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「値動きが小さくなった銘柄はエネルギーを溜めている。放れたときは大きい」――長く語られてきた通説です。値幅がじりじり縮むチャートを見ると、多くの投資家が「そろそろ動く」と身構えます。しかしその放れは本当に起きているのか、起きるとしたら上と下のどちらなのか。データで確かめました。

東証全銘柄を対象に、2022年10月3日〜2026年7月31日の延べ3,936,452営業日(4,728銘柄)を全数チェック。値幅の指標としてATR(真の値幅の14日平均)を使い、ATR率が過去100営業日で下位10%まで縮んだ日=スクイーズを552,193件抽出して、その後のリターンと放れの方向を集計しました。

結論を先にお伝えします。スクイーズ後20営業日は平均+0.773%・勝率51.45%で、全営業日平均の+1.253%・勝率53.16%を0.481ポイント下回りました。20営業日以内に±10%へ放れた比率は上方15.41%対下方13.98%とほぼ五分、どちらにも届かない「不発」が70.61%を占めます。

「値幅が縮む=大きく放れる前兆」という直感は、約3年9か月ぶんの日本株データでは支持されませんでした。むしろ縮み方が深いほど、その後のリターンは低くなります

執筆者

西村剛
西村剛

フェアトレード株式会社 代表取締役。機関投資家出身で統計データを重視したシステムトレードに注力。2011年株-1グランドチャンピオン大会で+200.4%、2012年+160.1%、2013年157.0%を叩き出し三連覇達成。証券アナリスト検定会員。システムトレードを使った定量分析と、これまでファンドマネジャーとして培ったファンダメンタルズ分析を融合した新しい視点で株式市場を分析し、初心者でもわかりやすい言葉を使った解説に定評がある。

システムトレード

1.検証ルール

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検証対象:東証全銘柄(判定に使用 4,728銘柄)
検証期間:2022年10月3日〜2026年7月31日
判定した延べ営業日数:3,936,452日
スクイーズ発生:552,193件(判定日数の14.03%)

【ATR(値幅)の計算】

  • 1日ぶんの本当の値幅=True Rangeは次の3つのうち最も大きい値です。(1)当日高値−当日安値 (2)当日高値−前日終値 (3)当日安値−前日終値((2)(3)は絶対値)。窓を開けた日の動きも値幅に数えるための計算です。
  • ATR(14日)=過去14営業日のTrue Rangeの平均(当日を含む)
  • ATR率=ATR÷当日終値×100(%)。株価100円の5円と5,000円の5円を同じ値幅として扱わないための換算です。

【スクイーズ(値動き縮小)の定義】

  • その銘柄の過去100営業日のATR率を小さい順に並べ、当日が下から10番目以内(下位10パーセンタイル以下)ならスクイーズ。銘柄自身の過去と比べるので、荒い銘柄も静かな銘柄も同じ基準で扱えます。
  • 比較対象として非スクイーズ日全営業日の平均も同時に集計しました。

【集計内容】

  • 集計1:起点からの5・10・20営業日後リターン(平均・中央値・勝率・件数)
  • 集計2:20営業日以内に終値が「起点+10%(上方ブレイク)」「起点-10%(下方ブレイク)」のどちらへ先に到達したか
  • 集計3:縮み方の深さ別(下位5%以下/5〜10%/10〜20%)の比較
  • 終値0・出来高0の日は除外。指標計算のため判定期間の前に約1年3か月ぶんを読み込んでいます。

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2.検証結果

(1) スクイーズ後のリターンは市場平均に届かない

スクイーズ後のリターンと勝率

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

スクイーズ日の終値を起点にすると、5営業日後が平均+0.191%(勝率50.47%)、10営業日後が+0.364%(勝率51.10%)、20営業日後が+0.773%(勝率51.45%)。ただし比較対象を並べると印象が変わります。

同期間の全営業日平均は+0.320%/+0.635%/+1.253%。スクイーズ後はどの期間でも市場平均を下回り(-0.129/-0.271/-0.481ポイント)、保有を延ばすほど差が開きます。20営業日後の中央値も+0.207%と非スクイーズ日+0.514%の半分以下でした。

(2) 上と下、どちらに放れるのか――ほぼ五分五分

スクイーズ深さ別のブレイク方向

※画像はクリックすると拡大してご覧いただけます

20営業日以内に終値が+10%へ届けば上方ブレイク、-10%なら下方ブレイクとし、先に到達したほうを採用しました(537,693件)。結果は上方15.41%(82,866件)、下方13.98%(75,144件)、どちらも未達70.61%(379,683件)。上下比1.10倍は、方向を当てにいくには心もとない差です。

