌日終値までだと-0.017%に沈みます。注目が集まった翌朝は買い注文が先行して高く始まり、その後は売りに押される、という形が平均的な姿でした。
Q. この結果は特定の日の影響を受けていませんか?
A. 確認しました。5倍以上に急増した日のうち発生が多かった上位3日を除いても、10〜50億円の帯は-1.052%から-1.084%とほとんど変わりません。特定の日に引きずられた結果ではありません。
Q. 売買代金はどこで確認できますか?
A. 証券会社の取引画面や株価情報サイトの個別銘柄ページに、出来高と並んで表示されているのが一般的です。表示がない場合も、終値×出来高でおおよその金額は計算できます。日々の平均と比べて何倍かを見る習慣をつけると、今回の検証結果を自分で確かめられます。
8.まとめ
4,070,211件を数え直してわかったことを整理します。
- 売買代金が5倍以上に急増した銘柄は、平均的に不利でした。翌日終値-0.017%、5営業日後+0.070%。全体平均+0.333%を大きく下回ります
- 動いた金額が大きいほど成績は悪化しました。5倍以上の中でも10〜50億円の帯が-1.052%で最悪。プラスを保ったのは1億円未満(+0.625%)だけです
- 翌朝は高く寄ります。5倍以上の翌日寄付きは+0.325%と全帯で最高なのに、終値までだと-0.017%。寄り付きで飛びつくのが最も不利な入り方でした
- 金額の大きさ自体には優位性も不利もありません。倍率を問わず金額だけで分けると、どの帯も全体平均の周辺に収まります
- この結果は特定の日に依存していません。発生上位3日を除いても数字はほとんど変わりませんでした
「出来高急増銘柄に注目」という助言そのものが間違っているわけではありません。注目すること自体は有益です。ただ、注目した翌朝に買うという行動については、少なくともこの4年弱のデータは分が悪いと示していました。
ランキング上位に並ぶ銘柄は、すでに多くの人が見ています。そこに翌朝から加わるということが何を意味するのか。今回の数字は、その問いに1つの答えを出しているように思います。
「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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