重要なのは比較対象との差です。非スクイーズ日は上方18.49%・下方13.57%で上下比1.36倍。通常の日のほうが上方に放れやすく、スクイーズはむしろ上方バイアスを弱めます。±10%のいずれかに到達した比率もスクイーズ29.39%対通常32.06%で、大きな値動きが起きる確率自体が2.67ポイント低いのです。

(3) 縮み方が深いほど、その後は悪くなる

「極端に縮んだ銘柄こそ本命」という反論を確かめたのが集計3です。20営業日後の平均は下位5%以下+0.703%、下位5〜10%+0.898%、下位10〜20%+1.063%、非スクイーズ+1.331%浅いほど良い単調な並び。勝率も51.14%→52.02%→52.64%→53.44%と同じ順序でした。

方向も同様で、上方ブレイク比率は15.26%→15.68%→16.15%→18.49%。深く縮んだ銘柄ほど上方に放れにくく、上下比1.08倍はほぼコイントスです。究極に縮んだチャートを探す作業は、データ上は逆方向への努力になります。

(4) 値幅は戻る。しかし大相場にはならない

補足すると値幅そのものは戻ります。スクイーズ日のATR率は平均1.667%、20営業日後は2.417%と約1.45倍に拡大(通常日は2.752%→2.636%で0.96倍)。ところが20営業日の騰落率を絶対値で見るとスクイーズ6.318%に対し通常日6.672%。日々の値幅は戻っても、20日でどこまで動いたかという意味の放れは通常日より小さいのです。

(5) 完全データ表

■ 集計1:期間別リターン

区分経過件数平均リターン中央値勝率
スクイーズ日5営業日後552,193+0.191%+0.067%50.47%
スクイーズ日10営業日後548,527+0.364%+0.127%51.10%
スクイーズ日20営業日後537,693+0.773%+0.207%51.45%
非スクイーズ日5営業日後3,381,760+0.342%+0.127%51.14%
非スクイーズ日10営業日後3,365,870+0.679%+0.257%52.24%
非スクイーズ日20営業日後3,329,459+1.331%+0.514%53.44%
全営業日5営業日後3,933,953+0.320%+0.117%51.04%
全営業日10営業日後3,914,397+0.635%+0.235%52.08%
全営業日20営業日後3,867,152+1.253%+0.467%53.16%

■ 集計2・3:深さ別の20営業日後リターンとブレイク方向

縮み方の深さ件数20日後平均中央値勝率上方ブレイク下方ブレイクどちらも未達上/下比
値幅 下位5%以下(極小)345,454+0.703%+0.166%51.14%15.26%14.16%70.58%1.08倍
値幅 下位5〜10%(小)192,239+0.898%+0.288%52.02%15.68%13.64%70.68%1.15倍
値幅 下位10〜20%(やや小)367,157+1.063%+0.350%52.64%16.15%13.46%70.39%1.20倍
非スクイーズ日(比較対象)3,329,459+1.331%+0.514%53.44%18.49%13.57%67.93%1.36倍

3.なぜ「縮んだら大きく放れる」は起きなかったのか

552,193件が示した「スクイーズは劣後する」という結果は、いくつかの仮説で説明できます。

  1. エネルギー蓄積説は半分だけ正しい:ATR率は1.667%→2.417%と約1.45倍に戻り、「静けさの後に値動きが戻る」こと自体は事実です。しかし±10%到達率はスクイーズ29.39%対通常32.06%でむしろ低下。溜まったエネルギーは上下に往復して消費されているとみるのが自然です。
  2. 「材料待ち」ではなく「関心切れ」:スクイーズ日の直近20日平均出来高は、同じ銘柄の直近100日平均の0.746倍(通常日1.073倍)まで細っていました。値幅の縮小は出来高減少とセットで起き、放れを生む新規の買い手=燃料が不足した状態です。
  3. 上方バイアスを失っている:検証期間の日本株は総じて上昇基調で、通常日の上下比は1.36倍と明確に上方優位でした。スクイーズ日は1.10倍まで低下。値幅が縮んだ銘柄群は相場の追い風から切り離された「置いていかれた銘柄」に偏りやすいと読めます。
  4. 深いほど悪い単調性が「休眠」を示す:+0.703%→+0.898%→+1.063%という並びは偶然では説明しにくい規則性です。深い収縮は「爆発直前」ではなく関心が薄れて眠っている状態のシグナルだと解釈できます。
  5. 静けさは持続する:定義上は判定日の10%程度が該当するはずが実際は14.03%、最も深い下位5%以下の帯が345,454件と下位5〜10%の192,239件を上回ります。静けさが何週間も続くため、「明日にも放れる」前提は空振りしやすいのです。
  6. 待ち時間そのものがコスト:20営業日後の+0.773%は、同期間ただ市場に居続けた場合の+1.253%を下回ります。放れを待つ行為は約1か月ぶんの機会費用の支払いです。

4.データが示す正解戦略

結果を売買判断に落とし込みます。

  • 「値幅が縮んだ」だけを理由に買わない:20営業日後は平均+0.773%・勝率51.45%で市場平均(+1.253%)に届かず、単独のエントリー根拠としては不合格です。
  • 方向を予想しない:上方15.41%対下方13.98%(上下比1.10倍)は決め打ちできる差ではなく、スクイーズは方向のシグナルではないと割り切るのが出発点です。
  • 放れを確認してから動く:上方到達までの平均は11.4営業日。先回りせず動き出しを確認しても間に合う時間軸で、確認を入れれば不発70.61%と下方13.98%を避けられます。
  • 極端に縮んだ銘柄を探さない:下位5%以下は+0.703%・上下比1.08倍と、最も分が悪い層でした。
  • 出来高をセットで見る:スクイーズ日の出来高は100日平均の0.746倍。出来高が戻り始めたかが監視から実行へ切り替える条件になります。
  • 保有期間を延ばすほど不利:市場平均との差は-0.129→-0.271→-0.481ポイントと拡大。「いつか放れる」と持ち続けるほど機会損失は膨らみます。

5.実践活用――値幅縮小銘柄との付き合い方

(1) ATR率とスクイーズを自分で計算する

  • 毎日のTrue Range(前述の3つのうち最大値)を出します。表計算ソフトのMAX関数とABS関数だけで作れます。
  • 直近14日を平均してATR、当日終値で割って100倍でATR率(%)。
  • 過去100営業日のATR率を並べ、当日が下から10番目以内ならスクイーズ。PERCENTILE関数やRANK関数で判定できます。水準の目安はスクイーズ日平均1.667%、通常日2.752%でした。

(2) 見つけた後は「買う」ではなく「並べる」

  • 判定が出た銘柄はその場で発注せず監視リストへ。期待値は市場平均以下です。
  • 判定日の終値を記録します。以後の判断基準(+10%/-10%)がこの価格です。
  • 判定日の出来高が直近100日平均の何倍かも併記(平均0.746倍)。1倍を明確に超えた銘柄だけが動き出す候補です。
  • 不発率70.61%を踏まえ、20営業日たっても動意がなければ外して構いません。

(3) 動き出しを確認してからのエントリー

  • 条件:終値が判定日終値を明確に上回り、出来高が直近平均を超えて増えていること。
  • タイミング:上方到達まで平均11.4営業日。翌日の寄り付きや当日の大引けでの執行でも間に合います。
  • ロスカット:判定日終値を基準に下方へ抜けたら撤退。下方ブレイクは13.98%の頻度で起きています。
  • 保有期間:本検証の上限は20営業日。動意が続かなければ時間で区切る出口を決めておきます。

(4) スクイーズを「使わない」判断も戦略のうち

今回の数字が示すのは値幅の縮小は単独では優位性を生まないという事実です。最も浅い下位10〜20%の帯(+1.063%)ですら非スクイーズ日(+1.331%)に届きませんでした。銘柄選別の入口に使うのではなく、他の根拠で選んだ銘柄の執行タイミングを測る参考情報として扱うのがデータと整合的です。

6.注意点とリスク

  • 手数料とスリッページで実際のリターンは目減りします:本検証は終値ベースの単純計算で、売買手数料・スプレッド・約定価格のズレを含みません。20営業日で+0.773%という水準は往復コストで簡単に消える大きさです。東証全銘柄が対象のため売買代金の小さい銘柄も含まれ、値幅が縮んだ銘柄は流動性も細りがちで想定より不利な価格で約定しやすい点にも注意が必要です。
  • 平均値は一部の大化けに引っ張られます:20営業日後の平均+0.773%に対し中央値は+0.207%。平均を押し上げるのは少数の大幅高です。
  • 年によって結果は大きく振れます:年別に見ると2022年-0.269%・勝率43.10%、2023年+1.009%・勝率52.22%、2024年-0.441%・勝率45.85%、2025年+2.133%・勝率58.99%、2026年+0.593%・勝率50.32%(2022年は10月以降、2026年は7月まで)。最良2025年と最悪2024年で2.575ポイントの差があり、地合いの影響が個別のシグナルより大きいとわかります。
  • 方向が読めない=「どちらに放れても取れる」ではありません:上方15.41%対下方13.98%を見て「両方に構えればどちらかが当たる」と考えるのは危険です。どちらにも届かない不発が70.61%と最多で、両方向に建てればコストは二重。7割のケースでコストだけが残る計算になり、両建て的な発想は成立しません。
  • ±10%・20営業日という基準は便宜的です:しきい値を変えれば到達率も比率も変わります。
  • 同じ銘柄が繰り返しカウントされます:静けさは持続するため1銘柄が連続して判定されやすく(判定日の14.03%が該当)、サンプル同士は独立ではありません。実質的な独立事象は件数ほど多くない点に留意してください。
  • 過去の傾向であり将来を保証するものではありません:数値は2022年10月〜2026年7月という特定期間の集計です。市場環境や参加者の構成が変われば傾向も変わります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

7.よくある質問(FAQ)

Q. ATR率はどうやって計算すればいいですか?

A. 1日のTrue Range(当日高値−安値、当日高値−前日終値、当日安値−前日終値の3つの最大値)を求め、直近14日を平均したものがATRです。これを当日終値で割って100倍すればATR率(%)になります。

Q. 値幅が縮んだ後はエネルギーが溜まって大きく動く、というのは間違いですか?

A. 半分は正しく半分は誤りです。値幅そのものは戻ります(ATR率は平均1.667%から20営業日後に2.417%へ約1.45倍)。しかし20営業日以内に±10%へ到達した比率はスクイーズ日29.39%に対し通常日32.06%で、大きな値動きが起きる確率はむしろ低下していました。

Q. 結局、上と下のどちらに放れやすいのですか?

A. 上方先行15.41%、下方先行13.98%、どちらも未達70.61%でした。上下比1.10倍とわずかに上方が優勢ですが、通常日の1.36倍と比べるとむしろ五分に近づきます。方向を決め打ちできる偏りはないのが答えです。

Q. 縮み方が深い銘柄のほうが有利ではないのですか?

A. 逆でした。20営業日後の平均は下位5%以下+0.703%、下位5〜10%+0.898%、下位10〜20%+1.063%と浅いほど良い単調な並び。上方ブレイク比率も15.26%→15.68%→16.15%と同じ順序でした。

Q. 出来高は関係ありますか?

A. 密接に関係します。スクイーズ日の直近20日平均出来高は同じ銘柄の直近100日平均の0.746倍まで細っていました(通常日1.073倍)。出来高が戻り始めたかどうかが動意を判断する手がかりになります。

Q. スクイーズ銘柄はいつまで待てばいいですか?

A. 上方へ放れたケースの到達日数は平均11.4営業日、一方70.61%は20営業日たっても±10%に届きません。20営業日後の平均は市場平均を0.481ポイント下回るため、期限を決めて動かなければ外す運用が現実的です。

Q. 値幅縮小を使ったブレイクアウト戦略は意味がないということですか?

A. 「縮小を見つけて先回りで買う」やり方は分が悪いと言えます。ただし放れを確認してから動くアプローチまで否定するものではありません。上方到達まで平均11.4営業日の余裕があり、確認を入れれば下方13.98%と不発70.61%を避けられます。

8.まとめ

スクイーズ552,193件の検証結果、要点は5つです。

  1. スクイーズ後のリターンは市場平均を下回る:20営業日後は平均+0.773%・勝率51.45%で、全営業日平均(+1.253%・勝率53.16%)に0.481ポイント届きませんでした。
  2. 放れる方向はほぼ五分五分:上方15.41%対下方13.98%(上下比1.10倍)。通常日の1.36倍より偏りが小さく、方向予想には使えません。
  3. 7割は不発に終わる:±10%のどちらにも届かない比率が70.61%。到達率もスクイーズ29.39%対通常32.06%で、大きな値動き自体が起きにくくなっています。
  4. 深く縮むほど成績は悪化する:+0.703%/+0.898%/+1.063%という単調な並び。値幅の縮小は「爆発前の蓄積」ではなく「関心の低下」を映していると考えるほうが整合的です。
  5. 値幅は戻るが大相場にはならない:ATR率は1.667%から2.417%へ約1.45倍に回復する一方、20営業日の騰落幅の絶対値平均は6.318%と通常日の6.672%を下回りました。

「静かなチャートは大相場の前触れ」という物語は魅力的ですが、552,193件のデータはそれを支持しませんでした。値幅が縮んだ銘柄は買って待つ対象ではなく、動き出したかどうかを確認する対象です。出来高が戻り値幅が広がってから動いても、上方到達まで平均11.4営業日という時間軸なら間に合います。先回りの誘惑を数字で手放すことが、静かなチャートとの正しい付き合い方です。

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「株システムトレードの教科書」の記事は、機関投資家出身・証券アナリスト検定会員の西村剛が、統計データ・システムトレード・ファンダメンタルズを融合して解説しています。
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